掲示板の前で、譲り合いの戦争
第1章 目覚め編
掲示板には、紙がずらりと貼られていた。Fランク向けは、左下の一角。
私は、腰を曲げて、上から順に読んでいく。
「ドブさらい、銅貨三枚。荷運び、銅貨四枚。……うわ、どれも安い」
そんな中で、一枚だけ、目を引くものがあった。
【月光草の採取 十束 報酬:銅貨八枚 本日中】
月光草は、夕暮れから、青白く光る薬草らしい。町の北の森の入口、湿地に生えているという。
「これだ。銅貨八枚。串焼き四本分!」
紙に手を伸ばした瞬間、横から、別の手が、同じ紙をつかんだ。
「あ」
「あ」
顔を上げる。そこにいたのは、亜麻色の髪と、灰青色の瞳の少年だった。
擦り切れたマントを羽織っているけど、姿勢がやたらいい。腰には、古びた剣。そして、顔が、良い。ガチで良い。私ほどじゃないけど。
「失礼しました。どうぞ、お先に」
「いやいや、そっちが先でしょ。どうぞ」
「いえ、僕は後から来ましたので。どうぞ」
「私も後から来たし、どうぞ」
「いえ、どうぞ」
「いや、どうぞ」
どうぞ、の応酬が、三往復した。
その間も、二人でつかんだ紙は、ぎりぎりと引っ張り合われて、
びりっ。
「あ」
「あ」
紙は、真ん中から、きれいに破れた。
背後から、エマの、静かな声が聞こえた。
「……お二人で、行かれてはどうでしょうか。共同依頼にすれば、報酬は折半になりますが」
私と少年は、顔を見合わせた。
少年は、背筋を伸ばして、丁寧に頭を下げた。
「ノエル・アルヴェインと申します。見習いの騎士です。ご迷惑でなければ、ぜひ、ご一緒に」
「ヒナ、です。……えっと、臭くて、ごめんね」
「い、いえ、そんな! 臭……いえ、その、独特の、お香り、と、申しますか……」
言い直しが、下手すぎた。
ノエルの目が、うっすら潤んでいる。必死に、我慢しているらしい。
「無理しなくていいよ。私も、自分が一番、つらいから」
こうして、私の、初めての共同依頼が、決まった。
銅貨八枚を折半すると、一人、四枚。串焼き、二本分。ちょっと、悲しい。




