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バグだらけのVRクソゲーでRTA走ってたら、なぜか現実の異世界だった件 ~「壁抜けカニ歩き」で魔王城をショートカットしたら、神の如き空間跳躍の使い手だと勘違いされています~  作者: 伊桜 瑠夏詩
第2章:魔王領シーケンスブレイクと、システム外の温もり

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第44話:思考共有のスキップと、両翼で火花を散らす独占欲

エメラルドグリーンに浄化された美しい湖を渡り終えた俺たちは、魔王城外郭の第二防衛ラインである巨大な地下施設、『機巧迷宮ゼ・ルビナ』へと足を踏み入れていた。

無機質な黒鉄の壁と、冷たい石畳が続く薄暗い回廊。

本来であれば、足音すら吸い込まれそうなほどの不気味な静寂が支配するダンジョンなのだが、今の俺の周囲だけは、いかなる緊迫感も存在しない、極彩色の熱気と甘い香りで満たされていた。

「ねぇねぇクロ様ぁ。このダンジョン、暗くてちょっと怖いね。もし急に魔物が出たら困るから、こうしてピッタリくっついて歩こっ!」

俺の右腕には、ピンクブロンドの髪を揺らす新ヒロイン、リナリーが完全に張り付いている。

彼女は「怖い」と口では言いながらも、その顔には楽しげな笑みを浮かべていた。そして、身体のラインを強調するタイトな法衣越しに、彼女の暴力的なまでに豊満な双丘が俺の腕を深く包み込み、一歩歩くごとに極上の弾力と温もりをダイレクトに伝えてきている。

フルダイブ型VRの触覚フィードバックが、彼女の艶やかな髪から漂う甘い花の香りと相まって、俺の思考回路を激しく乱し続けていた。

「……ッ! この破廉恥な雌豚が! クロ様の御歩行の邪魔になるだろうが! 離れろ!」

「えー? シルフィアお姉ちゃんこそ、クロ様の左腕にギューってしがみついてるじゃん。私ばっかり怒られるの、理不尽だなぁ」

「わ、私はクロ様の死角をカバーし、不測の事態から即座にお守りするために、最短距離での護衛陣形を構築しているだけだ! お前のような発情した遊び人とは理由が違う!」

俺の左腕には、銀髪の暗殺者シルフィアが、耳の先から首筋までを真っ赤に染め上げながらも、絶対に俺から離れまいと両手でしがみついている。

リナリーの圧倒的なプロポーションに対抗するように、彼女は自身の控えめだが形の良い柔らかな膨らみを懸命に俺の腕に押し当てていた。その潤んだ金色の瞳は、リナリーを親の仇のように睨みつけつつも、俺を見上げる時だけは「私の方がクロ様の役に立ちます」と必死に訴えかけるような、庇護欲をそそる可憐な色を帯びている。

(……おかしい。俺の組んだRTAのチャートに、両腕を美少女にホールドされながら歩行速度を著しく低下させるなんてイベントは存在しないはずだ。だが……っ)

右から強烈に甘えてくる、超タイプの爆乳精霊術師。

左から必死に正妻の座を主張してくる、一途で健気な暗殺者。

両腕から伝わる極上の熱と柔らかさ。効率至上主義のゲーマーとして、こんな無駄な時間は一秒でも早くスキップすべきだと頭では分かっているのに、俺のHP1の冷たい肉体は、この心地よい密着状態を完全に受け入れてしまっていた。

いや、むしろこのバグだらけの世界で、彼女たちの体温を感じている時間こそが、今や俺にとって何よりも愛おしい現実になりつつある。

「ふはははは! 素晴らしい! クロ様の両翼を担うに相応しい、見事な双璧の陣形でございますな! このレオン、前方の警戒は完璧にこなしてみせますぞ!」

先頭を歩くレオンが、大盾アイギスを構えながら豪快に笑い声を上げる。

彼にとって、主君が女性たちから慕われるのは王者のカリスマの証明であり、大いに喜ばしいことらしい。この生真面目な騎士が一切空気を読まずに肯定してくれるおかげで、俺の逃げ場は完全に塞がれていた。

