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バグだらけのVRクソゲーでRTA走ってたら、なぜか現実の異世界だった件 ~「壁抜けカニ歩き」で魔王城をショートカットしたら、神の如き空間跳躍の使い手だと勘違いされています~  作者: 伊桜 瑠夏詩
第2章:魔王領シーケンスブレイクと、システム外の温もり

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第42話:パーティ申請の受諾と、制御不能なヒロイン論争

静寂の燐光林の澄み切った空気の中で、俺の脳内処理は完全にパンク寸前となっていた。

右腕には、ピンクブロンドの髪を揺らしながら、俺の顔を覗き込んで甘い香りを放つ新ヒロイン、リナリー。

彼女の暴力的なまでに豊満な双丘が、タイトな精霊術師の法衣越しに俺の腕を挟み込み、フルダイブ型VRの限界を超えたような柔らかさと温もりを伝えてきている。

そして左腕には、耳の先まで真っ赤に染めながらも、正妻の座を絶対に譲らないという決意を瞳に宿した銀髪の暗殺者、シルフィア。

彼女はリナリーに対抗するように俺の腕にギュッと抱きつき、控えめながらも形の良い柔らかな膨らみを押し当て、必死に俺の気を引こうとしていた。

「えへへ、クロ様って言うんだね! ねぇねぇクロ様ぁ、私すっごく身軽だし、精霊さんのバフもかけられるから、絶対に足手まといにならないよ? だから一緒に連れてって!」

「……っ、気安くクロ様の名を呼ぶな、この泥棒猫。クロ様、あのような素性の知れない女をパーティに入れる必要などありません。索敵も支援も、すべてこの私が完璧にこなしてみせますから……っ!」

「えー? でもでも、クロ様は私みたいな可愛い女の子がパーティにいた方が、冒険ももっと楽しくなるよね? ほら、クロ様ってば顔が真っ赤だよ?」

「なっ……! ク、クロ様をからかうな! 離れろ、今すぐその胸をクロ様から離せぇっ!」

右から甘い声、左から切羽詰まった声。

両腕から伝わる極上の感触と、二人の美少女から同時に向けられる強烈な矢印。効率至上主義のRTA走者として、これまで数々の理不尽な魔物やバグを冷徹に処理してきた俺の頭脳は、いとも容易くショートして白煙を上げていた。

(……落ち着け、俺。これはただのゲームだ。NPC同士の好感度イベントの一種だ。だが……っ、好みの判定アルゴリズムが完全にバグってる! リナリーの顔も声も仕草も、何から何まで俺のストライクゾーンど真ん中すぎるだろ!)

俺は必死に理性を総動員し、なんとか両腕を拘束する二人の少女を、優しく、しかし強引に引き剥がした。

「わっ」

「あ……っ、申し訳ありません、クロ様! 私としたことが、はしたない真似を……っ」

シルフィアはハッと我に返り、慌てて一歩下がって深く頭を下げた。だが、その金色の瞳は未だにリナリーを親の仇のように睨みつけている。

一方のリナリーは、引き剥がされたことなど気にも留めていない様子で、ニコニコと愛くるしい笑顔を浮かべたまま、体の前で両手を組んで首を傾げてみせた。

「それで? 仲間に入れてくれるでしょ、クロ様?」

俺は小さく咳払いをして顔の熱を誤魔化すと、頭のフライパンを深く被り直した。

そして、彼女のNPCとしてのステータスを確認するため、何もない虚空に向かって指を滑らせ、不可視のメニュー画面を呼び出した。

表示された彼女のデータ。

クラスは『遊び人』および『精霊術師』。レベルは俺たちと同じ適正帯だが、ステータスの割り振りが異常だった。攻撃力や防御力といった戦闘ステータスが軒並み低い代わりに、『魅力』と『運』の数値が、システムの上限値近くまで極端に振り切れているのだ。

(なるほど。戦闘には不向きだが、レアアイテムのドロップ率上昇や、特定のNPCとの交渉イベントで必須になる特殊なサポート特化キャラクターというわけか。……だが、俺のチャートにこのキャラを加入させる予定はなかったはずなんだが)

俺が虚空に浮かぶ透明なステータスウィンドウの文字を読み込んでいると、不意にリナリーが顔を近づけてきた。

「ねぇ、クロ様。さっきから何もない空中の『その辺り』を見て、指を動かしてるけど……何を見てるの? もしかして、私のスリーサイズとか、隠し事とか、見えちゃいけないパラメーターでも見てる?」

「……なっ!?」

俺は心臓が止まるかと思うほど驚き、思わず数歩後ずさった。

通常のNPCは、プレイヤーが操作するシステムUI(メニュー画面やステータス画面)を認識することは絶対にない。プレイヤーが空中で指を動かしていても、彼らにはただ立ち止まっているようにしか見えないようにプログラムされているのだ。

だが、今のリナリーは、俺が展開している透明なウィンドウの『正確な位置』を見つめ、あまつさえそこにパラメーターが表示されていることまで言い当てた。

(こいつ……この世界がゲームであることを、あるいはシステムの裏側を、どこかで感知しているのか?)

俺が警戒心を強めたその時、森の奥から地響きのような重低音が鳴り響いた。

ズズンッ、ズズンッ!!

