5.公爵家長男 1
あの本を手にした私はもはや最強だ。
私は堂々と学園の廊下を歩いていた。
どんなイケメン…攻略対象が来たって楽勝よ!まぁ、ほんとはサインとか貰いたいんだけどね。自分の命が一番大事だし。
「お!未来の聖女様は今日はご機嫌だね〜。」
寮部屋が同じであるローシアは後ろから抱きついてそう言ってきた。
ローレシア・ワェピリ。伯爵令嬢であり、私と仲のよい友達。
ちなみに聖女は聖なる力で魔を払い地を清め、結界などを用いて魔物から国を守護することが仕事らしい。まぁ、魔物の撃退と結界の展開、土地や人々の浄化、国家の存続などだろう。
だが私は学生。だから、〝未来の聖女〟と呼ばれている。
平民であった私も聖女の力を扱えるようになったため、学びやの学園で学問や剣術に励めることとなったのだ。生涯は、国家に捧げるとか。
いや〜なこった。イケメンを見てる方が忙しいだよ。
「キャア!」
「今日も美しすぎますわ。」
「生きる理由…ですわ。」
なにやら女子たちの歓声が聞こえるのであった。私とローレシアはその歓声の元へ目を向けた。
「…またあの王子?」
「いや、今回は多分違うわよ。」
ローレシアの言葉に首を傾げた。目を向けた先には、オレンジ髪をし緑色の瞳を持った顔面国宝がいた。
「アーサー・シェイクスピア。この国の公爵家長男。イケメン度で言ったら、殿下とライバルなのよ。ちなみに私はアーサー派。」
(あの男とライバルって絶対ゲームの攻略対象だろ。ってか、ローレシアはアーサー派なのね。)
「どっちが人気なんです?」
「ん〜?どっちも五分五分だけど、ちょっぴり上なのは今のところロイド殿下かしら。アーサー公爵は普段から冷たいに比べて、ロイド殿下は別け隔てなく笑顔で接しているでしょう?まぁ、冷徹公爵様と腹黒王子様の違いよ。」
「ふぅん。」
私は女子たちに囲まれるアーサー公爵を見ていた。
近寄らなければ、大丈夫そうね。遠くから拝も。
「でもねぇ〜、アーサー公爵なんか女を毛嫌いしてるみたいで、あーんな感じでベタベタされるのは好きじゃないみたい。」
「ローレシアはどう思ってるんです?」
「そこが最高なのよ。」
なんなんだこいつの好きなところは。
「じゃあ、将来のパートナーはあの人狙いなんですか?」
「いや?結婚は嫌だよ。あんな無愛想男。…ほら言うじゃない!推しと好きな人の違い!」
確かに。そうかも。
✧✧✧
「マスター!もう一杯!」
私は酒場でお酒を飲みふけっていた。
「来てくれるのはありがたいが…聖女様が酒を飲みふけるって相当なことなんじゃないか?それに今は学園の生徒だろう?」
「貴族の生徒の中じゃあ、16歳になるまで飲まないのが常識なんだって。逆に平民は10歳から飲むのが常識。…これって明らかにおかしくない?」
マスターは瓶の引き出しを開けながら、口を開いた。
「たった6年だろ?」
「6年もだよ!…まぁ、マスターみたいにぃ?年があれだとたかが6年かも知れないですがぁ。」
私の言葉にマスターはムカついたのか、ドンッと瓶を置いた。
「蒸留酒のウォッカだ。」
「あぁ!受けて立ちますわ!」
私は瓶ごと飲むのであった。
ーーそのときだった。カランと扉の開く音。
「らっしゃい〜。」
「マスター。いつもの…。」
「へ?」
酒場に入ってきた人物は私を見るなり目を開いた。私も酔ってはいたものの、目の前の人物を見て驚く。
アーサー!?
私は驚きのあまりに瓶で顔を隠す。
な、なんでここに。貴族なのに!?私は元々平民生まれだったから、よしとして…。いや、なんで彼がいるん!?…まずくない?聖女の私が酔いつぶれてるのを見られたりしたら…。ま、まだバレてない。はず。
アーサーはマントを被っていた。おそらくは、お忍びで来たのだろう。
「そういえば、2人とも学園に通ってるんだっけ?仲いいのか?」
「断じて違う。」
「断じて違います!」
マスターの言葉にアーサーと私は同時にそう言った。マスターはその様子に「息ぴったり…。」と呟いている。
…やばい。このままじゃ、選択肢が出る。落ち着け。私。あの本にも書いてあったろ。
『イケメンが出たら?ーーまずは逃げましょう。』
これよ!
「マシュ…ヒック。マフター。かいけいひて…あたし、ヒック、かえるぅ!」
「マスター。この女になに飲ませた?」
「…ウォッカ。」
アーサーの質問にマスターは渋々答えた。アーサーは何やってるんだこいつのような顔で見ている。マスターはため息をついて私に言ってくれた。
「今日のお代はいい。」
「ほんと!?マフターだいしゅき〜!!」
私が抱きつくとマスターは「怖っ!」と呟いていた。
失礼すぎんか?
「アーサー。…こいつを送ってくれないか?」
「嫌です。こんな酔いつぶれた女。」
「あたしもいやらし。こんな、無っ愛想男!ヒック!1人でかえるぅし!」
選択肢が出たら嫌。選択肢が出たら嫌。
「でもどうやって帰るんだ?1週間に2回使える転移異能なんだろ?…そんなに酔ってたら使えないんじゃないか。」
「…あ。」
酔いつぶれた時は異能が使えない。わっすれてた〜。あはは。えまじでどうやって帰ろう。
『どうやって帰る?1.アーサーに服を脱いでおねだり2.アーサーを殴って家まで送れと命令する3.アーサーが乗ってきた馬車の1頭の馬を奪って帰る。』
「…。」
…。ここで選択肢!?嘘でしょ!?しかもどれも地味に最悪。まず1はなしでしょ。…で。
砂時計マークが緑から黄色に変わる。
2は暴行罪。3は窃盗罪。なんかどっちも死罪になりそうで怖いし。オワッタ。どっちを選べば…。でも。
私は恐る恐る3を押した。すると、身体は勝手に外に動き、アーサーの公爵家の紋章の入った馬車を見つける。
ごめんね。ごめんね!これは、私の意思じゃなぁい!
私はアーサーの馬車を引いている3頭の馬のうち、一番ちっこい1頭を選んだ。
ごめんよぉ。
「何者だ!」
アーサーの馬を運転するものらしきものがそう言ってきたが、私は耳を傾けずに馬を走らせた。不思議と馬は私の言う事を聞いて素直に走ってくれる。
これが聖女パワーってやつ?あはは。
私は遠くなっていく酒場を見て呟いた。
明日から、どうかアーサー公爵から絶対に見つからないようにしよ。うん。




