第51話 鉄壁の街と巨躯の緑鬼
太陽が天高く昇り、地上を燦々と照らす時間帯。俺は街道から少し逸れた草原を走っていた。
アイアン・ゴーレムの狩場を後にして街道に合流した後、月と星々が輝く夜空の下、体力作りも兼ねて走り始めた。
休憩を挟みながら走り続け、いつの間にか太陽が天高く昇る時間帯になっていた。
(ハァ、ハァ、ふぅ……半日近くも走ったのなんて、学生の時以来だな)
社会人になってからは黙々と仕事に取り組み、たまの休日は寝不足解消と趣味に消費していたため、体力は確実に衰えていた。
(全力で走るって……想像以上に気持ちいいんだな)
目を瞑り、優しい微風を全身で感じる。時間が経つにつれて身体の熱が冷めて、心地良い気持ちになる。
少し休憩した後、俺はステータスウィンドウを表示し、現状確認を行う。
レベルは『47』から『54』に上昇し、一番突出している能力値は『物理攻撃力』から『技術力』に変わり、『技術力』は『402』。
平均能力値は『278』まで上昇した。
続いて、スキルポイント。
現在のスキルポイントは『10』。
これだけ貯まっているなら、せっかく獲得した【風魔法】を使えるようにするため、【言語理解】を獲得しようかと考えた。
(でも獲得したとして、"詠唱文"や"魔法名"が分からない。何度か自分で試してみるのもありだが、無駄骨だった場合、大切なスキルポイントを無駄遣いすることになる。そう考えると……安易に試せないよなぁ)
結局俺は、【言語理解】にスキルポイントを使用するのを止めた。
それよりも、これまでの戦闘で大いに役立ってきたスキルに、投資した方がいいと考えた。
そうなると、これまで何度も危ない場面で助けられてきた、【身体強化】に投資するべきだ。
『【身体強化】Lv.6にUPしました』
詳細説明を確認すると、強化倍率が『×1.5倍』から『×1.6倍』に、有効時間が『5分間』から『6分間』に変わっていた。
強化倍率が高くなり、有効時間が長くなったので、これまで以上に俺を助けてくれることだろう。
(よし。さらに強くなるためにも、新たな狩場を目指さないとな!)
俺は現状確認を終えると、再び草原を走り始めた。
▼
陽がだいぶ傾いた夕方頃。
俺は【遠視】で、数百メートル離れた場所に聳え立つ巨大な壁を見つめていた。
これまでに訪れた街と同じような造りだが、壁の表面が、アイアン・ゴーレムと同様に銀色に輝いていた。
(まさか、鉄製の壁か。これまでに訪れた街よりも頑丈な造りとなると、もしかして主要都市、あるいは王都か?)
そう思うと、巨大な鉄壁の向こうに広がる光景を想像してしまう。
街並みや行き交う人々、売られている品物など、どんな世界が広がっているのかとても気になって仕方がない。
もし人間に転生していたら、強さを目指して冒険者になったり、現代の知識を活用して商人になったり。
色々な人との出会いと別れを繰り返して、楽しい思い出も苦しい思い出も全てを抱えて、今よりはマシな人生を送っていただろう。
(……嘆いても、意味はないか。今から人間に生まれ変われるわけじゃないし、今のままでどう生きていくかが大事だよな)
そう気持ちを切り替えると、周囲を見渡す。
住民の糧となっている狩場がどこか探していると、起伏の激しい丘陵地帯を発見。巨大な岩塊が連なる場所に、遠目からでも大きな影を見つけた。
(あの大きさは、確実に人間じゃない。人型の魔物の可能性が高い)
どんな魔物が生息しているのか、期待と不安を抱きながら、狩場の方に向かって進み始める。
道中冒険者達に遭遇しないように、木の影や岩塊の陰に隠れながら移動を続け、狩場に足を踏み入れる。
運良く冒険者と遭遇することなく、左右を岩塊に挟まれた道を進んでいると、【気配察知】が気配を捉えた。
左前方の岩塊の上に視線を向けると、足元の岩塊に引けを取らない巨躯の魔物が佇んでいた。
身長は二メートルほどで、緑色の肌をした筋骨隆々な肉体。口を閉じていても、上に向かって伸びた鋭い二本の牙が目立つ。
右手には一本の石斧を携えたその魔物は━━
俺は正体を探るため、【看破】を発動した。
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(簡略ステータス)
・オーガ Lv.38
・平均能力値 112
・所持スキル 【格闘術】【斧術】【気配察知】【物理攻撃耐性】【魔法攻撃耐性】
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(……オーガ、か)
異世界転生モノでは、強力な魔物としてゴブリンやオークと並び、ポピュラーな存在だ。
強さは、ハイオークやコボルト・ジェネラルと同等だが、物理攻撃・魔法攻撃ともに耐性が備わっている。
(武器を扱う厄介な魔物だが、単純な強さは俺の方が上。油断しなければ、十分対処できる相手だ)
視線を交わしていると、オーガが「グルル……」と唸る。
そして、突然岩塊を蹴って大きく跳躍すると、落下の勢いも乗せて石斧を鋭く振り下ろしてくる。
ガキィィィン!
俺は長剣を頭上に抱え、石斧を受け止める。
【看破】で視たオーガの『物理攻撃力』と俺の『物理攻撃力』には、およそ三倍の開きがある。
本来なら、屈強な肉体から繰り出される斧撃は脅威だが、俺は膝が少し沈む程度で、難なく受け止められた。
するとオーガは、飛び退いて距離を取る。
(次はこっちの番だ!)
俺はその場で大きく跳躍すると、オーガに向かって鋭く長剣を振り下ろした。
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