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侯爵令嬢は商会に引きこもりたい!  作者: 白月 仄
1話 一章 侯爵令嬢はつらいよ
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3/8

 前世に思いを馳せていた私は現在に意識を戻し、

「? いや、俺、執事見習いになったんだぜ! お前付きの、な!」

「は? ふざけないでよ!」

 私は声を荒らげる。当然である。ウィルは前世の性格を──いや、意識をそのまま受け継いでいた。その悪癖は火を見るより明らか。

「なんだよ、そんな目くじら立てなくても……」

「いいから、直ぐに自分の部屋に戻りなさい! でないと──」

 私の拒絶に対して、ウィルは、

「──でないと、なんだい?」

 得意満面な笑顔になり、迫ってくる。

 一瞬、ドキッとしてしまった。

 おそらく彼は前世の間柄と今は二人きりという状況故に、このような態度に出ているのだろう。だが、それでは貴族社会ではダメなのだ。

 私は毅然とした態度で、

「──即刻、我が屋敷から出て行ってもらいます!」

 淡々とそう答える。

「えー!? そりゃ、ないよ! なあ、前世からの間柄じゃん!」

 私の肩を抱いて、親しそうに話し掛けるウィル。当然、私は彼の手を払い除けて、

「ウィル。いいから、自分の部屋に戻りなさい!」

 冷徹に告げる。

 そして、私はウィルのことを無視してクローゼットへ。普段着のドレスを手に取り、

「いつまでいるの? 着替えるから、貴方は部屋に戻りなさい!」

「え? マジ? なら、手伝ってやるよ! ほら、俺、前は女……──」

「──いいわよ! 本当に自室に戻りなさい!!

 シャロル! シャロル!」

 ウィルのアホな発言に断固拒否。当たり前である。私はシャロルを呼ぶ。すると、使用人用の扉を通り、仕事着に着替えたシャロルがやってくる。

「はい、お嬢さま。どうしました?」

「シャロル、この不埒な執事見習いを追い出して」

「はい、畏まりました」

「え? ちょっ、まってよ! シャロルも、止めて……──」

 ──バタン。と使用人用の扉をくぐって、ウィルはシャロルによって排除されるのだった。


「──クンクン、あら、今日のディナーはクリームシチューなのね」

 食堂に移動した私は厨房から漂う匂いにお腹がグーグーと鳴ってしまう。我が家は侯爵家ながら、アットホームで住み込みの使用人たちと一緒にディナーを食べる。理由の一つにシャロルの家は代々我が家の従者として仕えており、家族同然である。それに、普段は他の地位のある貴族の目もないので、このようなスタイルなのだ。

 主──お父様が座る席は空席。どうやら、今日も王宮での仕事が立て込んでいるようだ。

 ディナーの準備が整い、皆が席に着いたところで、お母様が代表して、

「では、精霊の皆々に日々の糧を授かりし感謝を」

 精霊に──八百万の神々に感謝を──お祈りしてからディナーを食べる。

 祈りの静寂が済むと、食器の音や話し声が響いた。

 私は食事をしながら、

「ゲイル、なぜあのような者を私の専属の執事見習いにしたのですか?」

 我が家を預かるゲイルに問う。外部からの使用人などの雇用はスチュワードのゲイルの管轄。

「……確かに、お嬢さまに対して、あの者は分を弁えない態度ですが、……」

 ゲイルはそこで声のトーンを落とし、

「……彼の発言は歯に衣着せぬ突拍子のないものばかりです。故にお嬢さまのお側に置いて監視がよろしいかと思いまして」

 そう答えた。確かに、ウィルは前世の感覚で物を言う。それは、貴族社会が浸透しているこの世界では危険思想に他ならない。

「……分かったわ」

 私は渋々とゲイルの采配を了承する。


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