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Episode3 魔女の女子会

 ――竜討伐から二日後、カルミアは我が家に戻って来た。


「た、ただいま……」

「ご主人様~! お帰りなさいませ!」

「うぐっ! く、くるじい……」


 三日間家を空けていたカルミア。連絡がないまま、ただカルミアの帰りを待ち続けたトレニアは、姿を見るなりいきなり飛びつき、思いっきり抱きしめてくる。

 そのトレニアの胸の大きさに窒息死させられそうになるカルミア。


「あぁ……ご主人様の匂い、久しぶりですぅ~」

「あんまり嗅がないでよ! その、お風呂に入れてなくて、汗もかいたから、臭うかも……」

「でしたらっ! 今から一緒にお風呂に入りましょう!」

「えぇっ! 私だけ入ってくるよ……」

「遠慮しないでくださいよ~それぇ~」


 トレニアは強引にカルミアを脱衣所へと連れて行き、その勢いのまま服を脱がせる。同時にトレニアも服を脱ぎ、結局一緒にお風呂に入る事になってしまった。


「……お湯が沸いてる」


 さては帰ってくる事を予測して、事前に用意してたんだな……初めから一緒に入る事を前提に。


「さあさあ、ご主人様~お背中流しますよ~」

「うぅ……」


 お湯が擦り傷に沁みる……。


「なんだか懐かしい気分ですね~、昔はよく一緒に、お風呂に入ってましたよね~」

「……そうだね」


 カルミアはトレニアに頭を洗ってもらいながら会話を続ける。

 時々背中に当たる胸が、やや癪に障るけど……まあ、いっか。


「――ねぇ、トレニア」

「はい? なんですか、ご主人様?」

「トレニアは……私が主人で、本当に、よかったの……?」

「……」


 意外な質問に啞然とした様子のトレニア。身体の動きも硬直していた。しかし数秒した所で再び身体を動かし、言葉を放った。


「当然ですよ~! 私のご主人様は、カルミア様以外にあり得ませんっ!」

「そっか……」


 カルミアは俯き、小さな声で「ありがとう」と言った。彼女の顔からは一粒の水が滴る。

 二人は少し狭い湯船に身を寄せ合って入り、体と心を温めた。


◇ ◇ ◇


「あぁ、気持ち良かったぁ~」


 三日ぶりのお風呂は、汚れも疲れも一緒に汗と共に洗い流された。

 ポカポカで陽気な気分のカルミアの元にトレニアが手に何かを持って近寄ってくる。


「そういえば、ご主人様が不在の間に、お手紙が届いてましたよ?」

「手紙? 誰からだろう」


 トレニアから渡された手紙の封を開封し、差出人と内容の確認をする。

 すると陽気だったカルミアの表情が一気に青ざめた。


「ダリアさんから、女子会の、招待状……」

「グロキシニア様からですね! でも、どうしてご主人様は青ざめた顔をしていらっしゃるのですか? お知り合いですよね?」


 ダリア・グロキシニア。彼女は大罪の魔女の一人、強欲の魔女である。


「私、あの人、少し苦手なんだよね……」

「苦手、ですか?」


 あまりピンと来ていない様子のトレニア。


「ご主人様、そもそも得意なお方なんて、いらっしゃいましたっけ?」

「うぐっ!」


 図星の言葉に胸を槍で貫かれたかのような、痛みを感じた。


「あ、あまり乗り気じゃないけど……参加するよ。明後日、開かれるみたいだから、明日、洋服でも買いに行こう……」

「はいっ!」


 ――翌日、カルミアはトレニアと一緒に街で洋服を買った。


「ご主人様~、ちょっと、魔導書、買いすぎじゃないですか~」

「たまにしか街に来ないんだし、いいでしょっ」


 カルミアがふと、よそ見して歩いた時、前方から来る人と肩がぶつかってしまった。


「あっ、ご、ごめんなさい」

「もう~ご主人様、しっかりしてください!」


 その日は帰った後、魔導書を読み漁り、あっという間に一日が過ぎて女子会当日になった。

 いつもの服装からドレスに着替える。会場までの行き方は、手紙に書いてある転移魔法を唱えるだけ……とのこと。


「じゃあ、行ってくるね」

「お気をつけて!」


 カルミアは目を瞑り、詠唱を唱えると自身の足元に肩幅ほどの魔法陣が現れ、光と共に姿を包まれた。

 次に目を開けた時、そこには辺り一面に広がる花々と、丁寧に手入れされたバラ、そして太陽の木陰に隠れる白いテーブルとイス。そして紅茶を片手に優雅に過ごす女性の姿が二名。


