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【完結】忘却の少女ミテル  作者: ジュレヌク


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第三話 最初の選択肢を間違った聖女 Side勿忘草ミナ(偽名)

勿忘草ミナ。


それは、彼女の本名ではない。


しかし、それを今更言ったからと言って状況が変わることはないだろう。


『何者か』によって召喚されたことは間違いないが、それが人違いだった可能性は限りなく高い。


なにせ、彼女には、何一つ人に誇れる特技がないからだ。


強いて言うなら、男の扱いが非常に上手い。


一見儚げな容姿で相手の庇護欲をそそり、自尊心を持ち上げ、いい気分にさせる天才と言って良い。


その手練手管で、トロイのみならず、未来を有望視されていた三人の側近すら地べたに引きずり落としたのだ。


いや、地べたどころか、彼らは今、王宮の地下にある隔離部屋にそれぞれ閉じ込められている。 


太陽の光すら入らない石造りの部屋で、彼らは何を思っているのだろうか?


そして、片やミナは、王宮の北に位置する塔のてっぺんへ連れてこられていた。


空気の淀む地下と違い、やや冷たい風が吹き込んでくる。


鉄格子がはめられた換気用の穴からは、心許ない光の筋が入り込み、部屋の中で舞うホコリを照らしていた。


元いた日本という場所で過ごしていた汚部屋でも、彼女は、同じような光景を毎日見ていた。


両親が離婚した後、彼女は一人ワンルームマンションを与えられ、月々の仕送りが銀行に振り込まれる以外に彼らとの繋がりは全くなくなっていた。


それを悲しいと思うよりも、思わず手にした開放感にミナは、舞い上がっていた。


高校生にしては金があり、しかも誰にも邪魔されない家持となれば、悪い仲間がすり寄ってくるのに時間は掛からない。


本人も、お姫様扱いしてくれる彼らとの関係を心地よいと思っているのだから、心あるクラスメートが多少苦言を呈したくらいで生活態度が改まるはずも無く、私生活はドンドン荒んだものになっていった。


そして、数カ月も続けば、男達も要求はするが要望は聞かなくなってくる。


部屋は常に汚く、料理すらまともに出来ないミナに、



「ちっとは、掃除しろよ!」


「食うもんもないのかよ!」



と批判を向けてくるようになった。



「だったら、来なきゃいいじゃん!」



そんなやり取りが増えた毎日に、気が滅入り出した矢先の召喚だった。


皆が、彼女を『聖女』と褒めそやし、何を言っても、何をやっても、目を輝かせて賛美する。


婚約者を奪われた貴族令嬢達すら、



『相手が聖女様では、仕方ありません』



と身を引いた。


その呆気なさ過ぎる退場劇に多少の物足りなさは感じたが、突然訪れたこの世の春に、ミナは、天国にも昇る気持ちになった。


しかし今、彼女は、リアルに天国に昇る一歩手前に足を踏み入れている。


なにせ、王太子と側近達を誑かし、優秀な婚約者達との間を割き、国を傾ける原因を作った女だ。


即刻死刑でもおかしくないが、体中をくまなく調べても、魔力測定を受けさせても、魅了魔法を使える素養は何も無い。


魔道具の存在も怪しまれたが、部屋中掻き回しても、何も出てこないのだ。


こうなると、どちらに非があったのか立証するのが難しくなってくる。


本当は、王とて己の権力を振りかざし、死人に口なしとしたいのは山々だ。


しかし、そうはさせまいと反王政派達が、ここぞとばかりに名乗りを上げて王太子の出来の悪さを口々に叫びだしている。


それ故に、ミナは、首の皮一枚で生き延びていた。



「最初の選択を間違ったのかな…」



この世界に降り立った瞬間、ミナが最初に目を奪われたのは、王太子でも側近達でもなく、誰かを背中に庇う黒髪の青年だった。


その名は、サトイ・メモリー。


彼の父は、この国唯一の大公であり、王の実弟だ。


その辣腕を兄のためだけに振るい、国の安寧を支えてきた立役者である重要人物の息子が、攻略対象になっていないことをミナは常々バグだと思っていた。


『勿忘草の恋人』


その名の乙女ゲームを周回したのも、サトイとの秘密ルートがあるのではないかと考えたからだ。


しかし、何度やり直そうが、課金しようが、サトイと二人きりになれるイベントすら起こらなかった。


だから、不覚にも、彼を目にした瞬間諦めてしまったのだ、


『あぁ、あれは、駄目…』


だと。


何故なら、彼の全身から溢れ出す殺気が、自分に向けられていたから。


初めて会ったはずなのに、それは、まるで黒いカサカサと動くアノ害虫でも見るかのような嫌悪感にあふれるものだった。


どうあがいても、恋愛になど発展しそうにない。


そして、ミナが現れた瞬間は、あまりにもタイミングが悪かった。


ミテルに痛いところを突かれたトロイが思わず手を上げ、


まさか暴力に訴えられると思っていなかったミテルが後ろにふらつき床に崩れ落ち、


2人の間に割って入ったサトイには、この騒ぎをどう止めるのか観衆の目が注がれていた。


正直、収拾のつけようがない王太子の醜聞。


いかに言い訳をしようとも、王太子が婚約者に手を上げたことは隠しようのない事実。


そこに降って湧いた目を引く存在は、まさに救世主と言っても過言ではなかった。




「聖女様が、降臨されたのね…」




誰かが呟いたその一言に込められた意味を、ミナだけが知らなかった。


話を『聖女降臨』にすり替えて、王族の蛮行をなかったことにしようと、必要以上にまわりは騒ぎ立てる。


そう、まるでカーテンコールのように。



『聖女様!聖女様!』



大きな声でミナに呼びかける者も、一人や二人ではない。


一種の集団催眠でも掛かったかのように、熱烈に歓声を上げる人々。


自分達は、トロイの不始末など見ていませんと訴えるかのようなわざとらしさだ。  


こうして、ミナの召喚初日は、トロイの失態を隠し、ミテルの雲隠れに一役買ってしまう結果となってしまう。


しかし、



「あれ?でも………」



ミナが、黒髪のサトイと彼に庇われるミテルを見たのは、召喚された日のみ。


だが、姿を消したのは1人だけではない。



「そういえば………サトイ様って、どこに行ったのかしら…」



皆に忘れられていたのは、ミテルだけではないことに、ミナは今更ながら気付いて眉間にシワを寄せた。



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