第4話 狩場変更
草花の咲き誇る草原を、飢えた獣のように縦横無尽に走り回る。プルプルと無防備に揺れるスライムを鷲掴み、齧り付く。
当然、一匹では物足りない。草原からスライムが絶滅するほどの勢いで、喰らい尽くしていく。
━━50匹目。
『【酸弾】Lv.5にUPしました』
『【物理攻撃耐性】Lv.5にUPしました』
ビッグ・スライムと遭遇する以前の個体数と同等に喰らっているが、渇きと食欲が満たされる気配がない。それどころか、軽減される様子すらない。
徐々に体力と精神が消耗し、無限に湧き上がる渇きと食欲という燃料があっても、身体を動かすことができなくなった。
その場にどさりと座り込むと、肉体的にも精神的にも疲労しているせいか、【暴食】の衝動があっても理性を保てている。
なら━━ちょうど良い。今のうちに、戦果を確認しておこう。
再び草原の中で異質な存在感を放つ岩のもとへ向かい、腰を下ろして背中を預ける。それから「ステータス」と念じて、ステータスウィンドウを表示した。
レベルは『9』まで上昇し、能力値の平均は『13』から『26』と、およそ二倍に。最も優れている能力値である『物理防御力』は、『23』から『44』に上昇している。
スライムおよびビッグ・スライムが所持していた【酸弾】【物理攻撃耐性】は、レベル『5』まで上げることができた。
着実に成長していることは実感できる。しかし【暴食】の衝動さえなければ、より満足感を得られたんだがな……。
今こうして冷静に考えられているからこそ思い至ったが、レベルやスキルレベルの経験値を確認できないものかと思った。
それが分かれば、【暴食】の衝動が落ち着いているこういう状況で、計画的に狩りを進められる。
【暴食】の詳細を確認した時のように、表示項目をタップするように触れてみると、なんと━━現在の保有経験値と次のレベルアップに必要な経験値が表示された。
━━━━━━━━━━
・レベル9
4,883,380/19,531,250
・【酸弾】Lv.5
1,500/72,000
・【物理攻撃耐性】Lv.5
1,600/72,000
━━━━━━━━━━
保有経験値とレベルアップに必要な経験値は明らかになった。だが、スライム一匹からどれほどの経験値が得られるのかはまだわからない。
ちょうどプヨンップヨンッと弾みながら近づいてきたスライムを鷲掴みにして、口元へ運ぶ。
ゴクッと飲み込んだところで、経験値の変化を確認した。
レベルはたったの『5』しか上昇せず、スキルレベルはそれぞれ『100』ずつの上昇。レベルを『10』に上昇させるには、スライムをおよそ180万匹討伐しなければならない。
スキルレベルを『6』に上げるにも、およそ700匹は必要だ。
スキルレベルを上げる方がまだ現実的とはいえ、それでも700匹とは気が遠くなる。流石に何日かかるか分からない。
俺がスライムを100匹以上討伐したせいで、付近にスライムの姿が見えなくなり、自然と移動範囲も広がっていた。
それに、ビッグ・スライムを喰らった時にとてつもない美味を感じてしまったからか、スライムをいくら喰らっても渇きと食欲が一向に満たされない。
あくまで予想だが、格上のビッグ・スライムを喰らったことで、格下のスライムではもう【暴食】を満足させられないのかもしれない。
そうなると、最低でもスライムより強い魔物を探す必要がある。渇きと食欲を満たすため、より強く成長するため━━今こそ狩場を変えるタイミングだと直感した。
グゥゥゥゥゥ……。
腹の虫が鳴り、渇きと食欲が再燃する。休憩を取ったことで、体力と精神が回復してきたからだろう。
理性が本能に侵食される前に、狩場を移動しなければ。
岩陰から立ち上がり、再び東へ向かって歩き出す。
草原を抜けるまでの間、近づいてくるスライムを喰らいながら進んでいると、一切草花の生えていない剥き出しの大地へ出た。
幅は3〜5メートルほどで、南北に道が伸びている。道を挟んだ向こう側には、草花の咲き誇る草原が広がっている。
おそらく街や村を繋ぐ街道だろうが、幸い見渡す限り人影は見当たらない。
北へ伸びる道の先には、小さく森が見える。もしかすると、スライムより強い魔物がいるかもしれない。
とりあえずは、あの森を目指すか。
街道に出て、北へ向かって歩き始めた。
▼
天高く昇っていた太陽がだいぶ傾いた夕方頃、俺は左右に木々の立ち並ぶ森の前まで来ていた。
同じ森だし、出現する魔物も同じだろう。
グゥゥゥゥゥ……。
また腹の虫が鳴る。街道を進む間も何度も鳴っており、渇きと食欲はどんどん強くなっている。
「う、うぅ……」
……腹が減った。
……早く餌ヲ。
……喰らイタイ。
徐々に理性が本能に侵食され、気づけば口元から涎を垂れ流しながら、森へ向かって駆け出していた。
肉食獣のように木々を避けながら走り回り、獲物を探す。
「グギャ!」
奇怪な鳴き声の聞こえた方向へ視線を向けると、俺と同じ背丈ほどの人影がこちらへ向かって駆け出していた。
緑色の肌、獣のように鋭い目つき、高い鼻、歯並びの悪い乱杭歯、ぽっこりと突き出た腹をした醜悪な魔物━━棍棒を片手に下卑た笑みを浮かべながら、近づいてくる。
俺もまた、獲物を見つけた捕食者のように不気味な笑みを浮かべ、涎を撒き散らしながら駆け出した。
彼我の距離が縮まると、俺は本能を剥き出しにして噛みつこうと飛びかかる。しかし醜悪な魔物は棍棒を振り上げ、俺の顔面を叩きつけた。
「ブモッ!」
殴打された顔面を押さえながらよろめき、後退する。それを好機と判断した醜悪な魔物がさらに距離を詰め、棍棒で俺の身体を乱打した。
「ブモッ……ブモッ……」
顔面の痛みが引かないうちは反撃に移れず、腕や横腹を殴打されるまま、思わずよろめいて地面に倒れる。
「グギャ!」
醜悪な魔物が俺の腹の上に馬乗りになり、顔面を押さえる両手の上から殴打を繰り返す。
……イタイ。
……ワズラワシイ。
……ハラガヘッタ。
……クイタイ。
……クワセロ!
「ブモォオオオオオ!」
顔面の痛みが引いてきたところで、雄叫びを上げながら上体を起こし、反撃に転じた。
咄嗟の反撃に驚いた醜悪な魔物が、地面に倒れる。
今度は俺が馬乗りになる。殴打するのではなく、顔を近づけた。醜悪な魔物の顔に、俺の涎が垂れる。
振り解こうと足掻いた魔物が、俺の側頭部を棍棒で殴打する。
「ブモッ……ブモォオオオオオ!」
渇きと食欲が極限に達し、痛みによって怒りが頂点に達した俺は、勢いよく醜悪な魔物の喉元に噛み付いた。
グチャ……グチャ……ゴクッ。
一心不乱に貪る。醜悪な魔物は地面を流血で真っ赤に染めながら、身体をビクビクと痙攣させた。
頭部から腕、腹と、上から順番に肉を噛みちぎって飲み込む。
バキッ……ボキッ……グチャ。
肉も骨も内臓も、全て自分の糧とするため、どんどん咀嚼して腹に収めていく。
『【棍棒術】Lv.2を獲得しました』
『【気配察知】Lv.2を獲得しました』
『【逃走】Lv.1を獲得しました』
……アァ、ミタサレル。
……ダガ、マダタリナイ。
……モットダ!
……モット、クワセロ!
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