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転生付与術師オーレリアの難儀な婚約  作者: カレヤタミエ


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211/212

211.良くない考えと矯正器具

「というわけで、無事に行って戻ってきました」

「よかったわね、オーレリア。途中から体調を悪くしてしまったと聞いたので心配していたのだけれど、今日は元気そうで良かったわ」


 おっとりと告げるセラフィナに頷く。


 今回のダンジョン行きはセラフィナが提案してくれたものだったので、その結果報告とお礼に王宮を訪ねることになった。すでにカイラムからダンジョンで起きたことは聞いているらしく、優しく労いの言葉をかけてくれる。


「お兄様もずいぶん楽しまれたようで、あの後私に会いに来ていろいろとお話をして行ったのよ。やはりダンジョンは興味深く、面白い場所だとおっしゃっていてね」

「確かに、興味深いことはいろいろとありました。不思議な木の実がなっていたり、美味しいキノコが取れたり」

「有用な鉱物もダンジョンから産出するらしいのだけれど、そちらはもっと深く潜らないと、なかなか見つからないと聞いたわ。叶うなら、そこまで行きたいとお兄様もおっしゃっていたけれど、やっぱり難しいのでしょうね」


 頬に手を当ててセラフィナはほうとため息をつく。


「危ないことはしてほしくないけれど、男の方というのは冒険が好きなものなのかしら」

「冒険者には女性も多いので、必ずしも男性がということはないのでしょうが……少なくとも、私向きではなさそうです」


 イレギュラーな事態があったとはいえ、第四階層であの体たらくである。


 もっと深くまで潜れば、さらに知らなかった色々なものを見てしまう可能性があるし、情けないが、それに挑戦してみようと思えるほどの探求心も持ち合わせていない。


「ふふ、オーレリアはダンジョンに行くよりも、私に会いに来てくれたらいいわ」


 随分セラフィナとの面会にも慣れたけれど、それはそれで緊張しないというわけでもない。だがやはり、ダンジョンに潜るよりこうしてセラフィナとお茶を飲んでいる方が自分向きであるのは間違いないだろう。


「それにしてもダンジョンは聞けば聞くほど不思議な場所なのね。人を惑わす虫や人を食べる植物も居るのですって?」

「私はどちらも直接は見ていないのですが、そのようです。ザフラーンにはそうした魔物は出ないんでしょうか?」

「私は聞いたことがないわ。サーリヤ、あなたはどうかしら?」


 セラフィナが視線を向けると、サーリヤの一人が優雅に微笑む。


「虫や小さな生き物を捕食する植物ならば、ザフラーンにもおりますが、人間をというほどのものはいないはずです」


 虫を捕食する食虫植物ならば前世でも普通にいたし、それらは魔物の範疇には入らないだろう。


 ザフラーンではダンジョンが存在しない代わりに、野生生物と同じように魔物が当たり前に現れるという。つまり日常とダンジョンが混じり合っている状態なのではないかと想像するけれど、話を聞く限り人々は、中央大陸と同じように当たり前に生活している様子だし、魔物が出るといっても、かなり弱かったり小さかったりするようだ。


 思い返せば、スキュラのような極端な魔物を除けばダンジョンの中にいる生き物は普通の生き物ともよく似た見た目や性質を持っているものが多い。


 例えば月下桃は地上の桃とも交配しているとウォーレンが言っていたし、大変美味ではあるものの、いわゆる桃の味であり、地上の桃とそれほど大きくかけ離れているようには思えなかった。


 一角うさぎは見た目は角の生えたうさぎだが、その実狂暴な肉食獣だという。これまでは魔物だからとそれで済ませていたけれど、改めて考えると、草食獣とそっくりの肉食獣がいるというのも不思議な話のように感じられる。


 前世でのおぼろげな知識だが、草食獣は捕食から逃れるよう、広い視野を得るために目は横向きについて、肉食獣は逆に捉えた獲物を逃がさぬよう目は前向きについているというように、草食獣と肉食獣は長い進化の間に必要とされる能力によって見た目が違っていくと聞いたことがある。


