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前世に思いを馳せていた私は現在に意識を戻し、
「? いや、俺、執事見習いになったんだぜ! お前付きの、な!」
「は? ふざけないでよ!」
私は声を荒らげる。当然である。ウィルは前世の性格を──いや、意識をそのまま受け継いでいた。その悪癖は火を見るより明らか。
「なんだよ、そんな目くじら立てなくても……」
「いいから、直ぐに自分の部屋に戻りなさい! でないと──」
私の拒絶に対して、ウィルは、
「──でないと、なんだい?」
得意満面な笑顔になり、迫ってくる。
一瞬、ドキッとしてしまった。
おそらく彼は前世の間柄と今は二人きりという状況故に、このような態度に出ているのだろう。だが、それでは貴族社会ではダメなのだ。
私は毅然とした態度で、
「──即刻、我が屋敷から出て行ってもらいます!」
淡々とそう答える。
「えー!? そりゃ、ないよ! なあ、前世からの間柄じゃん!」
私の肩を抱いて、親しそうに話し掛けるウィル。当然、私は彼の手を払い除けて、
「ウィル。いいから、自分の部屋に戻りなさい!」
冷徹に告げる。
そして、私はウィルのことを無視してクローゼットへ。普段着のドレスを手に取り、
「いつまでいるの? 着替えるから、貴方は部屋に戻りなさい!」
「え? マジ? なら、手伝ってやるよ! ほら、俺、前は女……──」
「──いいわよ! 本当に自室に戻りなさい!!
シャロル! シャロル!」
ウィルのアホな発言に断固拒否。当たり前である。私はシャロルを呼ぶ。すると、使用人用の扉を通り、仕事着に着替えたシャロルがやってくる。
「はい、お嬢さま。どうしました?」
「シャロル、この不埒な執事見習いを追い出して」
「はい、畏まりました」
「え? ちょっ、まってよ! シャロルも、止めて……──」
──バタン。と使用人用の扉をくぐって、ウィルはシャロルによって排除されるのだった。
「──クンクン、あら、今日のディナーはクリームシチューなのね」
食堂に移動した私は厨房から漂う匂いにお腹がグーグーと鳴ってしまう。我が家は侯爵家ながら、アットホームで住み込みの使用人たちと一緒にディナーを食べる。理由の一つにシャロルの家は代々我が家の従者として仕えており、家族同然である。それに、普段は他の地位のある貴族の目もないので、このようなスタイルなのだ。
主──お父様が座る席は空席。どうやら、今日も王宮での仕事が立て込んでいるようだ。
ディナーの準備が整い、皆が席に着いたところで、お母様が代表して、
「では、精霊の皆々に日々の糧を授かりし感謝を」
精霊に──八百万の神々に感謝を──お祈りしてからディナーを食べる。
祈りの静寂が済むと、食器の音や話し声が響いた。
私は食事をしながら、
「ゲイル、なぜあのような者を私の専属の執事見習いにしたのですか?」
我が家を預かるゲイルに問う。外部からの使用人などの雇用はスチュワードのゲイルの管轄。
「……確かに、お嬢さまに対して、あの者は分を弁えない態度ですが、……」
ゲイルはそこで声のトーンを落とし、
「……彼の発言は歯に衣着せぬ突拍子のないものばかりです。故にお嬢さまのお側に置いて監視がよろしいかと思いまして」
そう答えた。確かに、ウィルは前世の感覚で物を言う。それは、貴族社会が浸透しているこの世界では危険思想に他ならない。
「……分かったわ」
私は渋々とゲイルの采配を了承する。




