組合せパズルと、プロ意識
昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴り、俺は重い足取りで現場に戻った。
そこにあったのは、先輩が「やり直した」カゴ台車だった。
見た瞬間、息をのんだ。それはまさに、完璧に組み上げられた立体のテトリスだった。
長さがある細い物、無駄に幅を取る物、薄く軽い物。さらには長方形で重量のある物から、重くて高さもある物、軽いくせにやたらと大きい物まであったはずだ。あんなにバラバラで凶悪だった商品たちが、台車という四角い空間の中に、微塵の隙間もなくピシッと綺麗に収まっている。
(なんだこれ……。どうやったらこんな風に組めるんだ?)
呆然としている暇はなかった。午後一の積み込み作業が始まる。
俺は意識的に、横目で先輩の動きを「盗み見」しながら、今度こそ全ての伝票の商品を完璧に載せてみせると、自分なりに意識してトライしていった。
――だが、現実は甘くなかった。
急いで積めば積むほど重心が狂い、台車がガタガタと悲鳴をあげる。
「おいおい、空間からはみ出すな。トラックで運ぶ身にもなれよ……」
出荷を待つドライバーさんから、鋭い指摘が飛んできた。ガタつく台車を見て、呆れたような顔をしている。トラックが走って揺れたとき、積荷がどうなるか。運ぶプロの目から見れば、俺の作ったパズルは一発アウトの欠陥品だった。
「……すみません」
恥ずかしさと情けなさで、声が縮こまる。
だけど、そこで俯いて諦めるわけにはいかなかった。ドライバーさんの言葉の向こう側に、昼休みに見た先輩のあの完璧なカゴ台車の姿が重なる。
俺は「分かったつもり」になるのをやめた。プライドなんて捨てて、素直に先輩に頭を下げて聞いてみることにした。
「先輩、どうすればそんなに綺麗に、崩れずに積めるんですか?」
先輩は少し驚いたような顔をしたが、すぐにフッと笑って、ぶっきらぼうにプロの極意を教えてくれた。
「重量物を下に置くのは基本だ。だけどな、長い物は斜めに入れるようにして、奥に詰めすぎないで少し隙間をつくるんだよ。そうすりゃ、揺れても力が逃げる」
先輩の手が、流れるように商品を動かしていく。
「あと、高さを作りすぎないこと。上までパンパンに積んだら、ドライバーも、それから荷物を受け取る側の人間も、降ろすときに苦労するだろ? 次の人への配慮を忘れるな」
次の人が、どう動くか。
目の前のカゴ台車は、ただの荷物の山じゃない。ドライバーさん、そして受取側の人へと繋がる、プロとしての「段取り」そのものだったんだ――
第2章 .完




