Episode4 身辺調査
「あの、その……本日はどういった御用で……」
「そう焦るな。ゆっくり紅茶も飲めんだろ?」
ロベリアはトレニアに出された紅茶を飲みながら、カルミアに家でゆったりと過ごしていた。
私が留守にしている間に……。
「今日は、お前に仕事を持って来てやった、感謝するんだな」
「えぇ……あの、私、仕事は、あまりしたく……ないんですが」
その言葉を聞いたロベリアは手に持っているカップを受け皿の上に、強く音を立てて置いた。
「ひぃ! その、私は……あまり戦闘向きでは無いので、仕事もロクにこなせる自信が、ないです」
「なるほど……それなら心配には及びません。今回の仕事内容は、身辺調査ですから」
「身辺調査……ですか?」
ロベリアは「ええ」と答えると、一拍間を開け再び話を始めた。
「私が管理する区域の一部なのですが……妙な噂を耳にしまして」
「妙な噂……というか、自分の管理区域なら自分で仕事を請け負ってくださいよー」
カルミアは小動物の様に怒った。
「私も何かと準備で忙しいのだ。お前は暇だろう?」
「……いやー、うーん、その……はい」
「話を戻そう。その妙な噂だが――使徒に関することだ。お前も存在くらいは知っているだろう?」
「はい」
使徒、それは魔女を信仰する教団の中でも権力と力を持ち合わせている存在。その脅威は魔女に匹敵するとも言われている。力の使い方次第では、殺戮の道具にも……。
――良く聞きなさい、カルミア。魔法は使い方次第で、人を殺す魔法になる。しかし、反対に■■――■■。
「それと思わしき教団が頻繫に出入りをしているらしい。奴らの動きや目的は不明、噂だが……放っておくには、臭い。なので真実を確かめるために、調査を行う。お前の使い魔も一緒に連れていけ、役には立つだろう?」
話が終わるとロベリアは席を立つ。
「ああ、そうそう。定期的に報告を忘れるなよ」
ロベリアはいつも通り、ドアを破壊し去って行った。
こうしてカルミアは、またしても半ば強引に仕事を押し付けられたのであった。
◇ ◇ ◇
「ほえーここが商業都市、ペディランサスですかぁー」
「広すぎる……それに……」
「そこの嬢ちゃんたち、ちょっと寄って行かない? いい商品そろえてるよ!」
「ひぃぃぃ!」
店主たちの呼び声が波のように押し寄せ、逃げ場がない。
人の視線が、肌に突き刺さる。それだけで胸の奥がきゅっと縮んだ。
あれから五日後、私たちは仕事を請け負って商業都市、ペディランサスに来ていた。
――商業都市、ペディランサス。ここは各国の商人が最も集まると言われている三大都市の一つ。
甘い香辛料と焼き油の匂いが入り混じり、空気そのものが重たい。石畳を踏むたび、馬車の轍が水音を立てて揺れた。
世界に流通しているモノ全てが一度に手に入る場所でもあり、目利きの商人が質の良い商品を自国へ持ち帰り商売をする。
「あっ見てください、ご主人様! 綺麗なブレスレットですよ!」
「えーっと……金貨三十枚!? これ一つで三年は暮らせる金額です!」
「目を隠して歩こう」
「そうですね、ご主人様」
二人は目移りしないよう、余計なモノには目もくれず、ただ真っすぐと、目先の道のりだけを見た。
気づけば、空の色がゆっくりと沈み始めていた。やっとの思いで目的地である生活拠点の宿についた。
「地図と名前からすると、ここみたいですね」
そこは都市の路地裏にある日の当たらない、苔の生えた小さな宿だった。
カルミアが肩から背負っていたカバンが自然とズレ落ちた。
「すみませーん、誰かいませんかー?」
「なんか薄気味悪い……それに少し寒いような」
「そうですか? 私はむしろ、暖かく感じますよ?」
「えぇ……」
あれ、なんだろう……この違和感。宿にしては、どこかで見たことある構造。
「ねぇトレニア――」
カルミアがトレニアの方を振り向くと、その背後には、いつの間にか老婆の顔があった。
「で、ででで出たぁぁぁぁぁぁ!! あっ」
「ご主人様!? しっかりしてください!」
突然の出来事に気絶するカルミア。それを見たトレニアは、ご主人の方を掴み、前後に揺らす。
「おやぁ大変だね。部屋まで案内するよ」
「うおっ! 誰ですかあなたは!」
トレニアの背後から老婆が声を掛けた。
「ワタシかい? ワタシはねぇここの宿主、アリイ・オハイじゃよ」
「なんと! 宿主様でしたか!」
「早くソイツをベッドで寝かせてあげな。泡吹いとるぞ」
「あぁぁぁ! ご主人様ぁぁぁ!」
――……様、ご主人様!
