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Episode6 後悔はしない

「ご主人様、これはいったい……どういう事でしょう、か?」

「……」


 あれ……なんか、急に力が……うまく、しゃべれない。


「ご主人様?」


 この感覚……あれだ――気絶する。

 カルミアは激しい感情の移り変わりに、反動を起こし、泡を吹いて気絶してしまった。


「プランダ様が、ご主人様を殺しましたぁ~!」

「私のせいなの!?」


 状況はカオスだった。泣き叫ぶトレニア、あたふたするだけのアネモ。

 そんな状況に一手を打ったのは、もう一人、遅れて来た人物の一声だった。


「全く、世話が焼けますね……」

「ロベリア、さん! ど、どうしましょう! ああ泡を泡を吹いて、そのっ!」

「アネモ、落ち着いてください。彼女は、ただ気絶しているだけです。泡を吹いていますが……まあ、問題ないでしょう」


 ロベリアの言葉に、その場にいた信仰者たちは「適当」と全員が心に思った。


「とりあえず、宿に運びます。アネモ、貴方も着いて来てください」

「えっ私?」

「目を覚ました時、貴方から説明をした方が、彼女も怖がらないでしょう。少なくとも、ね」


◇ ◇ ◇


 ――もう、放っておいてください。

 ――現実から逃げた所で結果は変わらない。ここで逃げたら一生後悔をすることになる。


 これは……夢? それとも、走馬灯なの、かな。

 そうだ私、そろそろ起きないと。みんなに、心配かけちゃう。あれ――みんなどこに行くの――なんで私を置いて……そんな――


「待って!」


 カルミアは「はぁはぁ」と息を切らしながら、飛び起きて目を覚ました。

 視線の先には見覚えのある古い扉、それにこの古臭い匂い……宿に戻って来ている。ベッドのすぐ隣には、うずくまって「すぅ」と音を立て気持ちよさそうに寝ている様子のトレニア。と、なぜか更にその隣に居るアネモさん。


「……なんで?」


 小鳥のさえずりが優しく部屋に響き渡る。カーテンの隙間からは太陽の日差しが漏れていた。

 カルミアは二人を起こさないようにと、ゆっくりベッドから降りて部屋を出た。階段を降り、一階へ向かうと、早朝の澄んだ空気が漂っているのを感じた。

 端に置いてあるテーブルの席には、優雅に紅茶を飲む、ロベリアの姿が目に入った。


「ロベリア、さん……」

「ん? ああ、お目覚めですか。随分と早起きをするようになったものだな」

「早起きって言うか、偶然って言うか……はい」


 カルミアが、その場で「もじもじ」と身体を左右に動かしていると、ロベリアが一拍間を開けてから声をかけた。


「お前も座れ。紅茶で良いなら、一杯くらいは出せるからな」

「あ、ありがとうございます」


 ロベリアはカルミアの前にもう一つ、カップを置き、ポットに残ってた紅茶を注ぎ込んだ。

 カルミアは出された紅茶を一口。すると体の芯からポカポカと暖かさを感じた。


「久しぶりだな、こうやって対面して紅茶を飲むのは」

「そう、ですね」

「……お前は今、何を悩んでいる?」

「えっ!? どうして、分かったんですか」

「空になったカップを見つめている時、お前はいつも悩んでいる。昔から変わらんな」

「……自分が、情けないと思ったんです。大罪の魔女なのに、実力不足で……トレ、トレニアを、助けようと思ったのに、不安で、足が止まってしまったんです……私は、大切な友達が、危険な目に遭っても……戸惑ってしまいました……っ!」


