串焼きは銅貨二枚、ギルドも銅貨二枚
第1章 目覚め編
人の波が割れるのは、便利だ。ただし、屋台のいい匂いまでは、割れてくれない。
串焼きの匂いに、ふらふらと吸い寄せられる。
屋台の前に立つと、店主が、困った顔をした。
「串焼き一本、銅貨二枚だよ。……おっちゃん、悪いけど、食べるなら、少し離れてくれるかい」
「客なのに追い払われた!?」
銅貨を二枚払って、串を受け取る。所持金は、四枚から二枚。
道の端の石段に座って、ひとくちかじった。
「んっ……! うま……! ガチでうまいんだけど!」
肉汁が、口いっぱいに広がる。
この世界に来て、初めて、まともに嬉しいと思えた瞬間だった。思わず、涙が出そうになった。
……けど、二日酔いの胃が、ぐるぐると悲鳴をあげはじめた。
「うっ……今は、ダメ、今はダメだから……」
なんとか飲み込んで、串を握ったまま、我に返る。
所持金、残り銅貨二枚。ご飯を一回食べたら、ほぼ消えた。
「これ、稼がないと、マジで即詰みじゃん……」
顔を上げると、通りの先に、ひときわ大きな石造りの建物があった。三階建てで、入り口の上には、剣と盾の看板。門番の言っていた、ギルドだ。
重い扉を押して、中に入る。
広いホールには、テーブルがずらりと並んで、剣や杖を持った人たちが、昼前から酒を飲んでいた。
私が入った瞬間、ざわめきが、ぴたりと止まった。
そして、あちこちで、鼻をつまむ音が聞こえた。
「……歓迎ムードじゃないね」
奥のカウンターに、受付が三つ並んでいる。
右と真ん中の受付嬢は、目が合った瞬間、すっと窓口の札を「休憩中」にひっくり返した。素早い。
左端の一人だけが、逃げ遅れた。若い受付嬢が、笑顔を必死に保ったまま、固まっている。胸元の名札には、「エマ」と書いてあった。
「い、いらっしゃいませ。ご、ご用件は」
「カードの、再登録を。名前が、消えちゃってて」
私は、カードをカウンターに置いた。エマの笑顔が、ぴくりと引きつる。
「かしこまりました。登録料は、銅貨二枚になります」
私は、最後の銅貨二枚を、カウンターに置いた。所持金、ゼロ。
エマが差し出した記入用紙の、名前欄を見つめて、私は、ペンを握った。




