7話
私を引っ張る朔先輩の手は氷のように冷たい。
歩くのも早いから着いていくのがやっとだった。
「せ…先輩…ちょっと待ってください…」
「っ悪い…」
息を切らせる私に気づいてようやく止まってくれた。
久しぶりに見る朔先輩はやっぱり泣きそうな顔をしていた。
「なんでそんな顔…」
「…お前が、泣いてたから…」
「…ほっとけなかった?
千春先輩と同じように?」
なんて嫌味な言い方。
本当はこうして私を連れ出してくれたことが嬉しいくせに、その善意を素直に喜べない。
別に私じゃなくても助けたんじゃないかって。
…本当あの人と違って私は可愛くない。
腕を摩る手に力がこもった。
「っ違う!」
「え?」
「…千春は確かに大切な幼馴染だと思う。
でも違う、俺にとってお前は…」
いつもの先輩じゃないみたい。
余裕なんてなさそうで、必死に言葉を探すように視線が揺れている。
「朔先輩?」
「…俺は…日和を傷つけた。
彰の所で笑えるならそれでもいいと、一度は思ったんだ。
でも、お前がいない部室はすごく静かで…」
まとまらない言葉、早口で余裕のない声
こんな朔先輩を見るのは初めてだった。
「それってどういう…」
「…当たり前に思ってた。
お前が笑ってくれるのも、側に居てくれるのも。
でも違った。
全部、日和が俺にくれたものだった…。」
「……気づくの、遅いですよ先輩…」
言い終わる前に力なくポスっと私の肩に朔先輩の額が乗って甘えるようにぐりぐりされる。
………これ、背中に手を回せばいいの?
なんてこんな時なのに手のやり場に困った。
「…情けない男でごめん。
でもお前が居ないと俺は駄目みたいだ…。」
そして先輩はゆっくりと顔を上げた。
そして私の目を見て言った。
「…好きだよ、日和」
情けない顔…
頬を撫でる先輩の手は震えていた。
その手が優しく私の涙を攫った。
「朔先輩のバカ…っ木偶の坊…」
「…ごめん」
「どれだけ私が待ったと思ってるんですか。」
「うん」
「どうせ、また千春先輩泣いてたら助けに行っちゃうんでしょ」
「それは…」
オロオロする先輩に私は笑みが溢れた
「…でもいいや、朔先輩は私のこと好きですもんね?」
「……好きだ。」
2回目の好きで初めて実感した気がする。
この感情をどうにかしたくて目の前の先輩に力一杯抱きついた。
「私も、大好きですよ、朔先輩」
もう一方通行じゃない
背中に回された腕がそれを感じさせてくれる。
あんなに悩んでたのがバカみたいだ。
「…日和。」
突然唇に熱が触れた。
それがキスだと気づくより先に二度目が降ってくる。
初めてのキスは味なんてわからなかった。
ただ、幸せだった。
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春、出会いと別れの季節。
桜舞い込む廊下の先で朔先輩が待っている。
一年の時を経て、たくさんのことを知って。
千春先輩が横を駆けて行っても
朔先輩の視線はもう私を追っている。
ずっと、ずっとこの瞬間を夢に見ていた。
「日和?」
「朔先輩、大好きですよ!」
「………知ってる。」
「先輩は?」
「…………言わなきゃダメか?」
「ダメです。」
「俺は…」
私は今
私を見つめるその視線に、恋をしている。
ここまで読んでくださりありがとうございました。
少女漫画のような恋を書きたくて始めたお話でした。
漫画のページを捲るように、情景やキャラクターたちの表情を想像しながら楽しんでいただけていたら嬉しいです。
初めての投稿で至らぬ点も多いかと思いますが、
感想や誤字脱字のご報告など、大変励みになります。
そして最後に、Another storyをもう1話だけ更新予定です。
少しだけ未来の朔たちのお話も読んでいただけたら嬉しいです。
本当にありがとうございました。




