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大罪魔女の落ちこぼれ   作者: ゆずきあすか
カトレア魔法学園 編
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22/24

Episode20 審議の見極め

 ロベリア進行の元で会議が行われた。

 今夜の主な議題は二つ。

 カトレア魔法学園を襲撃した者たちの正体と目的。そして、今回の事件に使()()が関与している可能性についてだった。

 円卓の中央には、現場の状況を記した報告書と、残留魔力を記録した小型の水晶板が並べられている。淡い光を明滅させる水晶を前に、魔女たちの表情からは、先ほどまでの気の緩んだ様子が消えていた。


「今回の学園襲撃について、私は単独犯ではなく、複数人による計画的な犯行である可能性が高いと見ている」


 ロベリアは席に座ったまま、全員の顔を順番に見渡した。


「実行犯として確認されたのは二人。しかし、学園への侵入経路や魔石の用意、襲撃の時機まで考えれば、二人だけで準備したとは考えにくい」


 ロベリアが指先で円卓を軽く叩くと、水晶板に学園の見取り図が浮かび上がった。魔獣の出現地点や戦闘の痕跡が、赤い光点として記されている。


「そこで、現場に残された魔力の痕跡や使用された術式を、それぞれの得意分野から分析してもらった。順番に結果を報告してくれ」


 その言葉を受け、フィグが片手を上げた。

 

「ほな、まずは僕から話しましょか」


 フィグが指を鳴らす。

 すると円卓の上に広がっていた見取り図が切り替わり、魔獣と、その複雑な魔力の流れが映し出された。


「僕が調べたんは、魔獣に残っとった魔力についてや」


 彼は袖の中でゆったりと腕を組み、淡々と話し始めた。


「先に結論から言うと――あの魔獣たちは()()状態やったんや」

「普段より気性が荒く感じたのは、そのせいか」


 フィグは、ゆっくりと頷いた。


「それだけやない。より凶暴性を高めるために、本能を刺激されとった。理性も自我も、ほとんど残ってへん状態や」

「あむ……えぐいな。洗脳か」


 ダチュラが、シャルルの焼いた菓子を頬張りながら声を漏らした。その口調は普段と変わらず淡々としていたが、僅かに眉をひそめている。


「せやけど、魔獣に残っとった痕跡はそれだけや。術者を特定できるほどの情報は得られへんかった」

「なら、次はあたしね」


 フィグの報告が終わると同時に、シャルルが片手を上げた。


「あたしは中庭の植物園に残されていた植物を調べたわ」

「それって園芸部が管理している植物ですよね?」


 カルミアが尋ねると、シャルルは頷いた。


「ええ。植えられていたものの大半は、どこにでもある普通の植物だった。けど一株だけ、明らかに異質なものが混ざっていたの」


 シャルルが指を鳴らす。


 円卓の中央に浮かんでいた学園の見取り図が消え、代わりに一輪の植物が立体映像として映し出された。黒ずんだ茎。幾重にも重なった肉厚な葉。そして、獣の口を思わせる大きな花弁。

