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「終わりました、お嬢さま」
「ありがとう、皆」
ヘアセットとメイクをしてくれるいつもの侍女たちとシャロルに私は礼を言って、化粧台の鏡で最終チェック。
「うん、完璧ね」
──コンコンコン。ガチャリ。
ノックと共に断りもなく私の部屋に入ってきたのは、
「──おお! フィーリア! 元気になったのだな!」
お父様だった。お父様は部屋に入るやいなや化粧台の前に座る私を発見すると、
「本当、済まなかった。お前が優秀すぎて、ついお前に仕事を振りすぎていた。本当に済まない」
私の事をギュッと抱きしめて、謝るのだった。
「いえ、私の方こそ、捌ける仕事量に関して、無理なく熟せる量を、お父様に報告しなかった落ち度がありますわ」
「そうか。お前はなんて優しい娘だ!」
お父様の抱擁はますます力強くなる。あ、これ、落ちるかも……。
「侯爵様! お嬢さまがっ!!」
「っ!? す、すまん、フィーリア」
「……い、いえ、大丈夫ですわ……」
──落ちかけたけどね。胸中ではそう言いつつ、お父様が離れてから、身嗜みを整える。そして、私は化粧台前の椅子から立ち上がり、
「お父様、今日から改めてよろしくお願いしますわ」
「ああ、此方こそ。改めて、頼むぞ」
「……それで、ですね。これからは、書類の量は以前の半分未満にして頂けると──」
「──待ってくれ、フィーリア。そこは半分“以下”だろ?」
「いえいえ、半分“未満”に、お願いしますわ」
娘の快復に喜んでいたお父様の顔は、今度は仕事の顔になり、私と睨めっこ。
「──あなた。フィーリアの言う通りにしてあげて下さい」
そこへ現れた援軍はお母様。──ナイスです、お母様! 胸中でお母様を喝采する私。
「フィーリアは病み上がりなんですよ。また、無理が祟って倒れては……」
そこで、お母様はヨヨヨとハンカチを取り出して小芝居。
お父様は、私とお母様のタッグに、
「……ううう……、わ、わかった、分かった。降参だ。フィーリアに任せる仕事量は以前の半分未満にする」
──やった♪ 言葉には出さず心の内で小躍りする私。
「お父様、ありがとうございます。
お母様も、ありがとうございます」
──さて、丁度よい頃合いかな。これは、五月病が治りかけた辺りで、閃いたこと。それは、
「お父様、お母様、実はお二人にお渡ししたい物がありまして──」
「ん? なんだい?」
「あら、なにかしら?」
──よしよし。これで渡せる。
「シャロル、例の物をこれに」
「はい、畏まりました」
シャロルが取りに行っている合間にお父様とお母様に説明する。
「私、思いましたの。これから先、私のようにお父様やお母様が倒れてしまわないか、心配になりまして、東の国から“滋養強壮の妙薬”を取り寄せましたの」
ちょうど、その時、シャロルが例の物を載せたトレイを持って戻る。
私は滋養強壮の妙薬が入った質の良い布袋を手に取り、先ずは、お父様へ。
「この妙薬を夕食後にに一日一粒、飲んで頂ければ、お父様の日頃の疲れもスッキリになりますわ」
次にお母様へ、手渡して、
「勿論、お母様が飲まれれば、お肌のターンオーバーもバッチリですわ」
「ほう、それは凄いな。ありがとう、フィーリア」
「まあ、そんな妙薬を頂けるなんて。ありがとう、フィーリア」
両親は滋養強壮の妙薬を疑うことなく受け取ってくれた。でもまあ、効能には嘘はない。その効能が妙薬の一部であることに間違いはない。だが、実態は精力剤。できるだけ早く、二人には私以外の跡取りを生んでもらわねば。