 ならば肉食獣である一角うさぎが見た目は地上の兎と変わらないというのも、なんだかおかしな話ではないだろうか。


 こちらにいるかは不明だが、パンダは間違いなく熊の一種で、体のつくりも肉食動物と変わらないにも関わらず、笹を主食としている草食性の動物だったはずだ。


 他の熊との違いは住んでいる場所に適応したという、それだけだと聞いた覚えがあった。


 ――例えば地上の食虫植物も、ダンジョンに入れば人食い植物になったりするのかしら。


 そして、生き物が変化するならば、人間だって長くダンジョンにいると変化をしてしまう可能性だってあるのではないだろうか。

 そう考えて思わずブルリと震える。


 ダンジョンの研究と対策はそれこそ大昔からされていることで、人間は何世代にも渡ってダンジョンに潜り、探索し、その中で取れるものを食べてきたはずだ。


 ダンジョンに潜れば人間だって変質してしまうというのは、あまりに極端な考えだろう。


 地上に戻り、親しい人たちと当たり前の日常を過ごして冷静になると、ダンジョンはやはりわからないことだらけだ。


 特にセーフエリアで見つけた術式については、もはや謎を通り越して恐怖すら感じるものである。


 ダンジョンは巨大な資源庫であり、多くの有用な素材や鉱物、魔石や強力な魔物素材を得ることができる。巨大なダンジョンのそばには大きな街が出来て発展し、王都など夜になっても魔力結晶の街灯で明るく照らし出され治安も良い。


 スキュラの魔石などは王都に水路を一つ増やしたとまで言うではないか。


 もちろんダンジョンの探索や発掘は非常に危険で重労働であるけれど、その有用性は疑いようもないものだ。


 正式な国交がほとんどないとは言え、隣の大陸である西大陸には存在しないダンジョンが、中央大陸には各所に当たり前のように存在している。

 もしもはるか昔は中央大陸もそうだったのだとしたら。

 ダンジョンが人為的に作られることで中央大陸の魔物の生態系が西大陸とは大きく変わっているのだとしたら。


 ――もしかしたら、ダンジョンは人為的に創られたものだったとしたら。


 付与魔術の術式は、付与術師にとって貴重な財産である。初等学校の時に派遣されてきた先生から教えられたし、王都に来てからはそれこそアリアとレオナに口を酸っぱくして何度も言われたことだ。


 付与を行っていたオーレリアの手元をうっかり覗き込んだアリアは、こちらが申し訳なくなるほどに謝っていたし、後見人であり事業のパートナーであるウィンハルト家の姉妹にさえ、オーレリアがいくつ術式を使えるか、教える必要はないとまで言われている。

 それくらい、術式は付与魔術師の特有の財産として、強く認められている。


 付与を施すと一瞬光った後、その魔力は素材に馴染んで見えなくなってしまう。付与魔術は人のいないところで一人で行うのが当たり前であるし、術式は頭に叩き込んで人に見える形でメモにするなどもってのほかだ。


 ――でも、ダンジョンの「術式」ははっきりと見ることができた。


 あの時は混乱してそこまで頭が回らなかったけれど、一般的な魔力による付与ではなく、術式を壁や土台に直接掘り込んであるとしか思えない。


 これまでの常識からしても、付与術師としてもありえないことばかりである。

 もしダンジョンが自然に発生したものではなく、誰かによって作られたものだとしたら。


 ――それには、はるか昔の付与術師が関わっていたのではないのかしら。


 ダンジョンとは、付与術とはなんなのか。考えても答えは出ないと分かっていても、それでも思わずにはいられなかった。


 ふいに頬に冷たいものが触れて、物思いからパッと覚める。

 気がつけばセラフィナが目の前にいて、真っ白な指でオーレリアの頬に触れていた。


「大丈夫? オーレリア」

「あ、あの、セラフィナ?」

「何か良くない考えに囚われている顔をしているわ。何があなたを、そんなふうに思い煩わせているのかしら」


 至近距離からセラフィナの金の瞳に覗き込まれて、焦ってしまう。


 さらさらと音を立てるような銀の髪に金の瞳、もう何度も会って言葉も交わしているのに、生きた宝石のようなお姫様がこんなに近くにいると、否応なく緊張した。


「オーレリア?」


 心の内側まで覗き込んでくるような黄金の瞳に視線を泳がせつつ、何か言わねばと思うほど、焦りが湧いてくる。


「あ、あの、拠点で一緒に暮らしている友人の魔法使いが、時々魔法を溢れさせるようになってしまいまして……。周囲が水浸しになる程度なので大したことはないんですが、本人がとても気に病んでいるので、どうしたものかとつい考え込んでしまいました」


