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自分の足で街に出るのは、約三月ぶり。貴族街を抜けると広場が広がる。
広場では幾人の吟遊詩人たちが謳う“サミラーナを讃える歌”が響いていた。
──よしよし、マジックアイテムの要の魔法陣の開発者のスケープゴートのサミラーナの名は順調に売れている。
ぶっちゃけ、私は名声よりも皆を──貴族や平民関係なく可能な限り高水準の文明利器を待って豊かな生活が送れることを望んでいる。まあ、この考えの大元は、十中八九で前世の記憶の影響であることは間違いない。
なにしろ、この世界は前世の明治時代から大正時代に相当している。詰まりは、技術的革新が起きている過渡期。
ならば、その先駆けとなる種火を投下すれば、自ずと技術は加速度的に飛躍することだろう。
勿論、我が家の商会で独占する技術を、独占する事は忘れない。他商会へのアドバンテージは常に取っておかないと。
「──なあなあ、マコ……お嬢さま、あれ、美味そうだぜ!」
それにしても、ウィルは、まったくと言っていいほど、私の事を前世の名前で呼ぼうとする。その度に私は彼を一瞥して、言い直させる。はぁー、私が五月病に掛かったときに言った本音、もしかして、ウィルには病人の戯言と捉えている可能性は……、……大いにアリね。
「はいはい、今行くわよ」
店先で串に刺さったお肉が、いい匂いを漂わせていた。繁華街に入って直ぐにある串屋の看板メニュー。その匂いはお腹を見事に刺激してきた。
「え? そんな、贅沢品、食べられるの?!」
どうやら、ビヴィアには串肉は贅沢品のようで、目を輝かせていた。そういえば、ビヴィアは転生者のクセして、我が屋敷に着たときは旅装束だけだったっけ。いったい、我が家で侍女見習いになる前はどう生活していたのやら……。
「お嬢さま、買ってまいりました」
「ありがとう、シャロル」
シャロルが素早く、串屋で人数分の串肉を買ってきて、皆に配る。
「うっはー、マジ美味ーェ♪」
「こ、これは、なんたる美味ぃ♪」
ウィルとビヴィアは早速に齧り付いて、ご満悦。私も一口パクリと、
「本当、美味しいわね♪」
「はい、美味しいですね、お嬢さま♪」
シャロルと串肉を食べる。
それから、私たちは陽が傾くまで街中で遊び歩いた。
途中、ビヴィアが迷子になりかけたが、無事に発見。ってか、よく、そんなんで旅していたな、と私は思った。
「さあ、そろそろ屋敷に戻りましょう」
「はい」
「うっす」
「えー!?」
私の言葉にシャロルとウィルは賛成。そして、ビヴィアが案の定の反対的態度。この辺は想定済みなので、
「ウィル、ビヴィアが疲れて眠いそうだから、負ぶってあげて」
「え? オレが?」
「ちょっ、待ってよ! 私はまだまだ元気よ! 眠くなんて、全然…………zzz……」
ビヴィアの背後に回ったシャロルが、いつもの手でビヴィアを眠らせる。眠ったビヴィアはシャロルに凭れかかり、
「ほら、ウィル。ビヴィアは寝てしまいました」
「…………あ、ああ」
シャロルからの言葉に、釈然とはしないが眠るビヴィアを背負うウィルであった。
「さあ、英気は養いました。明日からも頑張っていきましょう!」
「はい、お嬢さま」
「ああ、そうだな、マコ──お嬢さま!」
「zzz」
地面に落ちた影が長くなる中、私たちは意気揚々と屋敷への帰路を進むのであった────
1話 了




