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Another story



春、それは暖かく残酷な季節だ。


幼い頃から共に過ごし、当たり前に隣にいた千春の手を離した季節であり、

そんな俺に日和という温もりを与えてくれた季節でもある。


「朔…先輩…」


背中越しに聞こえた詰まった声。

振り返らなくてもわかった。

卒業式で散々泣いたくせに、まだ泣き足りないらしい。


日和はいつも春の空のようにコロコロと表情を変える。

よく笑い、よく泣き、よく怒る。

俺の一挙一動で移り変わる素直なそれが可愛くてたまらない。


もしあの時、あの場にいなかったら俺の隣に日和はいなかっただろう。

今頃は彰を思って泣いていたかもしれない。


そんな想像を振り払うように首を振る。


「…泣きすぎだ」


日和がここにいる実感が欲しくて抱き寄せた。

フワリと花の香りが鼻腔をくすぐる。


もう二度とあんな気持ちになるのはごめんだった。


壊さないようにそっと頬を撫でる。

…ずっと俺がこの涙を拭う人でありたい。


想いが通じて一年

日和が海に行きたいと言えば海に行き

祭りに行きたいと言えば祭りに行き

遊園地や水族館、初詣にバレンタイン…


初めての体験に俺は戸惑うばかりで、彰のようなスマートさのかけらもない。

でも日和は心底嬉しそうにするんだ。

そういうところがたまらなく愛おしいと思う。


あの日のデートとは違う。

日和のしたいことも、俺のしたいことも2人で決めて今は歩いていける。


「先輩、やっぱり留年しません?」


「しない。」


俺の返しに潤んでいく瞳。

そんなこと言ったって無理なものは無理だろ。


もう着ることがないとはいえ、制服のジャケットで鼻水まで拭かれてはなんとも言えない気持ちになる。

女子としてあるまじき顔してるぞ…。


「朔先輩、絶対今失礼なこと考えてる。」


「………。」


スイっと目を逸らした。


「じー。」


「ゴホンッ…あー…

お前が卒業するまでちゃんと待ってるから」


「あ、話逸らした。」


「気のせいだ。」


「………卒業しても浮気しない?」


「しない。」


「本当?千春先輩のとこにまた行ったりとか…」


「…少しは俺を信じろよ。」


「…前科あるし。」


それを言われるとなにも返せない。

代わりじゃないが不貞腐れたような彼女の機嫌を取るべくその唇にキスを落とす。

俺とは違って柔らかくて、新作リップ?とやらのせいか少し甘くてしっとりしている。


「…………先輩って本当ずるい。」


ずるいのはどっちなんだか。

俺だって男だしそれなりに思うところはあるわけで。


「…俺としてはお前の方が心配だよ。」


「私浮気しないよ?」


…そういうことじゃない。

本当にどうしようもない俺の彼女は。


「…好きだよ日和。」


「っいつもはそんなこと言ってくれないくせに!」


「…いつも思ってるって。」


日和が卒業まで、1年。

俺は大学1年目、日和は受験

今より会える時間は減るだろう。

もしかしたら長期休みくらいになるかもしれない。


「……朔先輩?」


「…日和の卒業の日、迎えにくるから」


「ん?プロポーズですか?」


日和と、結婚して、子供作って、家庭を築く。

そんな未来に思いを馳せるのも悪くない。

でもまだだめだ。それは男としての矜持だ。

だからこれは予約。

俺が一人前の男になったら攫いにいくから。


「……かもな」


「え?え?え?」




…春、それは終わりと始まりの季節

季節は巡りこれからもきっと続いていく。


桜の下彼女の手をしっかりと握る。

もうこの手を離さないように、

間違えないように。


「ちょ、先輩!?」


「…ははっ」


「はぐらかさないでくださいよー!!!」







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