20
ウィルの仕事に“執務室で寝るビヴィアを部屋の隅に退ける”が追加されて早くも一ヶ月が過ぎた。
相も変わらず、お父様からの仕事中はビヴィアはスリープの魔法陣の札で眠りこけ、執務室の端に放置された。
そして、現在は午後。
今日はナルタス様たちが来る日。
私は彼らの到着が待ち遠しい。なにしろ、マジックアイテムの打ち上げ花火の試作品の実験日が間もなくだ。
「なあ、マコ──お嬢さまは、なんでそんなにソワソワしてるんだ?」
前世の名前で呼ぼうとしたウィルを一睨み、だが、彼の砕けた口調は咎めない。それだけ、私は待ち遠しいのだ。
シャロルが玄関にナルタス様たちを迎えに行っており、現在、執務室には私とウィル、それと、寝ているのかタヌキ寝入りか判別不能なビヴィアがいる。
私は聞きたそうなウィルに言う。
「決まってるでしょ。マジックアイテムの打ち上げ花火の試作品がもうすぐ打ち上げ実験なのよ? 既に打ち上げの日取りは間もなく、場所もちゃんと押さえてあるんだから、楽しみじゃない♪」
「──打ち上げ花火!? マジかよ!」
「ええ、大マジよ♪」
ぶっちゃけ、この世界の花火師は、前世の日本の花火師には遠く及ばない。それ故の、マジックアイテムでの打ち上げ花火だ。それに、この世界の花火師には危機意識に欠けていた。それも、私がマジックアイテムの打ち上げ花火を考え出した経緯である。
──コンコンコン。ガチャリ。
「クリスティーナ様たちを、お連れしました」
シャロルの言葉と共に私の執務室に入ってくる三人。
「待っていたわ。ナルタス様、クリスティーナ、サミラーナ。」
私は応接セットのソファーに移動。三人が座るのを待って、先ずは、売上と市場の動向などの報告をクリスティーナから受ける。
「──以上になります」
クリスティーナの報告に私は満足した。空気中の魔力で作動する懐中電灯と庶民向けの明かりの普及は順調。さらに、湯沸かし器も上々の滑り出し。魔石型のコンロの方も、早くも他商会から模倣品が来月から裕福層や貴族向けに販売されるそうだ。
予想通りに事が運ぶことに少し慄く。きっと、今が気の引き締め時なのだろう。だが、つい、ニヤニヤが止まらない。何しろ、打ち上げ花火だ。娯楽に飢えた私には魔法陣しかなかった。故に、ある程度の魔法陣の知識があれば気楽に打ち上げられる花火が実用化されれば格好の清涼剤になろう。
「のう、お嬢さま。本当に試作品の打ち上げをするのかい?」
「そう心配なさらずとも、大丈夫ですわ。ちゃんと、もしもが起きても安全な場所を確保してあります!」
私は胸を張ってそう断言する。しかし、なぜか、ナルタス様以下、クリスティーナ、サミラーナも顔を見合わせて不安げな様子。そして、クリスティーナが代表して答える。
「実はですね……、その……────」
クリスティーナが話した内容はこうだった。
どうやら、スーバニュ商会が大規模なマジックアイテムの試作品の実験をする日取りが、世間に予定外に漏洩。どうやら、何者かによるリークらしい、とのこと。さらに、そこに様々な尾ビレが付いた結果、悪党連中が後ろ盾の侯爵家の令嬢が実験の視察に来る時を狙って、一騒動起こそうとしている。とのこと。
「……ふむ。詰まりは、私が狙われている、と?」
「うむ、そうなるのう」
ナルタス様の肯定にクリスティーナとサミラーナも頷く。
だが、三人には悪いけど、私は試作品の実験の成果をこの目で確かめたい! ならば、どうするか? 私は考えを巡らせながら、視線をなんとなしに動かしていると、執務室の隅に転がる女に目がとまる。
「……ふむ、丁度いいわね────」