「……クロ様ぁ。さっきから、また難しい顔してる。どうしたの?」

不意に、右腕に張り付いていたリナリーが顔を近づけ、俺の頬を指先でツンツンと突いてきた。

「なんでもない。ただ、この先のエリアのギミックを思い出していただけだ」

俺が誤魔化すように前を向くと、リナリーは「ふーん?」と意味深な笑みを浮かべ、さらに強く俺の腕を胸の谷間へと引き寄せた。

「クロ様の頭の中って、この世界の正解のルートがいっぱい詰まってるみたいだね。……だから私、クロ様と一緒にいると、なんだか自分が『どう動けば一番いいか』が、勝手に分かっちゃう気がするの」

(こいつ……やはり、自分がゲームのプログラムの一部であることを、無意識に察知しているのか?)

俺がリナリーの特異性に警戒と興味を抱いていたその時、長い回廊が唐突に途切れ、視界が大きく開けた。

そこは、床一面に無数の幾何学模様が刻まれた、体育館ほどの広さを持つ巨大な石室だった。

部屋の奥には次のエリアへと続く重厚な扉があるが、その手前の空間には、目に見えない無数の魔法のセンサーが張り巡らされている。

ここは機巧迷宮ゼ・ルビナの難所、『千刃の処刑床』。

床に刻まれた特定のタイルを踏むか、不可視のセンサーに少しでも触れれば、天井から即死級のダメージを伴うレーザーの刃が降り注ぐという、極悪な初見殺しのトラップ部屋だ。

「クロ様、お待ちください。この部屋から、尋常ではない死の気配を感じます。無数の殺意が、蜘蛛の巣のように張り巡らされている……」

シルフィアが即座に俺の腕から離れ、暗殺者としての鋭い視線で部屋の空間を睨みつける。彼女の表情は険しく、先ほどまでの嫉妬に狂う乙女の顔から、完全にプロの戦友の顔へと切り替わっていた。

彼女の言う通りだ。

通常であれば、部屋の四隅にある制御装置を一つずつ解除していくパズルを解かなければならない。だが、タイムアタックにおいてそんな悠長な謎解きをしている暇はない。

(このトラップのセンサー判定が発生するのは、空間の座標軸に対してプレイヤーのモデリングが侵入した瞬間だ。ならば、レオンのシールドバッシュで特定の壁の座標を強引に歪ませ、そこに発生する判定の空白地帯を利用して、シルフィアの跳躍で天井の動力源を直接破壊する。そしてリナリーの精霊魔法で床の電気信号をショートさせれば……)

俺は頭の中で、彼らのスキルとシステムのバグを組み合わせた、数フレーム単位の完璧なスキップ手順チャートを構築した。

さあ、指示を出そう。俺が息を吸い込み、口を開きかけた、その瞬間だった。

「クロ様の御為、このレオンが道を切り拓きましょう! ぬおおおおおッ!!」

俺が声を発するよりも早く、レオンが猛然と部屋の右側の壁に向かって突進した。

彼は敵もいないただの壁に向かって、大盾アイギスを構えたまま凄まじい速度でシールドバッシュを叩き込んだ。

ドゴォォォォォォォォンッ!!!!

