第5話 初めての集団戦
醜悪な魔物を一匹喰らっただけでは渇きと食欲は満たされず、足元に涎を撒き散らし、突き出た腹を揺らしながら木々の間を駆け抜ける。
ただ目的もなく走り回っているわけではなく、なぜか獲物の居場所が分かるので、一目散にそこへ向かっている。
前方には、棍棒を握る醜悪な魔物が二匹。
お互いの距離は離れているので、俺との距離が近い方に狙いを定め、噛みつこうと飛びかかる。
「ブモォオオオオオ!」
雄叫びを上げ、目を血走らせ、両手で肩を鷲掴みにしようと近づくと、醜悪な魔物は棍棒を振り上げ、俺の顔面へと振り下ろす。
理性はほぼ本能に侵食されているが、先程まったく同じ攻撃を受けたので、棍棒を回避。
そして隙を晒している醜悪な魔物に掴みかかろうとしたが━━
側頭部に、何か小さく硬い物を投げつけられたような衝撃と痛みが走り、意識がそちらへ向く。
離れた場所にいた二匹目が、棍棒を振り上げてこちらへ接近していた。
「ブモォオオオオオ━━……」
飢えを満たすため再び雄叫びを上げ、一歩踏み出そうとした時━━背後から一匹目が振り抜いた棍棒が、俺の後頭部を殴打する。
「ブモッ……」
顔面から真っ逆様に地面へ倒れ伏す。
「「グギャッ!」」
醜悪な魔物達が俺の側まで駆け寄ると、一斉に棍棒を振り上げ、後頭部・背中・足を乱打する。
「ブモッ……ブモッ……」
……イタイ。
……ハラガヘッタ。
……クライタイ。
痛みよりも【暴食】の衝動が勝り、腹の底から雄叫びを上げて上体を起こすと、真っ先に目についた一匹目の腰元に掴みかかる。
そのまま噛みつこうとしたが、再び側頭部に石を投げつけられたような衝撃が走り、俺は側頭部を押さえながら地面を転がる。
また乱打されないよう、よろめきながらも素早く立ち上がると、なぜかよく分からないが、俺を取り囲む気配の数が分かる━━五匹だ。
気配を頼りに周囲を見渡すと、逃げ道を塞ぐように五匹の醜悪な魔物が立ち並んでいた。
俺と同族の戦闘音を聞きつけ、数が増えたのかもしれない。
「ハァ……ハァ……」と荒い息を落ち着かせながら、この状況をどう打開するか考える。
体力が減少しダメージが蓄積したせいか、本能に苛まれず冷静に考えることができるようになった。
実際に戦った感触では、個体戦力は俺の方が上。その証拠に、これだけ棍棒で打ちのめされても行動不能にはならなかった。
だが、数的には不利。
こちらは武器も所持していないし、体術の心得もない。このままではいずれ、物量に押し切られて殺されてしまう。
こうして考えている間にも、取り囲む醜悪な魔物達は下卑た笑みを浮かべ、じりじりと距離を詰めてくる。
(……どうする)
窮地に追い込まれた俺は「ステータス」と念じ、この状況を打開できる方法はないか考える。
(あっ! このスキルなら━━)
俺が注目したのは、スライムが所持していたスキルの一つ━━【酸弾】だ。
醜悪な魔物とステータスウィンドウを交互に見ながら、【酸弾】の項目をタップする。
俺の突然の行動に、醜悪な魔物達は「グギャ?」と疑問の表情を浮かべた。
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・能力名 【酸弾】
・分類 任意発動型
・効果
指先に酸性の弾丸を生成して、射出可能。
酸性の強度は、スキルレベルに比例して強力になる。
射程は、5メートル。
・魔力消費 無し。
・クールタイム 15秒間
━━━━━━━━━━
(これなら、距離が離れていても攻撃ができる)
「ブモォオオオオオ!(行くぞ!)」
戦意を高揚させるため雄叫びを上げると、醜悪な魔物達も俺の戦意に共鳴して「グギャ!」と一鳴きし、棍棒を振り上げて駆け出す。
俺はまず、真正面の個体に向けて手を拳銃の形にして、指先から【酸弾】を射出。
顔面に受けた個体は握っていた棍棒を手放し、強い光が目に入ったかのように両目を覆い、地面に膝をつく。
「グギャ……」
(よし、突破口はできた!)
俺は両手で顔を覆うその個体の側を通り抜け、落ちていた棍棒を拾い上げながら逃走する。
同族を無力化された醜悪な魔物達は、俺が逃げ出すと〝絶対に逃さない〟とばかりに追いかけてくる。
俺は逃走しながら、心の中で15秒をカウントする。
と同時に、追いかけてくる足音に耳を澄ます。足音の音量に違いがあるので、それぞれバラバラに追いかけてきているようだ。
それなら、一匹ずつ討伐できる。
クールタイムが明けたタイミングで逃走を止めて反転。一番近くにいる個体に狙いを定め、再び【酸弾】を射出する。
顔を覆いながら膝をつく個体を流し見ると、その側を通り抜け、同族が無力化されたことに驚いている次の個体に狙いを定める。
散々殴られたお返しに、顔面へ向けて棍棒を振り下ろす。しかし一度目は棍棒を上手く扱えず、しっかりと力を乗せることができなかった。
それでも怯んで隙だらけなので、二度目はしっかりと力を乗せて叩き込む。
「グギャ……」
後頭部から地面に倒れゆくのを流し見ると、さらに次の個体へ狙いを定める━━が、手負いの獣が反撃に転じ、同族を一瞬で二匹も無力化したことで、残りの二匹は【逃走】で逃げ始める。
(……できれば追いかけたいところだが、無力化した三匹を確実に始末しないと逃げられる可能性もある。追うのは止めておこうか)
まだこの狩場で活動するつもりだし、いずれあいつらも俺の腹に収まることになるだろう。
俺は振り返り、近くにいた個体へ歩み寄る。
未だに焼け爛れる痛みで顔を押さえているその個体を押し倒し、両手首を掴んで地面に押し付ける。
「グギャ! グギャ!」
痛みと拘束を振り解こうと暴れる個体に馬乗りになり、喉元に齧り付く。
さらに激しく暴れ始めるので肉を食いちぎってやると、醜悪な魔物は徐々に動きが小さくなり、息絶えた。
大人しくなったところで喰らうペースを早める。肉も骨も内臓も、グチャッ、バリッ、ボキッと腹に収めていく。
……満たされる。
……美味い。
……でも、まだ足りない。
一匹目を喰い終えると、続いて二匹目、三匹目と同様に喰らっていく。
『【棍棒術】Lv.3にUPしました』
『【気配察知】Lv.3にUPしました』
『【逃走】Lv.2にUPしました』
初めての集団戦に疲れた俺は、近くの木の幹に背中を預けて腰を下ろす。
(流石に疲れた……一匹一匹は俺より個体戦力が低いが、スライムよりも強く、連携してくるので非常に面倒だった。体力の減少とダメージの蓄積で理性的に行動できなくなっていたら、危なかったかもな……)
運が良かったと安堵しつつ、戦闘中に気になったことを思い出す。
(なぜか奴らの正確な数と居場所を把握できた。おそらく醜悪な魔物から獲得した【気配察知】の効果だと思うが……どんな効果なんだろうな)
俺は再びステータスウィンドウを表示し、【気配察知】の項目をタップして詳細を確認し始めた。
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