18
前世の癖で、玄関まで三人をいつものように見送った私。その時、
「──コラッ! 勝手に敷地内に入るな!」
門番が何やら不審者を取り押さえていた。取り押さえられているのは年格好からして、私と同年代と見られる少女。その身なりは旅人風の服。
「門番さん、そちらの方は如何したのですの?」
「──これは、お嬢さま。この者は、スーバニュ商会の馬車が敷地を出るときの隙を突いて、侵入した者です!」
──なる程。待機していた他の門番も駆け付け、門番の持つ槍で動きを完全に制限された少女。
「──ねえ、あなた、侯爵令嬢よね! ね!」
「……え? あ、はい」
私は少女の勢いに飲まれ、つい答えてしまった。
「お嬢さま、お下がりください!」
門番一人が私の前に立ってガード。そこへ騒ぎを聞き付けたスチュワードのゲイルが到着する。
「──お嬢さま、ご無事ですか?」
「ええ、ご覧の通り」
私の無事を確認したゲイルは徐に門番たちが押さえる少女に近付き、
「貴女は、何用で侯爵家のお屋敷の敷地内に勝手に侵入したのですか? 理由如何では、コレですよ?」
そう言って、ゲイルは首斬りのジェスチャー。対して、少女はニホンゴで何かを喚き散らす。残念ながら、先日のウィルのとき同様、既にニホンゴが聞き取れない私には何を言ってるのかは分からない。が、かなりビビっているのは彼女の様相から見てとれた。今日は雨も降っていないのに、水溜まりが彼女の下にできていたのだ。そして、ニホンゴで喚いていていた彼女は唐突に、
「……あ、あの、……こ、こちらさまで……メ、メイドとして……、その……雇って……いただきたく……」
苦しい言い訳を述べる。だが、ゲイルは、
「……成る程、いいでしょう。貴女を侍女見習いとして当屋敷で雇いましょう。
シャロル、彼女の教育も、お願いします」
不審者の女の苦しい言い訳を敢えて呑み、そして、雇い、その教育をシャロルに任せるのだった。
「あ、はい、畏まりました」
しかし、ゲイルの視線は言葉をかけたシャロルでなく、ウィルを見据えていたのを私は逃さなかった。さすがは侯爵家のスチュワードである。この女を雇ったのにも何か裏があるのだろう。でなければ、即座に憲兵に突き出していたことだろう。私なら、そうする。
こうして、我が家に新たな住人が一人増えるのだった。っていうか、シャロルが面倒を見るということは、彼女も私付きになるのか?
──はい、なりました。
翌日、お父様の第二秘書のイサーラが書類を持ってニコニコ顔で私の執務室にやってくる。
それを見た、侍女服を身にまとった元不審者──ビヴィアはウィルに話し掛けた。
「──え!? 何、侯爵家の女の子たち、美女に美少女ばっかじゃん!」
「……」
「……ちょっと、黙りなんてないんじゃない? 知ってるのよ、あなたが日本語を口走ったの。」
「……チッ。なんだよ?」
「お! 口開いたね。ところで、イベントは、何処まで進んでるの?」
「は? イベント?」
「そうよ、イベント。だって、この世界、乙女ゲー……────」
さて、ニホンゴでぺちゃくちゃと喋るビヴィアとウィル。会話の内容は不明ながら、今現在は執務中である。私のカリカリとペン先が書類の上を滑る音だけが響く空間。そこに小声とはいえ、ぺちゃくちゃ喋られては集中力が切れてしまう。
「──シャロル、お茶を」
「はい、ただいま」
私はシャロルにお茶を頼み、私の机に持ってきたところで、ぺちゃくちゃ喋る見習い二人に見えないよう、二枚のサイレンスの魔法陣が描かれた札──当然、空気中の魔力で発動するタイプ──をシャロルに渡す。視線による僅かな合図。
それを受け取ったシャロルも、視線で合図。私は彼女が持ってきた、お茶を飲んでカップとソーサーを彼女に返す。
そして、空のカップが載ったソーサーを持って下がるシャロルは、ビヴィアとウィルの背後を通り抜ける際に、サイレンスの魔法陣が描かれた札を彼等の背中に貼り付けた。
「ありがとう」
「いえ」
私はお茶と五月蝿い二人に札を貼ってくれたシャロルに礼を述べると仕事に集中するのであった。
──トントントン。
「はい、確かに。
お疲れさまです、お嬢さま。では、私は此れ等を王宮に届けて参ります」
「ええ、お願いね」
お父様の第二秘書のイサーラが書類を束ねて持ち、退室するのを見送り、
「うーん、終わった!」
ぐーっと背伸びをする。やはり、仕事量はこれくらいがちょうどいい。
「お嬢さま、そろそろお昼になります」
「ええ、分かったわ」
私は執務机の椅子から立ち上がると、シャロルから、「あなた方はここで、お嬢さまの仕事が終わるまで、立っていてください」と言われた為に、その場で声が出ないことに異変を感じてヘンな踊りを披露するビヴィアとウィルの二人の背後を通り、サイレンスの魔法陣の札を密かに回収するのであった。
「……あ! あれ? 声が出る……!」
「……な、なんだった? マジで?」
私は見習い二人に見えないところで、べぇーと舌を出す。なんとなく、イタズラが上手くいった子供の気持ちを理解したような気分になった。