トレニア……? あれ、私どうしたんだっけ……。ああ、そうだった。ロベリアさんに仕事を……仕事を? あ、あわわわ。
「ごめんなさい!」
カルミアは謝りながら勢い良くベッドから身体を起こした。
「ご主人様!」
「……トレニア? それにここは――」
「良かったぁ! てっきり、死んでしまったのかと」
「勝手に殺さないでよっ!」
そうだ私、あの時、背後のお婆さんに驚いて、そのまま気を失って……。
「やっと目を覚ましおったか。もう日が暮れとるぞ」
「あの、えっと……どちら様でしょうか」
「ご主人様、この方は宿主のオハイ様です!」
オハイ……どこかで聞いた名前。
カルミアの脳内でとある会話がフラッシュバックした。
◇◇◇
「おお! マンドラゴラのキーホルダーですか! キモカワですねぇ~!」
「……え?」
「おや、後ろに小さく名前も彫られています! いやぁ~プランダラ様、なかなかセンスがありますね! 今度お会いした時は、是非ともお喋りしたいです!」
◇◇◇
違う、聞いたんじゃない、見たんだ。
「それじゃ、ワタシは出てくよ」
「待ってください! オハイさん……いや、アリイ・オハイさん、ですよね? 確かマンドラゴラのキーホルダーに、その名前が彫られていたので……あの、間違っていたら、すみません!」
「それはワタシが作った、魔道具じゃな」
「「ま、魔道具ー!?」」
カルミアとトレニアが同時に声を上げた。
「あああアレって魔道具だったんですかぁ!?」
「てっきり、ただの飾り物かと……」
アネモさんもキーホルダーだって言ってたし。
「本来の使い方を知らん者からすれば、ただの飾り物にすぎん。それに、アレは趣味で作った魔道具じゃ。対して役にも立たん」
オハイは言葉を残し、部屋を出て行った。
「ご主人様、魔道具って確か、すごい技術をもった人しか作れないんですよね!」
「うん……正確に魔力と技術を兼ね備えた人だけど……」
でも、あの人からは魔力を一切感じなかった。それに魔道具も魔力を纏っているから、多少なりとも魔力を感じ取れるのに、それがキーホルダーには、魔力を感じなかった。
でもでも、嘘を言っているようにも見えなかったし……証明も出来ない。
「オハイ様が言っていた、本来の使い方とは、なんでしょうね?」
「分からない……けど、私たちは、とてもすごい人物に出会ってしまったみたい」
この宿はロベリアさんが、手配してくれた場所。もしかしてロベリアさんは、オハイさんの事を知っているのかな。だとしたら、どうして私と接触させたんだろう? 特に仕事内容と意味があるようには思えないけど……。
「トレニア、出かけるよ」
「今からですか!? もう、お外は真っ暗ですよー」
「それでいいんだよ。悪い事をしてる人たちは、大抵、気づかれにくい夜中に行動する。だから調査をするには丁度いい時間帯なんだよ」
「流石、ご主人様! 相手の行動を読んでいますね!」
ここからが本当の仕事、大罪の魔女としての初のソロ任務……。
もしかして、ロベリアさんは最初から――そう考えた瞬間、胸の奥で、小さな結晶が震えた。
――私なんかに出来るのかな。




