表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
バグだらけのVRクソゲーでRTA走ってたら、なぜか現実の異世界だった件 ~「壁抜けカニ歩き」で魔王城をショートカットしたら、神の如き空間跳躍の使い手だと勘違いされています~  作者: 伊桜 瑠夏詩
第1章:Any%走者、世界を壊す

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

2/31

第2話:最速(バック走)の衝撃と、絶対防御のパン

「おい、NPC。暴れるな。バフの判定がズレるだろ」

俺は、最強の暗殺者らしい少女シルフィアを脇に抱え、猛烈な速度で森を「後ろ向き」に爆走していた。

RTA走法において、前進よりも後退ジャンプの方が移動速度の加速限界が高い。これはこのクソゲーにおける物理演算のバグ……いや、仕様だ。

「……ッ!? な、なんなのですか、この速さは! 景色が、マナの奔流が後ろに溶けていく……!」

シルフィアは、俺の腕の中で目を回しながら絶叫していた。

彼女の視点では、俺たちが進んでいる方向は「死角」のはずだ。だが、俺の脳内マップには、壁抜けでショートカットした先の最短ルートが完璧に刻まれている。

「(この先のエリアは本来レベル50地帯。まともにエンカウントしたら即死だが、この『バック走』なら敵の検知範囲(索敵フラグ)がロードされる前に通り抜けられるはずだ)」

俺は頭の上のフライパンを微調整する。視界の上半分を遮る鉄の板。これがあるおかげで、このエリアの即死級モンスターたちが放つ「自動追尾型ヘッドショット」の判定はすべて無効化されている。

「お、来たな。エリアガーディアンか」

森の奥から、地響きと共に巨大な影が現れた。

『森の番人フォレスト・イーター』。

樹齢千年を超える巨木が魔力を持った、レベル60のネームドモンスターだ。本来なら数日がかりの攻略パーティを組んで挑むべき絶望的な壁。

「ギ、ギガァァァァァァッ!!」

番人がその巨大な根を、槍のように俺たちへ突き出してきた。

「し、主様! 回避を! あれは因果を貫く一撃——」

シルフィアが悲鳴を上げる。

だが、俺は避けない。避ける動作(フレーム消費)すらもタイムロスだ。

チリンッ。

まただ。

番人の放った音速の刺突は、俺の頭上のフライパンに触れた瞬間、パチンと弾けるような音を立てて霧散した。

いや、違う。フライパンに当たった攻撃が「当たったこと自体をキャンセル」されたのだ。

「……え?」

シルフィアは、その瞬間を間近で目撃した。

本来なら、フライパンごと男の頭を粉砕しているはずの衝撃。しかし、あのお方は眉一つ動かさず、ただ頭に鉄ナベを乗せたまま、後ろ向きに走り続けている。

(……分かった。分かってしまった。あのお方が被っているあの黒き円盤フライパンは、物理的な盾ではない。あれは、『拒絶の理』そのものなのだ)

シルフィアの脳内で、急速に「深読み」が加速する。

(番人の一撃は、確かにあのお方の頭部へと到達していた。しかし、あの円盤に触れた瞬間、攻撃の『存在理由』が書き換えられたのだ。あのお方が被っているのは、神の理すら届かぬ『絶対不可侵の領域』……! ああ、なんという尊大で、孤独な構え……!)

「よし、今のノックバック(攻撃を受けた反動)を利用して、さらに加速。いいぞ、番人。ナイスアシストだ」

俺は独り言を呟きながら、番人の攻撃を受けた反動を、バック走の慣性に上乗せ(ダメージ加速)した。

加速はさらに増し、俺たちは森の最深部を、弾丸のような速度で逆走していく。

「……主様。あなたは、あえて敵の攻撃を誘い、その殺意すらも自らの『力』に変えたというのですか……?」

シルフィアの声には、もはや恐怖ではなく、狂信に近い敬畏が混じっていた。

「ああ? 効率がいいからな。被ダメ(ダメージを受けること)は加速のリソースだ」

(被ダメージは、加速のリソース……!)

シルフィアは震えた。

普通の人間にとって、傷つくことは死への恐怖だ。しかし、この男にとっては、世界の悪意ですら「自らを進めるための糧」に過ぎないというのか。

「お、出口が見えてきたな。……あー、やっぱり配置されてんのか、固定イベント(強制戦闘)」

森を抜ける唯一の関所に、重装甲を纏った兵士たちが立ち塞がっているのが見えた。

本来なら、ここで「通行証」を見せるか、隠密で通り抜ける必要がある。

「止まれ! 何者だ! 暗黒の森から後ろ向きに走ってくる不審者など——」

「(話しかけられると会話ウィンドウ(拘束時間)が発生するな。強引に『オブジェクト判定』で押し通るか)」

俺は立ち止まらず、懐から初期装備の「ひのきの棒」を取り出すと、それを進行方向の地面に突き立てた。

そして、その棒の先端に自分の足先を引っ掛けるようにしてジャンプする。

ガガガガガガッ!!

「な、なんだ!? 身体が震えている……!?」

シルフィアが驚愕する。俺と棒の当たり判定が重なり、物理演算がパニックを起こして俺の身体を「あり得ない方向」へ弾き飛ばそうとしている。

ズバァァァン!!

「不審者、確保——えっ!?」

兵士たちが武器を構える間もなく、俺たちは彼らの頭上を、まるで空間を飛び越えるようにして一気に飛び越した。

『ひのきの棒・ジャンプ(通称:棒高跳びバグ)』。

着地と同時に俺は、背後で呆然としている兵士たちには目もくれず、そのまま後ろ向きで坂道を下り始めた。

「……主様。今の、は……?」

「ただのショートカットだ。真面目に向き合ってたら日が暮れるからな」

(……真面目に向き合っていたら、日が暮れる。……そうか。主様が見ているのは、私たちが見ている『矮小な現実』ではないのだ)

シルフィアは、あのお方が頭にフライパンを乗せ、後ろ向きで走り続ける理由を、自分なりに結論づけた。

(前を見て走るということは、過去に縛られ、未来の不安に怯えるということ。しかし、あのお方はあえて『背後』を見ることで、すでに過ぎ去ったもの、終わったものを見据えている。そして、フライパンという『虚無』を被ることで、世界の一切の干渉を断ち切っている……)

「あのお方は……世界の『結末エンド』だけを見ているのだ……」

シルフィアが涙を流しながら呟く。

俺はそんな彼女の顔を「(あ、こいつ酔ったかな? 乗り物酔いのデバフ入るとタイムロスなんだけどな)」と心配そうに見つめるだけだった。

「よし、もうすぐ最初の拠点(始まりの街)だ。あそこのショップにアイテム売って、まずは金策(ゴールド稼ぎ)から始めるぞ」

俺は「始まりの街」の門が見えてきたところで、頭のフライパンを鳴らして気合を入れた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