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なんだか無茶苦茶な雰囲気

高い空、風で流れていく白い雲、囀る小鳥たち。

気づけば、仰向けになってだいのじを描いていた。

耳元を三つ葉の草が、カタバミだろうか、それがくすぐる様に風でそよいでいる。


しばらく、無言のままそのままでいると、上の方から、知っている顔がのぞいた。


「いつまでそうしているつもりだ」


「だあぁ!?」


声を上げながら勢いよく、身を起こす。


「ば、ば、バババ!」


「おう、無事これたようだな」


「バッカスさん!」


草原に胡坐をかいて、スキットルで酒を煽っている大男、バッカスに詰め寄る。


「…やってくれましたねえ」


「どうしたわが眷属よ、迎え酒を所望か?」


「…ん…ぬぬぬぅ…」


顔を手で覆い、ぶんぶんと頭を振った後、一息入れ、落ち着いたところで、再びバッカスに向き直る。


「無事に転生を終えたようではないか、ほれ」


バッカスはあの酒器に酒を注ぎ、俺に差し出す。


「…」


なんだか言いたいことはたくさんあるが、とりあえずその酒を受け取り、一気に煽る。


「………うっまぁ!!」


「そうだろう、そうだろう!」


口元の酒をぬぐい、辺りを見やる。

一面の草原だ、大分離れた先に森が、その更に向こうには山が見える。

美しい景色だ、状況が状況でなければ、一日だって見ていられるだろう。


「げふぅ…ここは、テラ…なんですよね」


「おうとも、我らの新天地よ」


バッカスが再び、酒に満ちた酒器を俺に渡してくる。


「…どうして俺なんです」


それを受け取り、対面に座って胡坐をかく。


「まぁ、気まぐれだな」


「…気まぐれで俺を殺したんですか」


「おいおい、殺したなどと、聞こえの悪いことを言うな」


バッカスは自らの酒を煽り、こちらを見据える。


「人の子が、畏れ多くも神の力を手に入れたのだ。

感謝されこそすれ、そのような目を向けられるいわれはないぞ」


「…女神さまが呆れられてましたよ」


「…だれだった」


「はい?」


俺は手元の酒を煽り、バッカスに突き返す。


「お主を現界させた神よ、どのお方だ」


にやにやと、バッカスが酒を含み、器越しにこちらを見てくる。


「…アフロディーティ様です」


直後、バッカスは勢いよく酒を噴き出す。


「ぶあぁ!?

な、なにをしてんです!!」


「アフロディーティ様だと!?

馬鹿な事を申すな!何故お前なんぞに…」


バッカスの動きが止まる、目を閉じ、何かに耳を澄ますかのように動きが無くなる。


「…」


俺は酒器の酒を舐めながら、それを見つめる。

すると、バッカスは大きくため息を吐き、その後酒器に酒を注ぎ始める。


「…人の子に驚かされるとはな、この話、簡単ではなくなってきた」


「なにがです」


「どこまで聞いた」


俺はアフロディーティ様に聞かされた話をざっとバッカスに聞かせた。

するとバッカスは、重々しく口を開いた。


「…かの地で信仰を失った我々は、力を失い、それをどうにか補うために新たな世を作った。

多大な時間と労力をかけてな」


「かの地ってのは…地球ですよね」


「そうだ、お前は東の子…日ノ本の子ゆえ、あまり覚えがないかもしれんが。

我々神族はかつては、あの世の神族の中でも絶大の力を誇っていたのだ」


神話、という奴だろうか、アフロディーティ様の名前をどこかで聞いたことがある気がしたが。


「そう、神話というやつだ」


「ぶぇ!?

…も、もしかして…」


「眷属の思考ぐらい心眼を使わずともお見通しよ」


「…」


酒器の酒をちびりと嘗める。


「そう、神話となってしまったのだ。

我々の数々の奇跡や行いは、彼の地では創作の類、物語となって久しい。

人の子は知恵を付け、我々の行いを自らの技術で再現するまでに至った」


「…本当にいらしてたんですね、神様って」


「いずれは世の全てに光が当たり、あれらのような存在の居場所は失われる。

…まぁ、日ノ本は懐が深い故、未だに力を持つ柱もおるが。

我々は自らの存在を、人々の記憶に委ねるまでに落ちてしまった」


「だから、この世界を作った」


「そうだ、だが我々は人の子在りきの存在、この地でも信仰を得られなければ元も子もない。

それ故にこの世界を作った神々の、それぞれの世界でもって、それぞれの方法で人の子を形作ったのだ」


「…地球の歴史を再現した、と」


「わかりやすく言えばそうなるな。

…お主存外理解が速いではないか」


「ファンタジーはアニメや映画で、一応有名どころは抑えていたくらいには履修済みですね」


「日ノ本の子は説明が速いとはこの事か」


お互いの酒を一気に煽り、再び向き直る。


「で、俺を眷属ってものにした理由は何なんです?

