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バグだらけのVRクソゲーでRTA走ってたら、なぜか現実の異世界だった件 ~「壁抜けカニ歩き」で魔王城をショートカットしたら、神の如き空間跳躍の使い手だと勘違いされています~  作者: 伊桜 瑠夏詩
第1章:Any%走者、世界を壊す

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第6話:落下ダメージ無効と、壺で開く真理の扉

「(よし、Y座標マイナス5万。そろそろ表世界ロードゾーンの判定に引っかかるはずだ)」

漆黒の暗黒空間を、真上に向かって凄まじい速度で上昇しながら、俺は脳内のマップ座標と睨み合っていた。

空中で武器を振る動作を繰り返し、滞空時間を無限にリセットする『無限多重ジャンプ』。

だが、この技には一つの致命的な欠陥がある。空中にいればいるほど、システム内部の「落下距離の計算」が蓄積され続けてしまうのだ。

「主様……! 上に、何か見えます! あれは……巨大な岩の天井……!?」

腕の中にいるシルフィアが、強風に目を細めながら叫んだ。

「ああ、あれが王都の地下ダンジョンの最下層だ。あそこの床下から『表』に復帰する」

「ゆ、床下から!? しかし、この尋常ではない速度で激突すれば、私たちなど一瞬で挽肉に——」

シルフィアの言う通りだ。

システム上、今の俺たちは「数万メートル落下し続けている」のと同じダメージ判定を抱え込んでいる。床を抜けて表世界に着地した瞬間、蓄積された致死量の落下ダメージがまとめて計算され、即死ゲームオーバーする。

「心配すんな。落下ダメージを無効化キャンセルするバグ技がある」

俺は天井(表世界の床の裏側)に激突するコンマ数秒前、空中でぐるんと身体を反転させ、「真っ逆さまの姿勢」になった。

そして、シルフィアを自分の胸に抱き込み、頭の『フライパン』を最前線にして、岩の天井へと突っ込む。

「(落下ダメージの計算は、『足』の当たり判定が地面に接触した瞬間に発生する。ならば、足から着地しなければいい!)」

ガガガガガガッ!!

俺たちの身体が、表世界の分厚い石の床を「下から」すり抜ける。

そして、表世界の重力に捕らわれ、ダンジョンの床へと叩きつけられた。

——カァァァンッ!!

