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転生付与術師オーレリアの難儀な婚約  作者: カレヤタミエ


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219/220

219.次善の選択と言葉の重み

「神力の暴走ですか」

「はい。シル兄様なら何か分かることがあるのではないかと思いまして」


 そう言われてシルヴァンはふうむと顎に指をかけて、考えるようにしばし間を置いた。


「久しぶりに会いに来てくれたと思ったら、またずいぶんな難問を抱えてきましたね」


 王宮の端にある白亜の塔の七階、象牙の塔に所属する魔法使いであり、第三席の位階を持つシルヴァンは、そう言って妹弟子とその連れであるオーレリアに笑いかける。


「ご本人を連れてきたほうがよかったのでしょうが、彼女は神力が不安定で、いつ暴走させるか分からないので、今日は私たちが代理でご相談させてもらえればと」

「珍しいケースだから是非この目で見てみたかったけれど、まあ、王宮を水浸しにしたら言い訳が利かないしね。賢明な判断だと思うよ。それで、神殿側は一度放逐した巫女に戻って来いと言っているわけだね」

「はい。ですが本人は、神殿に戻ることを希望していないのです。それでも神力を暴走させる可能性がある以上、放置しておくわけにもいきませんし」

「神殿は神の力であると言ってうやむやにしているけれど、神力は魔力以上に分からないことが多い力だからね」


 シルヴァンはやや気難しげに顔をしかめると、ふむと小さく呟く。


「もっとも確実なのは中央神殿で神力の封鎖をしてしまうことだね。ただ、神殿同士もお互いの領域に踏み込みたがらないところがあるから、それが難しいならば信仰の棄教をするという手もあるかな」

「信仰の棄教とはどういうものを言うんですか?」


 オーレリアが問いかけると、シルヴァンはそうですねえ、と足を組んで湯気の上がっているお茶を傾ける。


「神殿の教えとは真逆のことをする、つまり堕落をするということですね。乱倫を犯すであるとか、偽りを口にする、盗みを働く、人を傷つける等です」


 それではノーラが犯罪者になってしまう。

 二の句を告げずにいると、シルヴァンは難しいですよねと苦笑を漏らした。


「その聖女が白の誓いを行っているのなら、まずそれをやめることですね。もっとも、神殿から離れて何年も過ぎているのにいまだに力が強くなり続けているというのならば、焼け石に水かもしれませんが」


 シルヴァンはそう言って立ち上がると、ガラスのコップを一つと水差しを持って戻ってきた。


「ジェシカ、この中に水を満たしてもらえるかい」


 ジェシカが頷いて軽く手をかざすと、水差しの中にはなみなみと水が満たされた。

 相変わらず息をするように魔法を操るのに、思わずほうと息が漏れる。


「これは私の仮説であり、非常に世俗的な例えになりますが、この水差しをこの世界における神の力としましょう。神本人はどこにいるのか私にはわかりませんが、おそらくこの水差しに対して湖や海のような力を持っていて、世界に分け与えられている神力がこの程度であるということです」


 その神に仕える者たちはこの水を分け合うことになりますとシルヴァンは付け加える。


「水差しの水は一定で、信仰の強さであるとか、祈り続けた時間であるとか、もしくは神の気まぐれであるとか、理由は色々とあるのでしょうが誰にどれぐらいの力を与えられるかはまさに神のみぞ知るです。そして、話を聞く限り、そのフルウィウスはかなり偏った寵愛を与えるタイプの神のようですね」


 シルヴァンは水差しを取り上げ、カップに水を注ぎ入れる。


「聖女は現在非常に強い神の加護を受けている状態だというので、この水がなみなみと注がれているのでしょう。注がれる力が多すぎて、彼女の制御を超えて時々あふれてしまうほどに」


 カップのギリギリまで水を注ぐと、シルヴァンは静かに言った。


「この状態ならば水は均衡を保ち、あふれることはありません。ですが人の心というのは僅かなことで揺れ動くものですから」


 シルヴァンはグラスをつかみ、軽く左右に揺らす。それだけで中の水が揺れて容易く溢れ出し、テーブルを濡らしてしまった。


「こうした心の揺れによって神力の暴走を抑えるために、神殿の最奥で雑念を捨て静かに暮らす。神殿の主張はそういうことだと思います。その他にも秘密主義の彼らのことだから、ある程度暴走を止めるための何らかの方法があるのかもしれません」

「ノーラさんは、ゴールドランクの冒険者です。根本的な解決にはなりませんが、ダンジョン内では神力が減退する現象を逆手に取り、解決策が見つかるまではダンジョンに滞在してもらうという案も出ているのですが」

「真っ当な生き方とは言えないかもしれないけど、案外それが一番いい方法かもね」

「できれば、これまで通り普通に暮らしてほしいのですが……」


 ノーラは何も悪いことをしていないのだ。不自由な思いはしてほしくないという気持ちでそう告げると、シルヴァンはまた少し、考え込むような素振りを見せた。


「……どれほど効果があるかわかりませんが、フルウィウス神が聖女の容姿に強く惹かれる神だというのならば、肉体の一部を奉納するという手もあります」

「奉納、ですか?」

「ええ。基本的には雨乞いや豊穣など明確な加護を求める時に取られる手法ですが、腕とか足とか眼球などがよく聞く部位ですね。それらを切断、もしくは摘出して神に捧げるのです。神に願いを叶えてもらうという文脈で行われるものですので、一定の効果がある可能性は高いかと」