 その周囲には、採取した根や土壌に残されていた魔力反応が、細かな数値とともに並んでいる。


「見た目は植物だけど、内部の構造は魔獣に近かった。根に残っていた魔力も、学園を襲った魔獣たちとほぼ一致しているわ」


 フィグは映像を見上げながら、口にする。


「ほな、魔獣は召喚されたんやなくて、その植物から生まれたっちゅうことか?」


「そういうことになるわね」


 シャルルの返答に、花園を静かな風が吹き抜けた。

 円卓の上で輝く植物の映像が、風に揺られるように微かに明滅する。


「あむ……植物から魔獣なんて、あむ……そんなことが可能なのか?」


 菓子をもう一つ、もう一つと口へ運びながら、ダチュラが首を傾げた。


「可能だよ」


 答えたのはダリアだった。

 頬杖をつき、興味深そうに映像を眺めている。


「戦争が絶えなかった時代、植物を培養槽の代わりにして魔獣を生産する兵器が使われていた。文献の中でしか見たことはないけれどね」

「えぐぅ……」


 ダチュラが露骨に顔をしかめる。


「でも、こんな植物……前日までは生えていませんでした」


 カルミアの言葉に、ロベリアは腕を組んだまま目を細めた。


「ならば、襲撃の直前に何者かが持ち込んだのだろう」

「確かその日は、外部講義で多くの人が学園を出入りしてるわよね。実行犯の二人とは別に、講師に紛れた協力者がいた可能性もあるわ」


 アネモがそう付け加えると、円卓を囲む魔女たちの表情が僅かに険しくなった。


「植物の件と関連して、そのまま石造物についても報告してもらおう」


 ロベリアの視線がダリアへ向けられる。

 ダリアは一瞬だけきょとんとした後、自分を指さした。


「……ああ、今度は僕の番か」

「忘れていたのか?」

「まさか。少し考え事をしていただけさ」


 悪びれた様子もなく笑うと、ダリアは円卓の映像へ手をかざした。

 異形の植物が消え、代わりに石造物が浮かび上がる。中央には魔石を収めるための窪みがあり、その表面には、現代では使われていない複雑な紋様が刻まれていた。


「中庭に置かれていたこの石造物だけれど、現代の魔道技術で造られたものではないね」

「古いもの、ということか?」

「補足するなら、かなり古い。僕も実物を見るのは初めてだけれど、構造と刻印には見覚えがある」


 ダリアは椅子の背にもたれ、映像の一部を指先で拡大する。


「これは古代魔道具の一種――魔晶揺籃(アーク・クレイドル)さ」


 その名が告げられた途端、僅かなざわめきが円卓を巡った。


「仕組みそのものは単純だ。中央に魔石を設置し、内部の術式によって、その魔石が持つ魔力を増幅して周囲へ拡散する」

「本来は何に使われていたの?」


 アネモが頬杖をつきながら尋ねる。


「都市や施設へ魔力を供給するための装置だったと考えられているよ。ただし、増幅されるのは純粋な魔力だけとは限らない」


 ダリアの指先が、魔石を収める窪みをなぞる。


「設置した魔石に瘴気や呪いが含まれていれば、それらも同様に周囲へ拡散される。使い方を誤れば、魔道具そのものが大規模な汚染源になるわけだ」

「なるほどな」


 ロベリアは映像を睨むように見つめた。


「カルミアが報告していた、実行犯の精神状態の異常は、偶然ではなく意図的に仕組まれたものだったという事だ」


 魔石の力を周囲へ広げる古代魔道具。

 理性を失った魔獣を生む植物。

 これまで個別に存在していた情報が、一本の線として繋がり始めていた。


「では最後に、拘束した二人への尋問結果を聞こう。アネモ」

「は~い」


 名を呼ばれたアネモは、待っていましたと言わんばかりに笑顔を浮かべる。


「二人とも、案外あっさり話してくれたわ。おかげで尋問の後に、街を観光する時間まで取れちゃった」

「観光の報告は必要ない。有益な情報は得られたのか?」

「相変わらずせっかちね~」


 アネモは唇を尖らせたものの、すぐに表情を引き締めた。


「まず、エルフの女性について。彼女の身元を調べた所、奴隷として売買された契約書が見つかったわ。以前にも貴族に売買され、所有されていたみたいだけれど、その主人が亡くなった後、別の人物へ引き渡されたそうよ」

