君らに幸せになって欲しい
だんだんと前方が開けて来たのが光の量でわかる。頂上の鏡が原が近付いて来ているのだ。
施設長が話してくれたむかしむかしの王様は、お城のどこで入口を見つけたんだろう…
それとも入り口なんか見つからず、王様はすぐあきらめてしまって、天女もさっさと空に戻ったのかもしれない。
もくもくと歩く私たちの目の前が急に開けた。
…うわ、…
「お~~~」とか「ふわ~~」とかみな口々に感嘆の言葉を口から漏らし、立ち止まった。
目の前には本当にただっ広い草はら。山の緩やかな丸みをおびた頂上全部が草原になっているのだ。向こうに連なる標高の高い山々も見えるが、この山の頂だけは人工のもののように丸く緩やかに、ただただ広い。
施設長の声が前の方からする。前に進むように促され、私たちは自由時間を与えられた。施設長がメガホンを通して言ったのだ。
「お弁当を食べたり、走り回ってもいいし、転がり回ってもいいし、寝転んで光のうずまきを見つけても良いし、昼寝しても良いですよ。みんな気付いていますか?あんなに夕べ雨降ったのに、全然濡れてないでしょう?ね?不思議ですね」
ザワザワザワザワ…
「ここはそういう所なんです」
ザワザワザワザワ…
「あ、でも誰かに起こすのを頼んでおかないと。時間どおりに撤収しますからね。起きないで寝ていると置いてけぼりです」
昼食は班で食べなくてもいいという話になった。自由に食べて自由に鏡が原の中で過ごす。施設長は言った。
「あんまり…ていうか絶対に、周りの森には勝手に入って行かないようにね。本当に獣しか通らないけもの道や、どこに抜けているか山の持ち主にもわからない抜け道とかもあるからね。トイレがないんでね…行きたくなったら言ってください。私が一緒に森に入って穴を掘ってあげます」
「え~~~!」とみんな騒ぎはしたが、バラバラと散らばって行く。
私は一緒に登ってきたユリちゃん、カリヤさんと一緒にいたが、アキラを目で探した。結局ユリちゃん、カリヤさんと一緒に、アキラ達の班もまた一緒になってお弁当を食べる事になった。部屋割そのままのメンバー。
「イマイさんがカミカミと一緒がいいって言うから」とササキさんが言った。「私たちも一緒に来ちゃたんだけど、いい?」
私もユリちゃんもカリヤさんもうんうんとうなずき、私たちは6人で丸くなる。
なんか、このメンバー結構居心地が良い…
私たちは施設で用意してくれたお弁当をリュックから取り出した。
ガサガサガサガサ…新聞紙の音だ。新聞紙の包みを取ると中から竹の皮の包みが現れる。
「きゃ~」とユリちゃん。「凝った感じ。なんかおしゃれだね!」
竹の皮の包みを開くと中からおにぎりが3つ。おにぎりもおしゃれだ。高菜の葉巻きと海苔、紫蘇巻きの3種類。後は沢庵と玉子焼きが二切れとウィンナーが2本、唐揚げが2個ずつ。男子はこれで足りるのかな、と思ってそばの男子のお弁当を見ると、私たちのよりおにぎりがちょっと大きい。持参した水筒に、朝お茶を入れてもらったのも取り出して、私たちは喉をうるおした。
「なんかこういうとこでこんな感じのお弁当って、いいねぇ」とユリちゃんがうっとりとため息をつくように言うのでみんなうなずく。
本当にすごく美味しい。
「あの施設長が話してくれた天女と王様の話ってさ、」とユリちゃんが言う。「最後どうなるんだろうね。なんか施設長の作り話っぽかったけど、ちょっと気になった」
「なんかちょっと面白いよね、施設長」とハルノさん。「…ビジュアル、アインシュタインに似てない?」
「いや、ちょっとわかないけど」ユリちゃんが答える。
「あの続き教えてやろうか?」
そう言ったのは見回って来た水本だった。
私たちがふいに話かけられて驚いている間に水本は話始める。
「王様のお城の、神様に祈りを捧げる間に大きな鏡があってな、ある日王がその鏡の前に立ったら、鏡が一瞬ピカーって光ってそして鏡の面がゆらん、て揺れたんだよ。ゆらん、ゆらん、と水面みたいに揺れる鏡の面に、王がそっと手を当てたらなんと、王の腕はすっとその鏡の中に…気付くと王は灰色の空洞の中にいて、長い長いその空洞を抜けて、この鏡が原に着きましたって話。…なぁみんな弁当うまい?うまいよな!…そっか良かった」
水本が他のグループのところへ移ろうとするのをカリヤさんが止めた。
「先生!天女と王様は結ばれました、って話で終わるんですか?」
「んん~…」水本がうなる。「でもオレが知ってんのはさっき話したとこまでなんだよ。王様が鏡が原に着きましたってとこまで。その後どうなりました、って話は知らない。王様が鏡が原に着いても、もう天女は現れなかったかもしれないし、逆にずっと王様が来るの待ってて待ちくたびれて帰っちゃったかもしれないし。再会して燃え上ってもすぐ冷めちゃったかもしれないし」
なぜに女子高生にそんな夢のない話をする水本。
「幸せな結末を望みたくて、俄然自分の望む結末しか許せない人もいるし、なんかやっぱダメだったのかもってネガティブな結末をどうしても考えてしまう人もいるかもしれないし。な?人それぞれで逆に面白いんじゃない?」
「先生はどう思うんですか?」とユリちゃん。
「オレか?オレはねぇ、…どうでもいいな」
へ!?という顔で6人一斉に水本を凝視だ。
「そんな目で見るなお前ら。人を心のない人間みたいに。別にその先に興味がないっていうか…今現実にいるやつの事ならすげぇ気になるけど。だって所詮お話じゃん。もし実際にいた人たちの話だとしても、むかしむかしの話じゃん。先生はな、オレが受持った今ここにいる君らの全てに幸せになって欲しい。本当にあったかどうかわからないむかしの話なんてどうでもいい」
それがどのくらい本気かどうか私たちが判断出来ないうちに、水本はよそのグループへ移動してしまった。
「なんか私…」とユリちゃんが言う。「変だとは思うんだけどさ、今の水本の事、すんごい良いなって思っちゃったんだけど、キモい?」
ハルノさんとササキさんがブルブルと首を振って言った。「「気持ち悪くないよ。私も今、ちょっといいなって思った!ていうか、水本がいいなって思った!」」
マジで!?