 思わずぽかんと口を開いた後、その意味を飲み込んだとたん、どっと冷や汗が湧いた。


「シル兄様、オーレリアさんはその手の血なまぐさい話が苦手なのですよ」

「可能性の話だよ。流石に推奨はしないさ」

「あの、それって本当にされていることなんですか」


 当たり前のように話している二人に、思わず震える声で聞くと、シルヴァンはそうですねえとのんびりと答える。


「最近はさすがに聞きませんが、昔は奉納という形で神に巫女の一部を捧げるというのは、比較的よくある手法だったようですよ。神殿は治癒と回復の神力使いがいるので、切断した部分も時間をかければ生えてきますし、一部とはいえ神の身許に行くということで、奉納に選ばれるのは非常に名誉な行いであるとされたようです。後は、巫女が務めを全うして亡くなった後はその遺体を霊廟に収めるというのは今でも行われているはずですし」


 時間がかかっても欠損の回復を行うことができるという話は聞いたことがあったけれど、まさかそんなことに使われていたとは想像もしなかった。


 少しクラクラとして、それを耐えるようにぐっと拳を握る。


 ノーラにそんなことは絶対にさせたくないし、させられない。ロゼッタだって決して許さないだろう。


「その、先日ザフラーン帝国には、魔力を段階的に弱めて本人が制御できるまで制限する道具があると伺ったのですが、それと似たものを作るのは難しいでしょうか」

「ほう、そんなものがあるんですか!」

「あら、とても便利ですね!」


 シルヴァンとジェシカがそっくりな表情で、勢いよくこちらを振り向く。


 二人のこの反応からして、そうした道具はやはり中央大陸には存在しないのだろう。


「魔力の封鎖は医療付与の独占と合わせて、神殿の特権とされているんですよね。象牙の塔でも研究は禁止されているほどの徹底ぶりですので、私も詳しくありません」

「いっそ、神殿の力の及ばないザフラーンに行く方が、解決策は見つかるかもしれませんね。あちらは中央大陸と違って常にうっすら魔力が漂っているようなので、こちらにいるより神力が弱まるでしょうし」

「ああ、その手があったね! いや、もしかしたらそれが解決策かもしれないよ」


 考えること自体が楽しそうに、シルヴァンは機嫌よく笑ってカップ一杯分の水が減った水差しを手に取る。


「信仰や祈りが増えれば、それだけ神の加護の総量も増えるというのが神殿の基本的な考え方だ。つまり、この水差しが大きくなるということだろう。ということは、その神の信者が一人もいない土地ならば水差しそのものが機能しない、そもそも神の加護自体が消失する可能性だってあるんじゃないかな」

「もしそうなら、行き来の難しい西大陸ではなく、新大陸でも良さそうですね。新大陸なら大型船に二か月ほどの旅になりますが、定期船が出ているので比較的安全に渡ることができますし」


 きっとロゼッタは、それで解決するならば迷わずノーラとともにその船に乗るのだろう。


 けれど、ノーラは、ずっとロゼッタに夢を諦めさせたのだと思うことになってしまうのではないだろうか。


 まだアウレル商会を設立する前、鷹のくちばし亭でロゼッタとノーラと共にスーザンの作ってくれた料理をつまみにビールを傾け、談笑をした頃を思い出す。


 あの時はただ楽しくて、笑いあえていたのに。


 ――何もかもが元に戻る、それこそ魔法のような方法はないのかしら。


「オーレリアさん、彼女たちの問題に関して私たちは、こう言っては何ですが部外者です。あの二人が自由な場所で生きていくことを望むなら、何かが変わってしまうのは仕方がありませんよ」

「……はい」


 ダンジョンに潜るために象牙の塔をやめ、そして今はその冒険者稼業すら休業に追い込まれているジェシカの言葉は、重い。


「拠点に戻って、今話したことを共有しましょう。そしてロゼッタさんとノーラさんがどんな道を選んでも応援してあげましょう」

「そうですね……」


 ジェシカの言葉はとても正しい。


 ささやかでけれどわがままな自分の願いが切なくなるぐらいに正しい言葉だった。



本日、「転生付与術師オーレリアの難儀な婚約」の1巻が発売になりました!

無事書籍の発売を迎えられたのも、皆様の応援のおかげです。本当にありがとうございます。

特典等、活動報告にまとめてあります。

引き続きオーレリアをよろしくお願いいたします。

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書籍版

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― 新着の感想 ―
小説届きました!捨てられ公爵夫人の方もあったのかもしれませんが、参考文献が記載されててテンション上がりました! オーレリアの絵をみて、「太ると胸が大きくなるかもしれません」のシーンを思い出し「こ、これ…
髪の色と目の色を赤に変色したら解釈違いだ! ていって加護が減らないかな。
手足とか眼球ですかぁ。せめて指とかで勘弁してくれせんかねぇ。
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