 話の後半に連れ、カルミアは涙をこらえる事が出来ず、ぐちゃぐちゃな顔になりながらも、最後まで思っている事をロベリアに打ち明けた。


「話が長い。お前は何が言いたいのだ?」


 カルミアは息をのんだ。

 波を騒めかせる蒼い瞳は、真っすぐとロベリアの瞳を見ている。


「……私が、大罪の魔女でいる資格、ありますか」


◇◇◇

「――僕が、魔女でいる資格はありますか」

◇◇◇


 一瞬だけ、遠い記憶が重なった。

 ロベリアは顔を窓の外へ向け、その重い口を開いた。。


「そうだな……」


 ロベリアの言葉に、カルミアは「ですよね」と答える。その時の表情は、とても暗かった。


「お前は()()をしているのか」

「――いったじゃないですか。私は足を止めました。魔女として情けないです」

「止まった、だと? いや違う、お前は確かに進んだ。自身の恐怖を押し切って、その一歩を踏み出した……それが結果だ。お前は逃げなかった、後悔をする事は無い」


 私は……逃げなかった。


「それと、お前は昔から自分の悪い所ばかりを――って、なぜまた泣いているんだ!?」


 ロベリアがカルミアの方に顔を戻すと、一度は泣き止んだはずが、また大量の涙を浮かべ「ひっくひっく」と声をあげ泣いている、カルミアが姿が目に入った。


「違うんです……私、ずっと怖くて……誰も助けられない、仕事も出来ない、無力な自分から……遠ざかっていくのが怖かったんです――でも、ロベリアさんは……否定を、否定しました」

「はぁ、なに訳の分からん事をいっているんだ……」


 呆れた様子のロベリア。しかし、その表情の奥では、かすかに微笑んでいた。


「カルミアちゃん! 目を覚ましたのね!」

「あ、アネモさん」


 丁度いいタイミングで二階から降りて来たアネモ。カルミアの姿を見るなり、駆け寄って思いっきり抱きしめる。胸の奥には暖かい気持ちを感じた。


「こほん……アネモ、カルミアに全てを話なさい」

「えぇ、そうね。カルミアちゃん、おめでとう! あなたは無事、入学試験に合格しましたぁ!」

「……入学試験?」

「身辺調査の仕事を、お前に命じたが……あれは嘘だ」


 カルミアはアネモとロベリアから今回の内容の全てを説明してもらった。

 身辺調査と言うのは嘘であり、実際は入学試験だったこと。同時に全てが意図的に仕組まれたものであると、合点がいく。


「だが、余計な調査のせいで、私の仕事が増えてしまったではないか」

「す、すみません……ところで、その――入学試験と言うのは?」

「カルミアちゃんは来週から、カトレア魔法学園に編入生として来て貰います!」

「……え? えぇぇぇぇぇ! 私、何も聞いていませんよ!」

「当然だ、お前には何も伝えていないからな」

「そんな平然と答えられても……私、学校なんて……」

「あら? ただの学園生活じゃないわよ? これは大罪の魔女としての仕事、潜入調査も兼ねてよ」


 アネモの言葉に、今まで紅茶と話に茶々しか入れてこなかったロベリアが事情を話し始める。


「ダリアの占い結果で、近い未来、カトレア魔法学園に危機が訪れると出た。具体的には分からんが、情勢を見る限り、使徒の存在が危害を加える可能性が有力だろうな」

「カトレア魔法学園は私の管轄だけど、目立った行動は反対に事態を促進させる危険性があるわ。だから慎重な調査が必要なの」

「でも、なんで私なんかに……」

「簡単な質問だな。カルミア・ジーニアス、お前は……魔法の扱いが未熟だ。もっと勉強して来い」

「あぁ……すみません」

 

 やっぱり私、魔女に向いてないのかも。


「それじゃ早速……制服を特注するからサイズを測るわよ! カルミアちゃん、こっちに来て!」

「え、あっちょっと! 私、他に聞きたいことが……ロベリアさん!」

「全く、騒がしいやつらだな」


 こうして、森に住む大罪の魔女の一人、色欲の魔女カルミア・ジーニアスは、無事カトレア魔法学園の試験に合格し、編入生として潜入調査を行う使命を授かった。

 私、うまくやっていけるのかな……トレニア。


「うーん、ご主人様ぁー……むにゃ……」

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