…本当に気まぐれにこちらに引っこ抜いてくれたわけではありませんよねえ」


「ふむ…もとより、我々は自らの力を振るう以外に、気まぐれに人の子に力を与える、与えてしまう性質があるのだ」


「結局気まぐれですか」


「まぁ聞け、この世界でもその性質のまま…でいてしまったのが良くなかったのであろうなぁ。

一部の眷属達が増長し、彼の地とは違う方面で人の子としての世を推し進めてしまった」


「地球とは違う?」


「いわゆる、魔法や呪いというやつだ」


「お、らしくなってきましたね」


「科学で再現するのではなく、神秘をそのまま受け入れてしまったのよ。

精霊は精霊のまま、奇跡は奇跡のままそこにあり、それらを受け入れたまま、その権能を自らの力で再現しつつあった」


「…どういうことです?」


「人が神の域に到達しつつあったという事だ、恐らくこのままでは再び神々の立場がなくなる…と考えた」


「…なんだか、俺の知る神様らしくないというか、あの、なんでしたっけ…バベルの塔的な。

そうなる前に出た杭を打つのが神というものでは?」


「…かの地ではそのようにしたさ、だがあれは失敗だったとされた」


バッカスは酒を注ぎ、勢いよく煽る。


「出る杭は止められんと悟ったのよ。

我々が神罰の名のもとに幾百幾千の人の子に槌を振りかざしても、結果として人の世は来た。

信仰による神々の衝突もあったが、それは一要因にすぎん。

結局、我々は人の世の営みの中に飲み込まれてしまった」


「…難しくなってきましたね」


「その二の舞を防ぐために、神々は与えるだけではなく、直接各々の力を宿す依り代をこの世に降ろすようになった。

それが神人、純粋な神の分け御霊よ。

強大な力を持った神人たちは、この世の国家、分野、技術で権能を示し、人々は彼らに信仰を向けるようになった。

そして向けられた信仰は、神人を経由して主たる神々にも向けられることになる。

眷属に対して向けられるものよりも純粋に大きな信仰がな。

かくして、神々は信仰を集め、永らくその権能を保つに至る…」


バッカスは再び酒を煽ると、苦笑いを浮かべた。


「筈であった」


「…うまくいかなかったわけですね」


「そうとも、うまくはいかなかった。

もとより神の力を分け与えられた眷属たちは、新たに降り立った神人たちの下につくことをよしとしなかった。

神人の力を超えようとするものも現れた、本末転倒だな。

…そして、戦になったのよ、眷属達と神人の間でな」


「…」


「多くの眷属、それに関わった人の子が死に、神人も多くが力を失い、神々の元へと還った。

…神によっては神人を遣わすために身を半分に割った者もおる、そういったものは神人が力を失ったことで、この世でも力を失い、今や世界を揺蕩う一部となってしまった」


「…なんとも、いえませんね。

あまり、俺がいたところと状況が変わらないような気がしますが」


「そこよ、結果として我々はこの地でも同じ轍を踏んでいる。

で、あればこそ、残った神々は考えた」


息を呑み、バッカスの次の言葉を待つ。


「地球から、良き人の子を神人として招き、この事態をどうにかしてもらおうとな!」


「結局「人」任せですか!?」


酒をこぼさぬように抱えながら後ろに転げる。


「我々とて学びは欠かさぬ、地球の文学や映画はいい参考資料だ。

それによくいうであろう、『なろう系』がどうとか。

あれはいい、小気味良く話が進むし、痛快に世界を救っておる」


「あ、あれは創作ですよ!?

そうそう、うまいこと行くわけがないしょうに!」


「何を言うか、人の子で想像しうることは為せることの方が多い。

現に、我々は人の子の発想力や、創造の力に負けたのだからな」


「…いやいやいや…えぇ…?」


「そして、それはうまくいったのだ」


「はぁ!?」


「地球の各地から神人として召し上げられた彼らは、その素質のままに世界を治め、眷属たちと手を取り合い、この世に安定を取り戻してくれた。

やはり、この世界にはない感覚が必要だったのだ。

眷属たちもまた、人の子であり、それと手を取り合うのもまた人の子であるべきだったのよ」


「それはまぁ…納得というか、なんというか…」


「おかげで、今はこの世も平穏無事、人の世故、小さき争いはあるものの、健やかに世界は回っておる。

ほれ、イヌイ、この世界に乾杯だ!」


「…乾杯」


酒器を打ち鳴らしあい、お互いに杯を空ける。

そこで、ふとある思いがわく。


「…まってください」


「…ぷはぁ!

…なんだ、おかわりか」


「ちがいます、おかわりはください。

…おっとっと…どうも。

だったらなんで俺はここに呼ばれたんです」


「…あぁ、それか」


「くる必要なくないですか?

なんかこう、世界平和の為に協力してほしいとか、そういうのを期待していたっていったら、少しは期待もしてましたけど」


「それなあ、まぁ。

色々な、我にもあるのだ」


「その色々を聞いているんですが」


「…他の神々がな、呑みの席で自慢してくるのだ」


「…」


「やれ自分の神人がどうだ、眷属が何をしたーとな…我はその話には参加できず…」


「まさか…」


「…悔しかったのだ、我は酒の神なのに、宴の席で主役になれぬとは…アレスの叔父御もそれをからかってくるし」


「…まさか、酒の席のネタにするために俺を…?」


「…まさかアフロディーティの姉御が関わるとは思ってもみなかったが…後で何を言われるか…」


「な、なに…!

