Episode13.5 影の刺客
――同時刻、屋上にて。
「はっはっは……ついに動き出したかっ!」
学園を見下ろす高所で、愉快そうな声が弾んだ。混乱と悲鳴が渦巻く中庭を、まるで芝居の舞台でも眺めるように。
その人物を、フローレンスは物陰から静かに観察していた。
「(――情報にない人物。騒動を引き起こした者たちの仲間か、それとも別の第三者か)」
注意深く、そして相手に悟られないように、息を殺す。
「(どっちにしろ……厄介だ。何せ相手に魔力を感じ取れない)」
「余興が乗ってきたな……だが、さっきからコソコソと見られていると、どうにも気が散る」
「――っ!?」
背筋が、凍りつく。
これ以上の潜伏は危険だと判断したフローレンスは、自ら姿を現す事にした。
「いやいや、すみません。学園内に突然魔獣が現れて……逃げてきたんですが……。屋上には先客がいらしたので、驚いて、つい反射的に……あはは」
現すと言っても来客のフリをして。
「口が達者なようだな。まあいい、貴様も観戦するか?」
この男は状況を愉しんでいる。危険な人物に変わりはない……先手必勝!
「いえ、僕はもっと安全な場所へ避難しますよ――」
フローレンスは、呼吸を整えながら距離を詰める。
――射程に入った。
「虚弓」
小声で魔法を発動されせると同時に、魔力が凝縮される。手の中に現れた弓と矢。後ろで腕を組んだ状態で矢を放つ。彼の扱う魔法、虚弓は必中魔法。また魔力で構成されているため、そもそも魔力を持たない人間からは認識されない。
勝ちを過信した時だった。
「……鬱陶しい羽虫だ」
男が腕を振り下ろした次の瞬間。
――空間が砕けた。見えないはずの矢が可視化され、圧し潰されるように破壊される。
「……っ!?」
「はぁ……愚者の力が、この程度とはな。少々、期待外れだ」
男の発言にフローレンスは同様を露わにした。
「……なぜ知っている。僕の正体を」
「さあな。なぜだろうな」
男は肩の力を抜いたまま、両腕を軽く持ち上げる。肘は少し外に張り、手のひらは上へ向けて開かれていた。如何にも、わざとらしいとぼけ方だった。
そのとき――袖がずれ、腕に刻まれた紋様が覗いた。
「その紋様。まさか……黄昏か……!」
黄昏は、大きな犯罪組織、密輸団の名前。組織の中でも幹部以上が証として刻まれる、黄昏の模様。
「儂は貴様と戦う気はない。今日は、観戦に来ただけだ」
「……観戦だと?」
「だから――手出しはするなよ」
圧が、空気を押し潰す。
危険過ぎる。この脅威は、最悪の事態を招く存在……カルミアくん、ヒバナ……。
胸が、締め付けられる。
「(ごめん……僕は、ここで死ぬかもしれない。相手は格上。それでも――今、退けば二人を守る事は出来なくなる)」
フローレンスが、再び魔力を練り上げた、その瞬間。
――ゴゴゴゴゴゴッ!!
大地が、唸った。
「今度は何ですか!?」
「……チッ。まがい物か。せっかくの観戦が台無しではないか」
男が、低く呟く。
異変は、その場にいた全員が同時に感じ取った。空気が揺れ、呼吸がわずかに乱れる。
フローレンスと男の視線は、中庭の二人へと向けられた。




