入町料は銅貨一枚
第1章 目覚め編
「偽造じゃない! 消えてただけ! 起きたら、こうなってたの!」
「起きたら、って何だ」
「あー……橋の下で、寝てたから!」
言い訳としては、最悪だった。門番の目が、すっと細くなる。
私は、両手をぶんぶん振った。
「ほんとに悪いことしてないから! 見てよ、この顔! どこからどう見ても、無害なおっさんでしょ!?」
「自分で言うな」
門番は、カードの隅に目を近づけた。
「登録日が、ずいぶん古いな。十年以上前か? 文字がかすれて読めんが……名前だけが消えるなんて話は、聞いたことがないぞ」
また、胸の奥が、ちくりとした。
何なんだろう、これ。
門番はしばらく唸ったあと、深いため息をついた。
「まあ、悪さをしそうな顔でもない。臭いは悪さをしているが」
「臭いに罪はなくない!?」
「あるから言っている。入町料は、銅貨一枚。それと、この町のギルドで、カードを登録し直してこい。名前のないカードじゃ、この先いろいろ面倒だ」
門番は帳面を開いて、羽ペンを走らせた。
のぞき込むと、名前の欄には、こう書かれていた。
【臭い男(仮)】
「ちょっ、記録にそれ書かないで!?」
「特徴を書く決まりだ」
「決まりでも、書き方ってもんがあるじゃん!!」
抗議は、却下された。
私は袋から銅貨を一枚出して、渡す。所持金は、五枚から四枚になった。こうして私は、正式に「臭い男(仮)」として、町に入ることになった。
門をくぐると、石畳の大通りが、まっすぐ伸びていた。振り返ると、門の上の文字が読める。「ヴェルタ」。この町の名前らしい。
パンの焼ける香り。露店の呼び声。剣や杖を背負った人たちが、あちこちで立ち話をしている。
そして、私が歩くたびに、人の波が、すうっと割れていった。
「なにこれ、モーセ? 海、割れてない?」
「うわ、なんだあの臭い」
「見るな、目を合わせるな」
ささやきは、全部、聞こえていた。
【加齢臭(Lv.MAX)】は、伊達じゃなかった。