…何をしてくれてるんですかぁ!?」


「何をそんなに騒ぐのだ、お前にとっても悪い話ではなかろうが」


「なに、なんですか?

宴の肴にされるために、おれは人間をやめさせられたと…?

そういう事ですか!?」


「ちょ、ちょっと落ち着け」


「はぁあぁああ…!

だから、人間に座を追われたんじゃありませんかぁ!?

自分勝手すぎますよ、本ともう神様ってやつわぁ!!」


「…おかわりいるか?」


「ください!!!!」


…


「まあ…その、今の世でもいろいろあるのだ」


俺は今、バッカスからもらった何かしらの動物の乾物をかみしめながら寝転がっている。

怒りと呆れで煮える頭を草の冷たさで乾かしながら、そっぽを向いて強烈な拒否の感情を彼に向けているのだ。


「ほれ、我の権能はその、戦向きではなかろうが。

言わゆるだな、戦後復興的なことも進めねばならん。

この世界には戦の爪痕が今も深く残っておる」


「へーそうなんですか」


「そういった復興を行う者達をだな、ねぎらうためにも酒というのは重要なわけでだな。

酒造というものはどんどん発展していかねばならぬと思うのだ」


「へーなるほど」


「…それをお前に執り行ってほしいのだがなぁ」


「…」


寝転がりながら、バッカスの方を見やる。


「それって俺じゃなくちゃだめですかぁ?」


「…そう拗ねてくれるなよ、お前は我の眷属であろうが」


「…それ気になってたんですがね、女神さまは俺の事「神人」としてっておっしゃってましたけど。

結局、俺ってどっちの立場になるんです?」


「それが、どうにも説明しずらくてな。

本来であれば、お前は眷属であり、生きた身のままこちらに来るはずだったのだが」


「…だが?」


「我の神の雫に耐え切れず、お前の彼の地での身体をあちらに置いてくることになったため。

お前の体を神人のそれで再現したのだ、我がな」


「…あぁ、あれはそういう事なんですか」


脳裏に女神さまに見せられた水盆の光景が浮かぶ。


「じゃあ、俺って神人なのでは?」


「いや、神人は魂から体まで神々の手で作られた存在、彼の地から来たものも、こちらに来るまでに魂まで作り変えた上で現界しておる…だが」


バッカスが勢いよく酒を煽る。


「お前は違う、彼の地の魂のまま神人の体に定着させた故…そうさな、半神人といったところか」


「…なんか中途半端ー」


「まぁ、他の神人たちとほとんど変わらんだろう、しらんが」


「…なんか適当ー」


「バッハッハッハ!

奔放自由、狂い咲き乱れるが我の神性よ!」


「たまったもんじゃねぇですよ、おれにはぁ!」


「…それで、この役目請け負ってくれるか?」


もぞもぞと、えもいわれぬ感覚に身をよじりながら考える。


「…どうせ、元の世界には帰れないんでしょう?」


「それはまあ、そうなるな」


「…酒造を発展させれば、俺のお役目ってやつが果たされるんです?」


「おおとも、我の権能を示したうえでな」


「なら…まあ」


起き上がり、バッカスを正面に見据えて告げる。


「俺は俺で、楽しみますけど、それでもいいなら」


バッカスがにんまりと笑い、俺の酒器に酒を注いでくる。


「それでいい、奔放自由!お前もこの世で焼き狂って見せろ!」


その様子に俺も思わず笑みを浮かべ、酒器を打ち鳴らす。

お互いに酒を空にし、向き直り、視線を交える。


「では、我は戻る」


「え!?

…行っちゃうんですか?」


「この世でも、我々神々はおいそれと現界できぬゆえな。

この先は各地にある神殿で祈りを捧げよ、さすれば再び姿を現そう」


「…なにか現物支給的なものはないので?」


その言葉にバッカスは面食らったように眉を持ち上げ、その後体をまさぐり始める。

そして革張りのスキットルに目をやり、その中身を長く、長ーい時間をかけて「飲み干した」。


「それは…」


「んはぁ!!!

おおとも『尽きずの酒樽』今、底をつかして見せたわ!」


そしてそれを俺に向かって放り投げる。

そしてその瞬間、再び世界は白色に覆われ、バッカスの姿も霞で見えなくなっていく。


『お前にくれてやる、いつかその酒樽に我が飲んだこともないような美味い酒を詰めて見せろ!

そしてその時は再び、杯を交わすとしようぞ!』


「…はい、まぁやってみますよ」


『…楽しみにしておるぞ、わが眷属…いや、わが魂を分けし息子よ』


その言葉に呆気に取られるつつも、俺は胸ポケットにそれをしまい込む。


「誰が息子ですか、酔いどれオヤジめ」


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