軽快な金属音が、静まり返った地下空間に響き渡った。

俺は、頭のフライパンを床に激突させた「逆立ち」の姿勢のまま、ピタリと静止していた。

フライパンの『頭部判定消失バグ』により、頭への激突ダメージはゼロ。そして足が床についていないため、数万メートルの落下ダメージも完全に無効化スルーされたのだ。

「……えっ?」

俺の胸の上(逆立ちしているので腹の上)に無傷で乗っかっているシルフィアが、呆然と瞬きをした。

俺はそのままゴロンと転がり、何事もなかったかのように立ち上がって埃を払う。

「よし、着地成功。バフ要員(NPC)の生存も確認。お前、死なれたらタイムロスになるから勝手に死ぬなよ」

「主、様……」

シルフィアの瞳から、ボロボロと大粒の涙がこぼれ落ちた。

「あの絶対の死の速度の中……自らの身を反転させ、私を庇って頭から落ちてくださったのですね……。これほどまでに、私のような者の命を……!」

「(……ん? なんで泣いてるんだこいつ。バグか?)」

俺はシルフィアの好感度(?)パラメータの異常な変動に首を傾げたが、RTA走者にとってイベントシーンの感情移入など不要だ。俺は周囲を見渡した。

そこは、冷たい空気が澱む、途方もなく巨大な地下遺跡だった。

壁面にはびっしりと古代文字が刻まれ、青白い燐光を放つ苔が、荘厳な神殿の跡を照らし出している。

王都地下に眠る、レベル90台の凶悪なモンスターが蠢くエンドコンテンツエリア『深淵の迷宮』の最下層だ。

「……主様。ここは、ただの地下ではありません」

シルフィアが涙を拭い、暗殺者としての鋭い警戒心を取り戻して周囲を見回す。

「空気が、王都のそれとは違います。神話の時代に封じられた、踏み入るべからざる聖域……」

「ああ、ここは『深淵の迷宮』だからな。正規ルートなら、世界中のダンジョンで『八つの宝玉』を集めてこないと開かない扉がある。……ほら、あそこだ」

俺が指さした先には、巨大な青銅の扉がそびえ立っていた。

扉の表面には八つのくぼみがあり、強固な魔法陣が何重にも施されている。

『真理の扉』。

ゲームの設定上、「世界を巡り、万物の理を理解した者のみが開くことを許される」という、絶対不可侵のロック機構だ。

「あのような巨大な封印……。かつてないほどの魔力を感じます。いかに主様とはいえ、あのことわりを破るには、それ相応の儀式が必要なのでは……?」

シルフィアがゴクリと唾を飲み込む。

だが、RTA走者が「八つの宝玉」なんて集めるわけがない。そんなお使いクエストを真面目にやっていたら、それだけでプレイ時間が20時間増えてしまう。

「儀式? ああ、必要だな。ちょっとそこの『壺』を取ってくれ」

俺は、扉の脇に無造作に置かれていた、ただの装飾用の『粘土のオブジェクト』を指さした。

「……壺、ですか? このような、何の魔力もないただの焼き物が、真理の扉を開く鍵になると?」

「いいから貸せ」

俺はシルフィアから壺を受け取ると、それを両手で抱え、巨大な青銅の扉の「右下隅の蝶番ちょうつがい」の隙間に向かって、全速力で突進した。

「主様!? 何を……」

俺は扉に激突する寸前、壺を抱えたまま「しゃがみ入力」を行い、自分の身体と壺と扉の隙間を完全に密着させた。

そして、その状態で壺を思い切り壁に叩きつける。

パリンッ!!

壺が割れた。

その瞬間——ゲームの物理エンジンが、再び致命的な計算エラーを起こした。

壺が破壊される際、システムは「破片」を周囲に飛び散らせるために、一時的に『巨大な当たり判定(見えない爆発判定)』を発生させる。

その爆発判定が、扉と俺の身体の間に挟まれた結果、行き場を失った反発力が俺の身体に全集中したのだ。

ギュンッ!!

「よし、オブジェクト・クリッピング(壺抜け)成功」

俺の身体は、分厚い青銅の扉を、まるで幻影のようにすり抜けた。

『万物の理を理解した者のみが開く扉』は、その辺に落ちていた『ただの壺を割る』という圧倒的な暴力バグによって、コンマ1秒で突破されたのである。

「……っ!?」

扉の向こう側から俺が手を伸ばし、呆然としているシルフィアの腕を引いて、無理やり扉の裏側へと引きずり込んだ。

「は、はぁっ!? な、何が起きたのですか……!? あの、神々が定めた絶対の封印が……ただの壺が砕けた音と共に……!」

シルフィアは、割れた壺の破片と、無傷の扉を交互に見つめ、ガタガタと震え出した。

「(……そうか。真理の扉は、『魂の重さ』を量るもの。しかし主様は、ただの土塊(壺)を砕くことで、システムにこう告げたのだ。『神の定めた真理など、この脆い壺ほどの価値もない』と……!)」

シルフィアの中で、神への信仰は完全に崩れ去り、目の前のフライパン男への絶対的な盲信へと置き換わっていた。

「主様……。あなたは、神が数千年かけて築いたルールを、あえて最も取るに足らない『日用品(壺)』で破壊することで、神への最大の侮辱……いや、抗いを示されたのですね」

「ん? まあ、壺が一番当たり判定がデカくて使いやすいんだよ。さあ、どんどん登るぞ。ここは敵のレベルが高すぎて、かすっただけで死ぬからな」

俺はシルフィアの壮大な勘違いを放置したまま、頭のフライパンをカンッと鳴らし、レベル90の魔物たちが徘徊する深淵の迷宮を、後ろ向きのカニ歩きで爆走し始めた。

世界を崩壊から救うための、あるいは世界をバグで破壊し尽くすための、長大なる地下ダンジョンRTAが幕を開けたのだ。

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