目覚めたら加齢臭
第1章 目覚め編
冷たい。硬い。そして、くさい。
目を開けると、知らない天井があった。
石を積んだ、湿っぽいアーチ状の天井。やたらと低い。どこかで、水の流れる音がする。
「……あれ。私、飛んだんだよね」
橋の上から、夜の川へ。「ワンチャン」という単語が浮かんだところで、記憶はぷつりと途切れていた。
でも、こうして生きている。ってことは、ワンチャンあったんだ。さすが私、天才すぎて困っちゃう☆
……と思ったのは、体を起こそうとするまでだった。
「ぐっ」
お腹が、つっかえた。
見下ろすと、ぽっこり突き出た腹。私のウエストは、こんなに主張しない。
腰がズキッと痛む。頭はガンガンする。口の中は、酒の味しかしない。足元には、空き瓶がごろごろ転がっていた。
下半身にも、なんとなく違和感がある。そこは、あえて、見なかったことにした。
指を見る。ごつくて太くて、爪の間が真っ黒だ。毎週サロンに通って育てた、あのネイルは、影も形もない。
「鏡。鏡どこ」
這うようにして、岸辺の水たまりをのぞき込む。
映っていたのは、くたびれた目と、たるんだほっぺと、無精ひげ。頭のてっぺんは、風通しがすこぶる良かった。
「水面が汚れてるだけでしょ」
手でぱしゃんと崩して、もう一度のぞく。
同じおっさんが、同じ顔で、こっちを見返してきた。
「私の美貌が、隠れてるだけだし!!」
叫んだ声は、痰の絡んだ、ガラガラのおっさんの声だった。
……認めよう。これは、おっさんだ。
ぐるぐる回る頭で思い出す。友達が休み時間にずっと読んでた、あれ。死んだら、別の世界で、別の誰かになるやつ。
友達の「え、マジでやるの?」の顔が、ふっと頭をよぎった。ごめん、まさか本当にこうなるとは。
「異世界転生、ってやつ? 普通ここで、女神様とか出てきて、『あなたは死にました』って言うじゃん! チュートリアルは!? 説明は!?」
叫んでも、返ってくるのは川の音だけだった。
立ち上がろうとした瞬間、腰がビキッと鳴った。
「いっっったぁ!?」
――異世界での第二の人生は、腰痛から始まった。




