門番の鼻は正直だった
第1章 目覚め編
石段をのぼる。
たった二十段くらいなのに、息が上がって、膝が笑った。この体、ポンコツすぎる。
でも、てっぺんに着いた瞬間、視界がぱっと開けた。
朝日に照らされた、城壁に囲まれた大きな町。ずらりと並ぶ屋根。荷車を引く人たち。遠くには、青くかすんだ山。
「うわ……ガチで、異世界だ」
感動したのは、ほんの一瞬だった。お腹の虫が、盛大に鳴った。
橋のたもとから、町の門まで、一本道が続いている。私は腰をかばいながら、そこへ向かった。
門の前には、槍を持った門番が立っていた。
近づいた瞬間、彼の顔が、露骨に歪んだ。鼻をつまんで、一歩、後ずさる。
「……止まれ。そこのおっさん。なんだ、その臭いは」
「おっさん言うな! ……いや、言われても仕方ないけど!」
「何日、風呂に入ってない。酒か? 汗か? いや、それだけじゃない。もっとこう、年季の入った臭いだ」
「年季言うな! 私だって、好きでこうなったんじゃないし!」
言ってから、しまったと思った。門番の眉が、ぴくりと動く。
「……『私』? おっさんが、『私』……?」
「ち、違っ、今のなし! 心は乙女なの!」
「心が乙女なのは勝手だが、その声とそのひげで言うな」
的確すぎて、ぐうの音も出ない。
体はおっさんでも、中身は私だ。口調だけは、どうしても変えられなかった。
「……まあいい。身分証を出せ」
私は、袋からカードを取り出して、差し出した。
名前欄が真っ白な、ギルドカード。
門番は、カードを裏返して、表に戻して、また裏返した。そして、低い声で言った。
「……名前が、空白だと? 偽造か?」




