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今日の分、なんとか終わった。私は凝った肩を解しながら、シャロルの淹れてくれた紅茶でひと息吐く。
「お嬢さま、お疲れさまです」
イサーラはそう言うと、書類の束を綺麗にトントントンと、まとめ、
「それでは、私は此れ等を王宮に届けて参りますので失礼します」
「ええ、お疲れさま、イサーラ」
執務室を出て行くイサーラを見送った。
「お疲れさまです、お嬢さま、お昼ですよ。今日はサンドイッチです」
「ありがとう、シャロル。一緒に食べましょう」
「はい、お嬢さま」
昼食は手軽に食べられるサンドイッチのようで、執務室の応接セットの上に広げられた。
私は飲み干した紅茶のカップとソーサーをシャロルに手渡すと、応接セットのソファに腰掛け、シャロルがソファに腰掛けるのを待ち、
「では、頂きましょう」
私たちは簡易な精霊への祈りを捧げて、サンドイッチに手を伸ばした。
午後は我が侯爵家が土地の代わりに特権として持つ商会の仕事である。商会のロゴが入った馬車が我が家の敷地に入ってくるのを窓越しに横目に見ながら、私はワクワクしていた。
以前までは、やりたくても見ているだけだった。マジックアイテムの開発である。
私はワクワクをなんとか抑え込み、自分の執務室の机の椅子に座る。
──コンコンコン。
「クリスティーナ様、ナルタス様、サミラーナ様をお連れしました」
「どうぞ、入ってください」
私の許可で執務室の扉が開かれ、三人の人物とシャロルが入ってきた。
私は席から立ち、
「お待ちしてました。ナルタス様、クリスティーナ、サミラーナ!」
三人を歓迎する。
「ほっほっほっ、大きくなりましたな、お嬢さま」
「お久し振りね、これからは商会の者として宜しくね」
「あ、あの、私なんか、このようなお屋敷に、お呼ばれしてよろしいのでしょうか」
三者三様の挨拶。私は三人にソファに座るようにすすめ、私もソファに座る。
「さて、積もる話の前に。
シャロル、例の物を」
「はい、畏まりました。皆様、少々、お待ちを」
そう言うと、シャロルは使用人用の扉を通って退室。直ぐに戻ってきたシャロルの手の中には大量の丸まった用紙があり、彼女はドサリと執務室の応接セットのテーブルに広げた。シャロルに持ってこさせたのは私がこれまでに描き留めた数多の魔法陣の数々。執務室の応接セットのテーブルの上に収まらない程の量でいくかは床に転がってしまった。
「これは?」
ナルタス様の言葉に私は胸を張り、
「はい、私が今日までに描き留めた魔法陣ですわ。できれば、私の第一号となるマジックアイテムはこの中から選んで頂けると幸いです」
ナルタス様は手近なところにある魔法陣を次々と手に取り見比べ、
「……成る程、これらはいずれも中々に面白い商品になりそうな物ばかりですな」
そうお誉めの言葉を頂いた。
「……これは、方位探知器?」
クリスティーナも一つを手に取り、矯めつ眇めつしている。
「……えっと、え?! こ、コレ、なんて魔法陣を?!」
おや? サミラーナは、私がつい出来心で描いた魔法陣を手に取ったようで、ワナワナと震えていた。
然もありなん。それは私が火薬花火の代替として構築した魔法陣。火薬はこの世界でも取扱い注意の劇物。それを安全な魔法陣に置き換えれば、おそらくこの国中──いや、全世界でも打ち上げ花火が気軽に楽しめる、筈である。
「──……ば、爆発だけで、この王都の半分は吹き飛び、爆風を加味したら王都は一瞬にして灰燼に帰してしまいます!!」
──は?
「……ちょ、ちょっと、サミラーナったら、何を仰ってるの? それは、火薬花火の代替として考案した魔導花火の魔法陣よ」
私はサミラーナの間違いを訂正する。まったく、何処をどう見たら、花火の魔法陣が大量破壊兵器の魔法陣に見えるのよ!
しかし、ナルタス様が席を移動して、サミラーナの手の中の魔法陣をよくよく見て、
「お嬢さま、コレは確かに“トンデもない爆弾”の魔法陣ですな」
「……えーっ!? そ、そんな、筈は……」
私は魔法陣が描かれた用紙をサミラーナから引っ手繰るように手に取り、魔法陣の構成に目を走らせる。
「アレがこうで、そうなって、で、あちらがこうなり、綺麗な花火がパァーンと…………やっぱり、ちゃんと花火じゃない!」
私は力説した。ナルタス様とサミラーナに。コレは花火であり、決して爆弾ではないと。しかし、魔法使いの二人の意見は爆弾と決め付け、頑なに「コレはダメ!」の一点張り。花火であると確信している私。話は平行線で小一時間が経過した頃、
「──なら、威力を弱めた試作品を作りましょう。それで、白黒を着ければよいのでは?」
そう言ったのは、蚊帳の外だったクリスティーナ。まあ、クリスティーナは商会との繋ぎがメインなので魔法陣談議には参加できないので致し方ない。だが、彼女の出した案は実に的を射ていた。
「それは良い案ね。ナルタス様もサミラーナも、試作品を見ての判断でよろしいですね?」
「…………うむ、致し方ないの……」
「…………知りませんよ……、大爆発しても……」
一先ず、花火の魔法陣が、花火か爆弾かの真偽は試作品で決着を、とのことに相成った。
それからは、製作コストが無難なこれまでとは異なる作りの新作の魔導灯──懐中電灯が開発候補になった。発光部分にフィラメントを用いた物で、発光部分の交換が必要な代物だ。なにしろ、私考案の懐中電灯は金持ちでなくとも扱える。その理由は電池にあたる魔力を空気中から取り込む仕様。極秘であるが、魔法陣の中に魔法使いでなくとも、魔法陣を起動させる術式を発見! 今現在、この誰でも使えるようになる魔法陣は何処にも公表されていない。更に、魔法陣を隠蔽する魔法陣も発見してリスク管理も万全。既製品に、誰にでも扱えるマジックアイテムとして魔石を電池代わりにするタイプが出ているが、魔石は今やクズ石でもそれなりの値段になる。即ち、私の案は、誰にでも扱えるマジックアイテムの新たなパイオニアになれる絶好の好機である。
こうして、記念すべき第一回のマジックアイテム開発会議は幕を閉じるのだった。




