第3話 上位種との邂逅
【暴食】の衝動に突き動かされるまま駆け出した俺は、目を血走らせながら、足元でプルプルと揺れ動くスライムへ手を伸ばす。
両手で鷲掴みにして口元へ運ぶと、涎を垂れ流しながら勢いよく齧りつく。
柔らかい身体を二、三度咀嚼してすぐ飲み込む。
飲み込んだものが喉から食道を通り胃袋へ到達すると、体内で快楽成分が生成され、俺の心を満たす。
『【酸弾】Lv.2にUPしました』
(……美味い! もっとだ!)
渇きと食欲が満たされるのは、ほんの一瞬だけ。すぐに、以前よりも強烈な渇きと食欲が俺の理性を侵す。
目を血走らせ、涎をダラダラと垂れ流しながら周囲を見渡す。
プルプルと揺れ動く存在を認識した瞬間、飢えた獣のように駆け出し、鷲掴んで口元へ。
グニャリ、グニャリ、ゴクッ。
……もっとだ!
……まだ足りない。
……もっと喰らいたい。
━━10匹目。
『Lv.2にUPしました』
『【酸弾】Lv.3にUPしました』
『【物理攻撃耐性】Lv.3にUPしました』
━━50匹目。
『Lv.3にUPしました』
『【酸弾】Lv.4にUPしました』
『【物理攻撃耐性】Lv.4にUPしました』
……満たされ、ナイ。
……喉がカワク、腹がヘッタ。
……もっと、喰わナクチャ。
スライムを喰らうたびに一瞬の満足感と快楽で満たされるが、その後はそれ以上の渇きと食欲に襲われ、俺の精神が擦り減っていく。
理性が徐々に失われ、本能が俺の身体を操る。
周囲のスライムを片っ端から喰らっていると、突然背中にこれまで感じたことのない痛みが走った。
(痛ッ!)
本能に支配されていた俺の身体に、理性が戻る。
焼けるような痛みに、思わず地面に膝をつく。
(ぐっ……ぁ……なんだこの痛みは? 誰だ……)
痛みを堪えながら周囲を見渡すと、これまで喰らっていたスライムよりも一回り大きい存在が俺の後方にいた。
(なんだあれは……━━)
いつ現れたのか。他のスライムとは何が違うのか。観察して思考しようとした時━━突然、胸の内がドクンッと跳ねる。
急速に戻った理性が、再び強烈な本能によって侵食される。しかもこれまでスライムに抱いた本能よりも、さらに強烈な衝動が湧き上がる。
……喰らイタイ。
……美味ソウダ。
……俺の糧トナレ。
「ブモォオオオオオ!」
腹の底から雄叫びを上げ、一回り大きいスライム━━ビッグ・スライムのもとへ形振り構わず駆け出す。
俺が接近すると、ビッグ・スライムは身体を変化させ、擬似的な銃口のようなものを形成する。
直後、黄色の粘液が射出される。
黄色の粘液が俺の身体に付着すると、『シュゥー』と煙を上げ、皮膚の表面を溶かした。
皮膚が焼けるような匂いが鼻をつくが、先程のように、痛みで理性が戻ることはない。
二、三発、腕や足に浴びて痛みが増そうと、口元から涎を飛び散らせ、足を引き摺りながら、倒れ込むようにビッグ・スライムを鷲掴む。
そのまま口元へ運び、空腹を満たすように勢いよく貪りつく。
ビッグ・スライムは手元でプルプルと揺れ動き、俺から逃れようとする。
そんなのお構いなしに、俺はビッグ・スライムの身体を喉の奥へ奥へと押し込み、一口で多くを取り込めるように、噛みちぎる。
ただ一気に口へ入れ過ぎたようで、喉に詰まり、一度口へ入れたものを全部吐き出してしまう。
しかしすぐに、独り占めするように草花も一緒にかき集め、再び口の中へ詰め込む。
……満たサレル。
……アァ。
……俺のモノニナレ。
『Lv.4にUPしました』
『Lv.5にUPしました』
『Lv.6にUPしました』
『Lv.7にUPしました』
『Lv.8にUPしました』
『Lv.9にUPしました』
脳内に響くレベル上昇のアナウンスが聞こえた瞬間、俺の理性を侵食していた本能は鳴りを潜め、俺の意識はそこで途絶えた。
▼
「うぅ……ぁ、あ!」
草花が咲き誇る草原の上でうつ伏せに気を失っていた俺は、ゆっくりと目を開く。
ゆっくりと身体を起こしながら、気絶する前の記憶を思い出す。
確か、ビッグ・スライムに背後から奇襲され、酸液を受けて痛みに襲われながらも、本能のままにビッグ・スライムを喰らった。
そこでアドレナリンが切れたかのように意識を手放してしまったようだが……他のスライムに襲われなくて良かった。
予め喰らい尽くしておいて正解だった。
腕や足を見ると、酸液を浴びた部分が爛れている。しかしビッグ・スライムを倒してレベルが上昇したからか、気を失う前と比べて痛みはマシになっていた。
それでもまだ痛みは残っているので、落ち着くまでその場で休憩することにした。そして、ビッグ・スライムのことについて考える。
ビッグ・スライム━━正式名称ではなく、俺がそう呼んでいるだけだが、何故突然現れたのか?
そんな思考を邪魔するように、渇きと食欲が再び沸々と湧き上がる。
なんとか意識を切り替える。
異世界転生モノの展開から、予想されることは二つ。
一つ━━俺がスライムを喰らっていたのと同時に、スライムも共食いをしており、上位種へ進化を果たした。
二つ━━この場に生息するスライムが激減したことで、上位種の出現条件を満たした。
そんなところだろうか。もしくは、二つ以外に出現条件があるのかもしれない。
それでも、上位種が出現したのは間違いない。
射出された酸液も通常のスライムよりも強力だったし、いきなりレベルが『3』から『9』に上昇したことからも、少なくともレベルの面では俺よりも強かったのは間違いない。
ただ、元々の能力値に加え、【酸弾】【物理攻撃耐性】のレベルが上昇して能力値に補正がかかっていたおかげで、なんとか勝つことができた。
まぁ、技術も駆け引きもない真正面からのぶつかり合いだったが……。
徐々に渇きと食欲が強くなってきた。
……腹が減った。
……早くスライムを。
……喰らいたい。
口元から溢れる涎を拭き取り、再び意識を切り替える。
なんにしても勝てたから良かったが、今後は上位種の出現条件を調査する必要がある。
でないと、背後からあっさり奇襲されて上位種に殺される。
気をつけないとな。
……あぁ、もうダメだ。
ビッグ・スライムを喰らって満たされたと思ったが、束の間のことだったようだ。
口元に涎が溢れ、獲物を探すように感覚を研ぎ澄ませながら周囲をキョロキョロと見渡す。
プルプルと揺れ動くスライムを発見した直後、気づけば足が一歩、二歩と前に出て、飢えた肉食獣のように走り出していた。
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