番外編22. ある子息の初恋
オズワルド様の一声で、アーノルド様にむらがっていた令嬢たちがあわてて後ろに下がった。
オズワルド様はアーノルド様の隣に立つと、最初にアーノルド様に声をかけたロズベル伯爵家の令嬢に向かって、にこやかに問いかけた。
「アーノルドは、おとぎ話にでてくる王子みたいに素敵に見えると思わないか?」
「えっ……!? あっ、……は、はい……。そう……思います……」
本物の王子であるオズワルド様に、そう聞かれて動揺したのか、さっきまで強気そうだった令嬢が、困ったような顔で、小さな声をしぼりだした。
「オズワルド様、冗談はやめてください。何、へんなこと言いだすんですか……?」
眉間にしわをよせて、オズワルド様を止めるアーノルド様。
「冗談なんかじゃないぞ。アーノルドがあまりにかっこいいから、私はほめてるんだ。アーノルドが絵に描いたような王子みたいで、うらやましくてな」
と、茶目っ気たっぷりに言い返すオズワルド様。
「それ、褒めてないでしょう……」
あきれたように返事をするアーノルド様にオズワルド様が笑った。
その様子からは、ふたりの親しさがにじみでていて、見ている招待客たちの空気が一気に和む。
オズワルド様は、アーノルド様にむらがっていた令嬢たちに、再び、にこやかな笑顔をむけた。
「ご令嬢たち。アーノルドにダンスを申し込んでいたみたいだが、実は、アーノルドは夜会で踊ったことはないんだよ。社交界とは無縁だったからね。つまり、ご令嬢たちに伝えておきたいのは、おとぎ話の王子のような見た目で、ダンスも上手そうに見えるアーノルドだが、ダンスに関して言えば、デビュタントのご令嬢みたいなもんなんだ。……ということで、アーノルド」
意味ありげな笑みを浮かべて、視線をアーノルド様に移したオズワルド様。
「アーノルドにとっての記念すべきファーストダンスを、僕からの贈り物にさせてもらうよ」
「は……? いや……お断りします。僕は踊るつもりはありませんから」
きっぱり断るアーノルド様に、オズワルド様はふっと笑みをこぼした。
「私がアーノルドのために無理言って頼みこんだ、とっておきのパートナーを見ても、踊らないと言えるかな? ……リンダ、ここへ連れてきてくれ」
開いた扉のほうにむかって、声をかけたオズワルド様。
すると、リンダ様がにこやかな表情で、広間に入ってきた。
隣には小柄な令嬢が一緒だ。
が、見た瞬間、目が釘付けになった。
というのも、この国では見たことがない銀色の髪をした令嬢だったから。
流れるように長くうねる銀色の髪は、月の光のように品よく輝いている。
鮮やかな緑色の瞳とあいまって、僕には人間離れした美しさに見えた。
神秘的で、まるで、なにかの精霊のように思える。
一体、あの令嬢は誰なんだろう……?
当然、社交界に疎い僕は、あの令嬢が誰なのかわからない。
まわりの招待客たちも、突然あらわれた令嬢に目を奪われているのか、あたりが静まりかえった。
が、次の瞬間、あちこちから、令嬢の美しさを褒めたたえる声が聞こえはじめた。
「なんてお美しいご令嬢なのかしら……!」
「見事な御髪ですこと」
「愛らしいお顔だちで可憐ですわね」
「なんだか妖精みたいだわ……」
「しかし、どこのご令嬢なんだろう? 夜会で見かけたことがないんだが」
「私もお見かけしたことがないわ」
どうやら、令嬢のことは知られていないようで、誰なんだろうという疑問がとびかい、あたりがざわつきはじめた。
みんなが知らないということは、もしかしたら、他国の令嬢なのかもしれない。
この国では見たことがない珍しい銀色の髪だから。
銀色の髪に、華やかなブルーのドレスがよく映える。
メアリーと同じようなドレスの色だ。
つまり、アーノルド様の瞳に似た色……。
メアリーのドレスの色を思うともやもやするが、アーノルド様の瞳の色のドレスを着た令嬢が他にもいて、しかも、オズワルド様がアーノルド様のパートナーにとすすめる令嬢であることに、僕はほっとしていた。
あの令嬢の存在で、メアリーが現実を見てくれるかもしれない。
そして、アーノルド様のことを、今度こそ、きっぱりあきらめてくれるかもしれない。
そうしたら、きっと、おだやかなメアリーに戻ってくれるはずだ。
大丈夫……。
僕は予定どおり、優しいメアリーと結婚できる……。
そう思いこもうとした矢先、
「嘘……、嘘よ……。なんでなの……? なんで、あの子がここにいるの……? なんで、アーノルド様の前にいるのよ!? あのとき、身をひいたはずでしょう……!? なんで、今更、あらわれるのよっ……!」
隣に立っているメアリーから、悲鳴のような声が聞こえてきた。
その言葉に、かすかに残っていた僕の希望は粉々に砕け散った。




