誰かの特別
水本が私たち6人を見回してニッコリと笑って言う。
「ウエダは好きな子いるってみんな断ってたって先生聞きました~~」
「先生~!」とユリちゃん。「それってやっぱジュンちゃんの事でしょ?先生は?先生は今彼女いないの?」
「います。先生はモテモテだから。じゃあみんな良い子にして。はい、じゃあ先生を中心にして、はいみんな顔近付けて」
水本がスマホで記念撮影をする。
え?本当に記念撮影するんだと思っていたら、いつもそんなみんなで何かをするって事には無関心なアキラが、率先して私の肩を掴んで来て、それに驚いているうちに、写真を取る瞬間ほっぺチュウをされた。
「「「「きゃぁ~~~~」」」」と騒ぐ4人。
「イマイ~~」となじる水本。
「まぁいいけど」と水本が言った。「明日も結構日程きついからな。早く寝るんだぞ」
「もう~~~」とカリヤさんが水本がいなくなった後で残念そうに唸る。「私こんなところでこんな話してないで、さっさとウエダ君とこ行けば良かった~~」
「こらこら」とユリちゃん。「こんな話って…。充実してるじゃんうちの恋バナも」
「私あきらめないんだ」とカリヤさん。「ウエダ君がジュンちゃん好きでも、だからって嫌いになれないもん。やっぱ好きなままだもん」
お~~~、と思う。
結局優しい目でカリヤさんを見つめる私たちだ。でもよくそんな風にまで思えるな…というか、そこまで誰かを好きになってしまったら、他の事が全然見えなくなって気持ち悪そう。
実際今私、やたらウエダの事を考えちゃうけど…
「そんな事ないよ」と意外にアキラが口を出した。「しばらくはそうでも、カリヤさんの事をすごく好きになってくれる子が出来たらカリヤさんの気持ちも変わるよ。カリヤさん可愛いから」
ほんと、意外。アキラが私以外の子にそこまで言うなんて。みんなも「意外」って顔をしている。
「ありがとう」と頬を染めるカリヤさん。「イマイさんて本当にカッコいいね」
…なんかちょっと…あれ?
…なんかちょっと私…今までになくカリヤさんに嫌な気持ちを持っちゃったんだけど…
アキラが私の事を性別関係なく好きだと思ってくれるのはイヤだと思わないのに、カリヤさんがウエダに思うような気持ちをアキラに持ったらイヤだなって思う私。
なんだろうこれ、ヤキモチ?友達としてのだよね?一番の友達が他の子に優しくしてるから嫉妬してるの?めんどくさいな私。
人の気持ちって難しいね!
自分だけがやっぱり、誰かの特別でいたいんだな。
うんうん、と心の中で納得したところでユリちゃんがメモ帳を5枚切り離し、それに名前と、ケイタイの番号を書き込んで私たちに渡してくれた。
「みんなラインしてよ?」とユリちゃん。「私、帰ってからもここでの変な一体感を引きずりたい!」
合宿2日目の朝。
施設長の予言通りにからりと晴れた。昨日の雨も分厚い暗い雲も、停電と雷も、もしかしたらみんなで一斉に見た夢かと思うくらいの澄み切った青い空だ。木々の緑が際立って、木の葉の一枚一枚にも朝の光がキラキラと反射して眩しさを覚える。
朝ごはんは昨日の調理場に移動し、すでに作ってあったいろいろな惣菜をバイキング方式で皿に取ってそれぞれの班に分かれて食べる。
寝起きのウエダは機嫌が悪そうだ。ハセガワ君は朝からピシッとしていて、タケノシタ君は髪に寝ぐせがついていて可愛い。
安直過ぎるが夕べはウエダの夢を見てしまった。教室でも、校庭でも、下校中でも、どこにいてもずっと私の手を繋いで来るウエダの夢。
そして今朝起きたら私の隣に敷いていたアキラの布団が、私の布団にくっつけてあって私は手を握られていた。
これか…このせいだな…と、先に目を覚まして手を取ろうとする私に、目を覚ましたアキラが「手ぐらい良いじゃん、友達なんだし」と言い、「「そうだよ、手ぐらい良いじゃん。合宿なんだし」」とササキさんとハルノさんが言ったのだ。
合宿前に学校で私を廊下に呼び出したときには、二人ともアキラの事を苦手だと言っていたくせに。
…なんだろう…気のせいかな、私たちのテーブルの脇を通っていく他のクラスの女子たちがやたら私を見て行くような…
「夕べさぁ」とタケノシタ君。「オレらの部屋、立て続けに他のクラスの女子来て、ウエダ告られてた」
「言ってた言ってた」とユリちゃん。「先生が回って来た時言ってたよ」
無言でみそ汁をすするウエダ。
「私も行けば良かった~~」とカリヤさん。「ウエダ君とこ行きたかったのに、みんながお話しようって言うから~~」
「さすがにうちのクラスの子はいなかったけどね」とタケノシタ君が言うと、それを受けて、「あ~まあね。みんなジュンちゃんの事好きだって知ってるもんね」とユリちゃんが言った。
そして、ハハハハハ、と声を合わせて笑うユリちゃんとタケノシタ君。知らん顔でご飯を食べ続けるウエダ。
目を泳がせるカリヤさんにいたたまれない私。
目をキラキラさせたユリちゃんがさらに余計な事を聞く。「さっきからジュンちゃんが他クラの女子に見られるんだけど、もしかしてウエダ、昨日部屋に来た女子にはっきりジュンちゃんが好きって言っちゃったの?」
「あ~それは」とビミョーに笑いながらタケノシタ君が言う。「告りに来る子たち以外に、付き添いで来てた子たちが『じゃあ誰が好きなの』って騒ぎ出して、それがちょっとうるさくなってきたからハセガワが、『ウエダはうちのクラスのカミバヤシが好きだから』って言って無理矢理ドア閉めたっていう…」
「え…」言葉を失うカリヤさん。
カリヤさんの泣きそうな顔をしているのを見て、それなのに「仕方ないよ」とハセガワ君がさばさばと言った。
「事実だし。外野が多くてイライラしたし」
そんな話にまったく動じずもくもくと朝食を口にするウエダ。そうだともそうじゃないとも言わない。
夕べも思ったけど、ウエダの食べ方綺麗だな。美味しそうに食べるし…それで私の方を見ようとしないし。
「あれ?ジュンちゃん赤くなってる?」とユリちゃん。
「へ?」
驚く私にニッコリとユリちゃんが笑う。
「すごいよね」とタケノシタ君が余計な事を言いそうだ。
「夕べ部屋戻る時だってウエダからカミバヤシに手を振ったりするしさ、オレ、ちょっとビックリしたもん。ウエダって結構可愛いいんだなって…」
「やだぁぁ~~~~」とカリヤさんの声がタケノシタ君の声にかぶさった。「もう~~合宿最悪~」
「こらこら」とユリちゃんが笑いながらカリヤさんを注意する。「そんな事言っちゃダメ」
ウエダがそれについても何も言わないので、私ももうもくもくと朝食を食べるしか出来なかった。