周囲の木々がなぎ倒され、開けた空間に巨大な影が姿を現す。

全身が硬い鉱石と枯れ木で構成された、体長十メートルを超える中ボス級の魔物『剛骸の樹魔』だった。

「ひゃあっ!? おっきい魔物! クロ様、助けてぇっ!」

リナリーが悲鳴を上げて、再び俺の背中にギュッと抱きついてくる。

敵の出現。本来であれば、ここで俺がパーティメンバーに攻撃や防御のコマンドを的確に入力し、戦闘態勢を構築しなければならない。

俺は急いでメニュー画面を閉じ、武器を構えようとした。

だが、俺の口から指示の言葉が出るよりも遥かに早く、二つの影が俺の左右から飛び出していた。

「主様の視界を塞ぐとは万死に値する! 砕け散れェェェッ!!」

レオンだ。彼は一切の躊躇なく、そして俺の防御コマンドを待つことすらなく、自発的に敵の真正面へと跳躍した。

そして、剛骸の樹魔が振り下ろした巨大な丸太の腕を、愛用の大盾アイギスで完璧なタイミングのジャストガードで受け止め、敵の体勢を大きく崩してみせた。

「――その隙、貰いました」

レオンが作り出した硬直時間の隙間に、流れるような銀色の閃光が滑り込む。

シルフィアは俺の攻撃コマンドを完全に先読みし、敵の最も脆い関節部分へと風の如き速度で双剣を突き立て、内部の魔力核を正確に破壊した。

ギィィィィィィィィッ!!

剛骸の樹魔は断末魔の叫びを上げ、俺が指一本動かすことなく、瞬く間に光の粒子となって消滅してしまった。

「……」

俺は剣の柄に手をかけたまま、ポカンと立ち尽くしていた。

プレイヤーの入力制御を受け付けず、NPCが自らの思考ルーチンで最適解を導き出し、勝手に中ボスを瞬殺してのけたのだ。RTA走者としては完全にペースを乱される、最悪の自立行動バグ。

だが、俺の胸の中にあったのは怒りではなく、彼らのあまりにも見事な連携に対する深い感嘆と、俺を守ろうとしてくれる不器用なほどの忠誠心に対する熱い愛着だった。

「わぁ……すごい! 今の、クロ様が一言も命令してないのに、二人が勝手に動いて倒しちゃったね! なにこれ、すっごく変なパーティ! まるで、システムを無視して生きてるみたい!」

俺の背中に隠れていたリナリーが、目をキラキラと輝かせながら無邪気な声を上げた。

彼女のそのメタ的な発言に、俺は再び小さく息を呑む。やはりこの少女は、世界の違和感に気づいている。

「クロ様。露払い、完了いたしました。あのような雑魚、貴方様が御手を煩わせるまでもありません」

双剣を血振りして鞘に収めたシルフィアが、誇らしげに俺の元へと戻ってくる。

しかし、彼女は俺の背中にぴたりとくっついているリナリーを見ると、再び嫉妬に顔を歪めた。

「こほん。……クロ様、ちょうどお茶の時間にいたしましょう。私が最高の茶葉でおもてなしいたします」

シルフィアは強引に俺の腕を引き、近くの倒木へと座らせると、インベントリから手際よく茶器を取り出し、魔法で沸かしたお湯で芳醇な香りのする紅茶を淹れ始めた。

それだけでなく、彼女は可愛らしいラッピングが施された小さな包みを取り出し、頬を赤く染めながら俺の口元へと差し出してきた。

「あの、クロ様……。これ、昨夜の野営の時に、私が森の木の実を砕いて作った手焼きのクッキーです。甘さは控えめにしてあります。……あ、あーん、して、差し上げますから……っ」

暗殺者である彼女が、震える手でクッキーをつまみ、顔から火が出そうなほど照れながら俺に食べさせようとしてくる。そのあまりの健気さと破壊力に、俺の理性が再び崩壊の危機を迎えた。

だが、そこにピンクブロンドの悪魔が乱入する。

「あーっ! お姉さんだけズルい! クロ様、私のも食べて食べて!」

リナリーはシルフィアの反対側から俺にすり寄り、自身の豊満な胸を俺の腕にグイグイと押し付けながら、どこから取り出したのか、鮮やかな赤色をした希少な果実を俺の口元へと突きつけてきた。

「これね、幻の甘露果実って言って、すっごく甘くて美味しいんだよ! ほらクロ様、あーんっ!」

「ちょっ……貴女、クロ様に馴れ馴れしくくっつかないでください! クッキーが先です!」

「えー、果物の方がさっぱりしてて美味しいもん! ねえクロ様、私から食べてくれるよね?」

右から胸を押し付けてくるリナリーの果実。

左から涙目で訴えかけてくるシルフィアのクッキー。

「ふはははは! 素晴らしい! 戦いの後の晩餐こそ、パーティの絆を深める至高の時間! クロ様、大いに迷われるが良い!」

一人だけ完全に蚊帳の外にいるレオンが、豪快に笑いながら大盾を磨き続けている。

(……ああ、もう。RTAの進行スケジュールが、完全にめちゃくちゃだ)

俺は両側から迫り来る二つの極上の甘やかしに挟まれながら、深い、しかし決して不快ではない溜め息を森の空気に溶かした。

ただタイムを削るためだけに走っていた冷たい世界は、今や制御不能なバグと、熱すぎる感情の奔流によって、最高に騒がしく、愛おしい冒険の旅へと完全に上書きされてしまったのだ。

「分かった、分かったから。……リナリー、お前のパーティ加入申請を受諾する」

俺が降参したようにそう告げると、リナリーは「やったぁっ!」と歓声を上げて俺の首に飛びついてきた。

同時に、シルフィアが「な、なぜですかクロ様ぁっ!?」と絶望の声を上げ、俺の服の裾を強く握りしめて涙ぐむ。

俺の視界の端で、透明なシステムUIが静かに更新される。

『パーティメンバー4:リナリーが加入しました』

効率主義の走者と、忠義の騎士と、恋に狂う暗殺者、そして距離感バグの精霊術師。

いかなる攻略本にも載っていない、最も歪で、最も温かいパーティが、ここに完成したのだった。

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