「時間ピッタリね、参加してくれて嬉しいですわ」

「あら、カルミアちゃん久しぶり! 元気にしてた?」


 右手側には、白い衣装を纏う、気品に溢れた強欲の魔女、ダリア・グロキシニア。

 左手側には、青いドレスを纏う、どこか母性溢れる嫉妬の魔女、アネモ・プランダ。


「はい、おかげ様で――」

「ああ、もうっ可愛いんだから! 前より背も少し伸びたんじゃない? 髪も長くなったし、今度切ってあげましょうか? あっそうそう、先日訪れたペディランサスで買ったお土産、カルミアちゃんにも渡すわね!」


 アネモさんは会うたびに、私にお見上げをくれる。優しくて、良いの匂いがして、包容力がある、まるでお母さんみたいな人だ。私はそんなアネモさんに憧れている。


「はいっ名物のマンドラゴラのキーホルダー!」

「わ、わーい……嬉しいなぁー」


 気持ちは本当に嬉しいんだけど……いつも変わったものをくれる。こういう時、トレニアは「センスが皆無ですね~」とはっきりものを言うだろうなぁ。


「ダリアさん、はいっ!」

「……ええ、ありがたく頂きますわ。わたくしのコレクションには、まだ無い代物ですから」


 流石、強欲の魔女。なんでも欲しがるんだなぁ。


「これで全員揃いましたわね。他の魔女、ダチュラさんやシャルルさんにもお声がけしたのですが、残念ながら、ご予定があるみたいで来れないそうです」


 ――ダチュラの返答――

 紅茶に興味なし。アーシは食事がしたいから不参加。


 ――シャルルの返答――

 その日は予定があるから無理ね……でも、どうしても、あたしに来て欲しいって言うなら別に参加してあげてもいいんだからね!


「あらぁ残念ね。せっかくみんなの分のキーホルダー買ってきたのに」

「(全員分、同じモノを買って来たんだ……)」

「不要なら、わたくしが全部もらってもいいのですよ?」

「ダメよ、これは私が後でみんなに届けるわ……さっ楽しく女子会を始めましょう!」


 この女子会、一番張り切っているはアネモのみ。


「ねぇカルミアちゃんは、好きな人とかいないの?」

「ふぇ!? い、いいいないです、けど……」

「そんなの勿体ないわよ! こんなにも可愛らしいのに。髪もサラサラで肌も綺麗、それに誰よりも優しい心の持ち主なんだから」

「あは、あはは……」


 なぜなら、アネモさんは誰よりも恋バナにがめつい……。年齢は聞いた事ないけど、長年恋愛が出来ていないらしく、本当に自分を愛してくれる方と出会いたい、らしい。

 主催者のダリアさんと言うと……紅茶を飲みながらただ話を聞いているだけ。多分、情報が欲しくて女子会を開催するんだと思う……。

 そして私はいつも、この人たちに絡まれ、緊張で疲労するだけ……だから人付き合いが苦手なんですぅぅぅぅぅ――!


 女子会は八時間続き、カルミアはやっとの思いで開放された。


「つ、疲れた……」

「もう、ご主人様は体力が無いんですから~」

「……デジャブ」


 ロベリアさんにも言われた……そういえば、女子会の時、ダリアさんが気になる事を言っていたっけ。


◇◇◇

「旅行をするのは良いですけど、くれぐれも使()()には、お気をつけください」

「分かってるわよ! 魔力探知は常に警戒状態だから……でも、そのせいで旅行の気分も半減しちゃうのよねぇ~」

「カルミア、あなたも油断してはいけませんよ。最近、使徒には良い噂を聞きませんから」

「は、はい……」

◇◇◇


 使徒、存在は知ってるけど、いまいちよくわかんない。

 もしかして、お父さんたちを■■――■■……。どうして――


「それはそうと、ご主人様、その手に持っているモノは?」

「あぁ……アネモさんから貰った、お土産のキーホルダー、だけど?」


 きっと「センスが皆無ですね~」って言うんだろうなぁ。


「おお! マンドラゴラのキーホルダーですか! キモカワですねぇ~!」

「……え?」

「おや、後ろに小さく名前も彫られています! いやぁ~プランダ様、なかなかセンスがありますね! 今度お会いした時は、是非ともお喋りしたいです!」


 私、魔女だけど、センス無いのかな……がくっ。


「ご主人様!? こんな所で寝たら風邪引きますよ! 起きて、ください~! ご主人様~!!」


 その日の夜、星空が森の中にある魔女の家を照らす。スポットライトを浴びたかのように、トレニアの叫ぶ声が森に響いたのであった。

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