物理法則を完全に無視した強烈な衝撃波が壁に走り、システムが衝撃のエネルギーを処理しきれず、部屋全体の空間座標が数フレームだけグニャリと歪んだ。

「――その空白、貰いました」

空間の判定が消失したそのコンマ数秒のラグの隙間を縫うように、シルフィアがレオンの背中を蹴ってふわりと跳躍した。

彼女は空中で身を捻りながら、見えないレーザーの網目を完全にすり抜け、天井に埋め込まれていたトラップの動力源である光輝石に向かって、正確無比な双剣の投擲を放った。

パキィィンッ!!という甲高い音と共に、天井の石が砕け散る。

「わぁっ! 二人ともすごーい! じゃあ、仕上げは私がやるねっ!」

最後に前に出たのはリナリーだった。

彼女は愛くるしいウィンクを俺に向けると、両手を胸の前で組み、楽しげな声で精霊に呼びかけた。

「水と風の精霊さん、お願い! この床のチクチクするやつ、全部ショートさせちゃって!」

リナリーの全身から桃色の魔力が溢れ出し、床一面に薄い水の膜が広がる。

その水は単なる魔法ではなく、システムの属性タグを強制的に書き換えるバグ技として機能し、床に刻まれた即死トラップの魔力回路を一瞬にしてバチバチとショートさせてしまった。

部屋を覆っていた致死の罠が、俺が指一本動かすことなく、完全に沈黙した。

「……」

俺は頭のフライパンをコンッと叩き、ただ呆然とその光景を見つめていた。

俺はまだ、彼らに一言も指示を出していない。

それなのに、彼らは俺が頭の中で構築したバグ利用の突破ルートを、寸分の狂いもなく、完璧なタイミングで実行してみせたのだ。

行動の自立化などというレベルではない。これはもはや、俺の思考そのものを彼らがリアルタイムで読み取り、共有しているとしか思えなかった。

「クロ様! 厄介な罠はすべて沈黙いたしました。さあ、私の手を取って、安全になったこの部屋をお進みください!」

シルフィアが部屋の中央で誇らしげに胸を張り、俺に向かって白魚のような美しい手を差し伸べてくる。

「あーっ、お姉さんまた抜け駆け! クロ様、私の魔法もすごかったでしょ? だからご褒美に、頭なでなでして! そのまま私をお姫様抱っこして進んでくれてもいいよっ!」

リナリーが俺の腕に再び絡みつき、豊満な胸を押し付けながら甘ったるい声で要求してくる。

「ふははは! クロ様! このレオンの盾の威容、とくとご覧いただけたでしょうか! 私は主様の思考の先を読み、壁すらも打ち砕いてみせますぞ!」

俺は、誇らしげに俺の称賛を待つ三人の戦友たちを交互に見つめ、どうしようもなく込み上げてくる笑いを堪えきれずに、小さく吹き出してしまった。

「ああ……お前たちは、本当に最高だ。俺が指示を出すよりも、俺の頭の中を覗き込んで動いてくれる方が、ずっと速くて完璧だ」

俺の心からの称賛の言葉に、レオンは兜の奥で太い涙を流してむせび泣き始めた。

「ク、クロ、様……っ! 私、私っ、もっともっとクロ様のお心と一つになれるように、この身を粉にして……っ!」

シルフィアは耳まで真っ赤に染め、両手で顔を覆いながら、限界突破した嬉しさにその場にへたり込んでしまった。

「えへへー! クロ様に褒められちゃった! やっぱり私、クロ様の考えてること、全部分かっちゃうみたい! ねぇねぇ、早くこっち向いてハグしてよーっ!」

リナリーはさらに距離を詰め、俺の首に腕を回して背伸びをして顔をすり寄せてくる。

俺は暴走する二人のヒロインの熱と柔らかさに挟まれながらも、安全になった石室の床へと足を踏み出した。

ただタイムを削るためだけの無機質なゲームプレイは、完全に終わった。

彼らは俺の思考を読み取る最強の共鳴バグを引き起こし、俺は彼らの体温に完全に絆されている。

ここから先は、俺の想定すらも軽々と超えていく彼らと共に駆け抜ける、予測不能で、最高に騒がしくて愛おしい覇道の旅だ。

俺は両腕から伝わる戦友たちの確かな温もりを感じながら、次なる防衛ラインの奥へと堂々と進んでいくのだった。

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