「新しい主人の正体は?」

「顔も名前も知らないって。宿で暮らすための最低限の報酬が前払いされて、指示はすべて手紙で届いていた。それ以上の情報は持っていなかったわ」

「雇い主は徹底して身元を隠しているな」

「ええ。手紙の筆跡も全て一致しないし、差出人を辿るのは難しいでしょうね」


 ロベリアは短く息を吐く。


「男の方はどうだった?」

「そちらからは、かなり大きな情報が得られたわ!」


 アネモは僅かに身を乗り出し、円卓を囲む一同を見回した。


「彼は――白羊と面識があるそうよ」


 その名を聞いた瞬間、カルミアの脳裏に記憶共鳴の中で見た、過去の光景が蘇る。

 追い詰められていた男の前へ現れ、手を差し伸べた人物。確か、その人も自分の事を白羊と名乗っていたような……。


「戦争を支持する使徒か」


 ロベリアの声で、カルミアは現実へ引き戻される。


「やはり今回の一件には、使徒との繋がりがあったようだな」

「(ど、どうしよう……!)」


 カルミアの背中に冷たい汗が流れた。


「(記憶共鳴に出て来た名前だけど、完全に忘れてた……!)」


 あの時は状況も切迫してたし、戦いが終わった後は緊張の糸が切れ、そのまま頭から抜け落ちてしまって……。


「(い、今さら言ったら、絶対に怒られる……。知らないふりをしよう)」

「彼の話では、白羊は現在、セレーネ王国を拠点に活動しているらしいわ」

「活動の目的と詳細は?」

「彼が言うには、()()は孤児院を――」

「――待ってください!」


 カルミアの声が、夜の花園に響いた。

 全員の視線が一斉に集まる。

 自分でも驚くほど大きな声を出してしまい、カルミアは肩を縮めた。それでも、今聞いた言葉を無視することはできなかった。


「どうした、カルミア?」

「えっと……今、白羊を()()と言いましたか?」

「ええ、そうよ」


 アネモは少し不思議そうに目を瞬かせる。


「これまで詳しい素性は分かっていなかったけれど、彼の証言によれば、二十代前後の女性らしいわ」

「違います」


 カルミアは膝の上で両手を強く握り締めた。


「私が見た人物とは……性別が違います」


 円卓を囲む空気が、瞬く間に張り詰める。


「カルミア、それはどういう意味――」

「なるほど。君は――記憶共鳴で何かを目撃したんだね?」


 ロベリアの言葉を遮ったのは、ダリアだった。

 先ほどまでの軽薄な笑みを消し、カルミアを静かに見つめている。


「どうやら彼女は、僕たちの知らない情報をもっているみたいだよ」

「……あ」


 口に出した後で、カルミアはようやく自分が隠そうとしていたことまで明かしてしまったと気づいた。

 やってしまった……。

 冷や汗を浮かべながら、勢いよく頭を下げる。


「そ、その……言い忘れていました! 本当に、本当にごめんなさい!」

「謝罪は後でいい」


 ロベリアの声は冷静だったが、僅かに眉間へ皺が寄っている。


「まず、何を見たのか話せ」

「は、はい……」


 カルミアは恐る恐る顔を上げた。


「私があの人と記憶共鳴した時、最後のほんの一瞬だけ、白羊を名乗る人物が現れたんです。その人は男性で……追い詰められていた彼を助けていました」

「ほんの一瞬、か」


 ダリアがその言葉を確かめるように繰り返す。


「では、拘束した男は嘘の供述をしたということか?」


 ロベリアの問いに、カルミアは迷いながら頷いた。


「……恐らくは」


 胸の奥が、鈍く痛んだ。

 あの時、信じるって言ったのに……。

 男の過去を知り、言葉を交わした。だからこそ、彼の証言が嘘だった可能性を素直に受け入れられない。


「いや、彼の証言も真実なのかもしれないよ」


 ダリアの言葉に、カルミアは顔を上げた。


「ダリア。これ以上、余計な混乱を招く発言は控えて欲しい」

「大真面目さ」


 ロベリアに釘を刺されても、ダリアの表情は変わらなかった。


「記憶共鳴の話を聞いて、一つ腑に落ちない点がある」


 ダリアが指先を動かすと、円卓の映像が変わり一冊の本を模した図が現れる。


「人間は物事ごとを綺麗に記憶できるわけじゃない。強い感情を軸にして、前後の事象が連鎖するように保存されている」


 開かれた本の頁が、光の粒となって次々に繋がっていく。


「記憶共鳴の起点が、彼の強い感情によって決まったのだとすれば、終点もまた、その感情が収束する地点になるはずだ」

「つまり、白羊が現れた直後に途切れるのは不自然だと?」

「そういうことさ」


 ダリアは本の映像を閉じる。


「感情の起伏が高まったまま記憶が途切れるのは、あまりにも不自然だ。その後に何が起きたのか、本来ならば記憶の流れに残っているはずだからね」

「それが無いってことは、記憶を無くしているってこと?」


 シャルルが呟く。


「いいや、彼の供述では記憶を無くしているよ言うよりは、別の記憶を重ねて覆い隠された――上書きに近いかもしれない」


 ダリアの言葉を受け、ロベリアは険しい表情で腕を組み直した。


「古代魔道具を用意し、植物から魔獣を生み出す技術まで有している相手だ。記憶へ干渉する術を持っていても不思議ではない」

「だとしたら、白羊が女性だったと証言も……」

「本人にとっては、紛れもない真実なのかもしれないね」


 アネモの言葉に、ダリアは静かに答える。


「そうなると、セレーネ王国を拠点にしているという情報も怪しいわね」


 アネモが頬へ指を添えながら呟く。

 アコネルの発言から得た情報が、根底から揺らぎ始めていた。

 その沈黙を破ったのは、ダリアだった。


「僕に、いい案がある」


 楽しげな口調ではあったが、その瞳には真剣な光が宿っている。


「彼を、もう一度彼女に会わせてみよう」


 ダリアの視線が、真っ直ぐカルミアへ向けられた。


「……もしかして、私ですか?」

「そうだよ」


 円卓を囲む六人の視線が、次々とカルミアに集まる。

 突然、自分へ託された役目の重さに、カルミアは息を呑んだ。ダリアは椅子の背に身体を預け、僅かに口元を緩める。


「記憶に何が隠されているのか――」


 月明かりを受けた花々が、風もないのに微かに揺れた。


「この真相を見破れるのは、君しかいないんだ。カルミア」

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