 心の中で言い訳に使ってしまったノーラにそっと詫びつつ、ここ最近の解決の目処が立っていないことについて口にする。


 ダンジョンについてのあれこれに関しては、言葉にすればなぜそれに気づいたのかを説明せざるを得ない。


 それはオーレリアの前世の記憶や、それを元にした多くの付与魔術の術式についても触れなければならなくなってしまう。


 それはどれだけ親しい相手でも、避けておきたいところだった。


「あら、以前言っていた新しい仲間のこと?」

「はい。もともと制御は完璧だったらしいのですが、最近それが乱れてしまっているようで」


 ダンジョンから戻った後も、今日までノーラは数日に一度ほど魔法を溢れさせることがあった。


 あの日のように拠点が水浸しになるほどではないけれど、カップにお茶を注ごうとしたら魔法で出た水がカップから溢れかえったり、くしゃみをした拍子にバケツをひっくり返した程度の水が溢れてしまったこともある。


 あまりに制御が効かず、万が一にでも他人に危害を与えるようなことになれば、魔法使いは魔力の封印もあり得るのだという。

 ノーラは魔法使いでなく、正確には神術使いという分類らしいけれど、その場合はどうなるのだろうか。


 ノーラはロゼッタの大切なパートナーで、ゴールドランクに昇格したばかりの優秀な冒険者だ。彼女たちが安心して探索を続けられるようにと祈るばかりだけれど、属性の魔法に関してはオーレリアも詳しくないし、それが神術となればなおさらである。


「こちらには、魔力の矯正器具はないの?」


 セラフィナは近くに寄ったついでとばかりにオーレリアの隣に腰を下ろすと、柔らかな体をそっと預けてくる。


「矯正器具ですか?」

「ええ。癇癪持ちの魔法使いは、どうしようもなければ魔力の封印をするけれど、魔法が使えるようになったばかりの子供とか、生まれもった魔力が強くて制御が追い付かないような人のために、外に出る魔力そのものを抑えるための矯正器具よ。私のこれもそうよ」


 セラフィナはこともなげに言うと、長い裾をまくり、すらりとした足首を見せる。


 そこには、銀のアンクレットが嵌められていた。


「子供の頃にお父様にいただいたのよ。私には氷の属性があるのだけれど、制御があまりうまくなくて冷気を出すことがよくあったのだけれど、これをいただいてからはサーリヤ達に寒い思いをさせることもなくなったわ。私は完全に魔力を抑えた状態でつけっぱなしにしているけれど、魔法を仕事に使う人は弱い矯正器具をつけて魔法の出力を低くして、制御できるように調整するみたいよ」


 そうして制御できれば少しずつ矯正器具を弱いものに変えていき、本来の自分の魔法を制御できるまで訓練していくらしい。


「とても便利ですね」


 自転車の補助輪のようなもので、これならば制御のコツをつかむまでの助けになるのだろう。


 ノーラが出した水は毎回ジェシカが打ち消してくれているけれど、矯正器具の話が出たことがないということは、こちらにはそれに類似するものが存在しないのかもしれない。


 元々あまり表情が変わらず抑揚も少ないノーラだけれど、神力を漏らすたびに、ひどく落ち込んでいる様子だった。魔法使いにとって制御できない魔力はそれほど深刻な問題なのだろう。


「余分な矯正器具がオーレリアにあげられたらいいのだけれど、これは基本的にその人に合わせて作るもので、余分な持ち合わせがないの」


 これがあればノーラだけでなく、助かる人はたくさんいるのではないだろうか。そう思いながらじっとアンクレットを見ていると、セラフィナが残念そうにつぶやく。


「いえ、いただけません!」


 非常に便利なものであるとは思うけれど、セラフィナが身につけているということは間違いなく相当な高級品である。とても欲しいとは言えないし、オーダーメイドということは個人の体質や属性によって、色々と条件もありそうだ。


「このようなものがあると知れただけで良かったです」

「西大陸と中央大陸の国交が頻繁になれば、きっとこういうものも、広がっていくのでしょうね」


 セラフィナは、いつものようにおっとりとした口調ではあったけれど、その響きはどこかしんみりとしているようにも思えた。


「そうなるといいですよね」

「ええ、本当にそうね」


 セラフィナの言葉が途切れると、サーリヤの一人が弦楽器をかき鳴らしはじめ、柔らかな音色が室内に広がっていく。


 それが主の心を慰めるためのものであることは、なんとなく、オーレリアにも理解することができた。


活動報告を更新しております

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― 新着の感想 ―
付与に日本語なのは言霊に通じる物では 日本語の漢字は元は象形文字で情報量が多いから成り立つ アルファベットやイスラム文字やハングルでは不可能な情報が満載されている そうするとこの世界は言霊文化の進んだ…
やらかしフラグかな。
乙嫁語りを思い出す、仲良しな触れ合い…尊い… 穏やかな日々が続けば良いのに… もだもだニマニマしちゃう婚約者な2人のシーンも好きだけど、これはコレで好きなシーンです。
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