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大罪魔女の落ちこぼれ   作者: ゆずきあすか
カトレア魔法学園 編
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13/29

Episode13 悪夢の襲来

 カルミアとロベリアの前に現れた魔獣は、耳を裂くような咆哮を上げた。

 濁った赤い瞳が、獲物を定める。

 次の瞬間、魔獣は地面を蹴った。


「――魔力弾(エーテルショット)!」


 カルミアが反射的に放った魔法が、青白い光弾となって飛翔する。

 ――ドンッ! 魔獣の胴体へ直撃。だが。


「……っ!」


 魔獣は僅かによろめいただけだった。分厚い皮膚に弾かれたように、傷は浅い。

 カルミアの胸が、きゅっと縮む。

 

「(効いていない。やっぱり私の魔法じゃ……!)」


 魔獣が唸る。

 怒りをぶつけるように地面を前脚で削り、再びこちらへ突進してきた。

 距離が一気に縮まる。


「(速いっ!)」

「――火球(ファイアボール)」


 紅蓮の炎が魔獣を呑み込む。巨体が炎の中で黒い灰となって崩れ落ちた。


「……」


 カルミアは、その場に立ち尽くした。


「す、すみません……私――」

「カルミア」


 謝罪を遮るように、ロベリアが名前を呼ぶ。


「良く聞いてください。この学園は外部からの侵入は不可能です」


 ロベリアは周囲へ視線を走らせる。


「だとすれば内部から発生している。これほどの数を召喚するには、それ相応の魔力を消費するでしょう……どこかに強い魔力反応が生じるはずです」

「魔力探知! じゃあ私たちはそこに――」

「いいえ。その地点には、あなた一人で向かいなさい。私はここで魔獣を引き受けます」

「で、でも……」


 カルミアの声が震える。


「私にそんな力なんて……」

「――出来ない理由を探している暇はありません」


 言葉が、胸に突き刺さった。


「自分に出来ることを考えなさい。そして、自分に与えられた役目を、最後まで果たしなさい」


 ロベリアは、まっすぐカルミアを見る。

 カルミアは唇を噛んだ。怖い。逃げたい。それでも――。


「……分かりました」


 小さく頷く。


「行ってきます」


 カルミアは目を閉じた。

 魔力探知に神経を集中させる。生徒や教員などの余計な魔力反応を一つずつ除外し絞って行く。

 それでも魔力は至ることで感じ取れる。

 魔獣の数が多い。でもっ――!

 通路の先の広い空間、そこだけ一際濃い魔力の塊が存在していた。


「……見つけた。こっちだ」


 カルミアは駆け出した。

 魔獣の位置を把握している今なら、正面から遭遇する必要はない。角を曲がり。壁際を走り。物陰から物陰へと身を滑らせる。足音を殺し、息を抑える。

 ――存在そのものを消すように。


「……!」


 しばらく進んだところで、カルミアの足が止まった。

 濃い。あまりにも濃い。魔力が異常なまでに集中している。その先は中庭へ繋がる通路だった。


「……中庭?」


 そこは数時間前に一度通った道だった。嫌な予感がする。カルミアが一歩踏み出した、その時。

 ――ドォンッ!! 遠くから、凄まじい音が響いた。


「……っ!」


 カルミアが振り返る。


「ロベリアさん……?」


 不安が胸を締めつける。

 戻るべきか。助けに行くべきか。


「……ダメだ。ロベリアさんが私に任せてくれたんだ。自分の役目を果たさないと。急ごう」


 カルミアは再び走り出す。

 そして視界が開けた。その先は中庭だった。カルミアの目には、今朝まで存在しなかったものが、そこに置かれている。

 石造りの台座。

 その中央に一つの魔石が埋め込まれていた。 淡い光が、脈打つように明滅している。


「これが……発生源、なのかな? 見た事ない形――」


 台座には無数の溝が刻まれている。

 複雑な術式。

 そして、それらすべてが中央の魔石へと繋がっていた。カルミアが触れようとした、その時。


「そこから離れなさい」

「っ……!?」


 背後から、男性の声が響いた。


「あ、あの……わ、私はっ」

「……生徒? どうしてここにいるのですか。辺りは魔獣で混乱状態。避難指示が出ています」

「えっと……」


 言葉に詰まる。

 男の立ち振る舞いは教師そのものだが、学園では見た事ない顔ぶれだった。カルミアは探られないよう、慎重に答えを探す。


「ま、迷子になってしまって」

「迷子?」

「先月、編入してきたばかりで……まだ道を覚えきれてなくて」

「避難先は、この廊下を真っ直ぐ行って、突き当りを左ですよ」

「ありがとうございます」


 カルミアは怪しまれないよう、ゆっくりとその場から離れる。数十メートル離れた所で、男が口を開いた。


「ところで――どうして、あれに触れようとしたのですか」

「……」


 そこ言葉に足が止まった。


「すみません。ただの好奇心です」

「……そうですか。ここ、とてもいい場所でしょう」


 予想していなかった言葉に、カルミアは思わず顔を向ける。


「学園の中でも、この中庭は多くの生徒が利用する場所です。昼食になると、五つあるベンチは全て埋まって……花壇に腰かけて昼食をとる生徒は多かったです」


 穏やかな口調だった。


「とても人気の場所なんですね」


 だから私は――油断した。


「――蔓縛(ヴァインド)」

「っ……!」


 地面から植物のツルが生え、カルミアを瞬時に拘束した。


「君は本当に道に迷っただけかもしれない。だけど、これを見られてた以上、見過ごすわけにはいかないのです」

「……目的は、何ですか」

「一般の生徒に危害を加えるつもりはないです。ただ――貴族は例外ですけど」

「ここは……身分も種族も関係なく、みんなが平等に学べる場所です。どうして貴族だけを――っ!」


 その言葉を口にした瞬間、拘束が強くなった。


「確かに、ここは平等が理念です。だけど、外の世界は違う……。権限を武器にしたクズが上に立つ。それが理不尽であっても、発言は絶対。そんな事が許されるはずがないっ!」


 拘束は更に強さを増した。


「僕は貴族を全員殺します。そのためだけに、今を生きて来た」

「――させません。そんなことさせません! 私が必ず止めます」

「……」


 男は無言のまま、カルミアに向かって手を翳す。魔法の構成を初めた、次の瞬間。ゴゴゴ、と大きな音と共に地面が揺れる。


「(この振動……ロベリアさんの方からだ。しかもこっちに向かって一直線に――)」


 揺れは次第に強まり、やがて声が振動と一緒に聞こえて来た。

 それはまるで――地を裂くような、獣の咆哮。


「うおおおおおおおっ!!」

「……この声」


 カルミアは向かってくる声で、相手を察した。

 男は方向を変え、近づく音の方へ魔法陣を構成する。

 カルミアが瞬きをすると、男の目前には、フリルを揺らすメイド服が突然と現れた。その動きは装いと正反対な動きをしていた。

 男の防御魔法を破り、鈍い音が鳴るより早く、メイドの蹴りが男の腹部を正確に捉えていた。


「――かっ!?」


 男の身体が浮き、後方へ吹き飛ぶ。


「ご主人様っ! 助けに来ましたーっ!!」


 澄んだ力強い声が響く。

 カルミアの視界に飛び込んできたのは、あり得ないはずの存在だった。本来なら、家で留守番をしているはずの存在。それが今、戦場の中心に立っている。

 その背中は、迷いも、躊躇もなく、ただ主を守るためだけに在った。


 彼女は、カルミアのメイド――トレニアだった。

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― 新着の感想 ―
良質な魔法ファンタジーでした! ブクマと星支援失礼します!
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