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夏! そう夏と言えば、海! この世界に生まれて早十五年。オレは無性に誠と海に行きたかった。前世では、親に連れられ、幼馴染みの誠と共に毎年、海に行っていたが、この世界ではいまだに行けていない。
夏は地球よりも猛暑や酷暑は皆無。だが、今世の誠との家の格の違いやら、海のレジャー化が近年になって漸くなったなどの文化的環境により、海には一度も行けてはいない。だが、今年は違う! オレは誠の執事になったのだ! 侯爵家の中枢にいるのだ! ここは意見を具申するのが上策と思い、つい先日、侍女として雇われた行き倒れのビヴィア──此奴の頭の中は、この世界を地球であった乙女ゲー世界と勘違いしている──とともに誠に其れとなく訴えた。が、即却下。
しかし、天は見捨てていなかった! 誠の父親の侯爵が、海へのバカンスを提案したのだ。さすがの誠も父親たる侯爵の提案を拒む事は無く、海に行きが確定。
──なのだが、
「なんで、お前と一緒に買い出しなんだ?」
「それは、こっちのセリフ! なんで、お嬢さまでなく、モブの執事と買い出しなのよ!」
王都の繁華街をビヴィアと歩くオレ。
誠はシャロルや他侍女と一緒に車で買い物に行ったのに、オレはビヴィアと二人虚しく徒歩で繁華街だ。
一先ず、リストにある店に行って、それから自分の買い物して、後は……──
「お! ねえねえ、見てよ! あのドレス。庶民向けにしては華美ね!」
──ん?
「あ、ああ、確かにな……」
オレはウィンドウに飾られたドレスを見て、ふと、前世の自分が着た姿を想像した。うん、イイな。
オレは思わず、そのドレスを食い入るように見やる。
どれくらいそうしていただろうか。
「──ねえ、ウィル。貴方、前世は女だったのね」
「……ああ。ッ!? 違う! 今の無し!!」
見蕩れていたところへの不意打ちの質問に、思わず本当の事を答えてしまったが、直ぐ様に否定する。しかし、ビヴィアはニタニタと笑い、
「……やっぱりね。そういえば、貴方が呼び掛けた際にお嬢さまが一睨みするけど、あの時、貴方は「マコ……」って言ってたけど、アレはお嬢さまの前世の名前ね♪」
「ッ!? 誠は関係ない!」
「…………へぇ~、お嬢さまの前世の名前は“マコト”っていうのね。どんな字を書くの?」
──しまった!! 思わず、口走ってしまった。
「ねえねえ、教えてよ♪ どんな字を書くの? 真に琴と書いてマコト? それとも、新選組の旗印の誠って書いてマコトかな?」
──ドキッ! それは無意識だったが、体が反応してしまった。
「ふーん、“誠”ね。…………ってことは、お嬢さまの前世は男の子なんだ!!」
これ以上は、黙秘。その筈だったが、体がまたしても、ビクッと又も反応してしまった。
「……なる程、成る程。これで、この世界が乙女ゲー世界と確信したわ!」
「な、なに言ってるのよ! そんなワケ、ないじゃない!!」
「あら? だって、貴方たち、前世では幼馴染みだったんでしょ?」
「なっ!? なんで、あんたが知って……──ハッ!」
──あ……、鎌賭けのハッタリ。
オレの──私の心の内を覗き見られたような感覚。キモチ悪い……。
「ふふふ、ビンゴ♪ ますます、この世界は乙女ゲー世界ね♪ なにしろ、お嬢さまとモブと思ってた執事との恋! 然れど中身の前世は互いにあべこべの幼馴染みだった! これをフラグの采配と言わず、何と言えばいいのかしら?」
「そんな筈ないわよ! フラグなんて、誰かに管理された世界なんて在るわけないじゃない! この世界は、列記とした現実の世界! フラグなんてまやかしよ! そういえば、アンタ、海では分岐イベントがどうこう言ってたけど、そんなモノが無いこと証明してあげる!」
「いいよ、その勝負、乗ってあげようじゃない! ふふーん、運命を左右するフラグの怖ろしさに震えるがいいわ!」
私は感情の発露のままに、ビヴィアに勝負を挑む。……しかし、後になって、よくよく考えたらどう勝負するのか、オレは首を傾げたのだった。




