第48話 弱点は胸部の黒いもの
所持スキルの詳細確認を終えた頃、陽は地平線の向こう側に沈んでいて、半分だけ顔を覗かせている状態だった。
(そろそろ冒険者達は、素材換金のために帰る頃合いだろう)
そう思って岩山の頂上付近まで登り、洞窟の入口から伸びる道を見下ろす。
すると、ちょうど冒険者達が出てきたタイミングで、談笑しながら帰路に着く様子が見えた。
(あれ? 魔物の死体はどこだ? 素材はどうしたんだ?)
帰路に着く冒険者達を注視すると、武器や防具、ウエストポーチを身につけているだけで、魔物の素材を所持していなかった。
いや、よく見てみると、最後尾を歩く冒険者が大きめの麻袋を肩に担いでいるのが見えた。
(あの程度の袋に収まるほどに、小さな魔物なのか? それとも、特定部位だけを持ち帰るような魔物なのか?)
狩場に生息する魔物の特徴を予想していると、ジワジワと【暴食】の衝動が蠢き出す。
そして魔物の本能━━殺意までもが湧いてくる。
俺はすぐに屈んで、冒険者達から視線を外す。
(ぐっ……人間ヲ見過ギタ。完全ニ理性ヲ失ウホドジャナイケド、衝動が収マルまではコノママでいよう)
コボルト・キングを討伐して少しは成長したと思ったけど、まだまだ衝動も殺意も制御しきれない。
最初の頃のように、瞬く間に理性を失うことはなくなったけど、抗い続けるのは難しいと感じる。
それと人間を喰ってからは、魔物に対しての渇きは軽くなったが、人間への渇きは以前よりも増した感じがする。
一言で言えば、味を知ってしまったのだろう。
(ふぅ……だいぶ落ち着いてきたか。とりあえずは完全に陽が沈むまでは、このままでいよう)
俺は地平線の向こう側に沈む夕陽を眺めながら、夜の帳が下りるのを待った。
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(よっしゃ、行くか!)
夜の帳が完全に下りた頃、俺は岩山を下山し、まるで巨大な魔物が口を開けているかのような洞窟の前に立つ。
【夜目】があるからこそ洞窟の内部がなんとなく見通せるが、【夜目】がなければ、魔物を視認することすらできず、そして来た道を戻ることもできず、洞窟内で命を落とすことになるだろう。
そんな危険な狩場に、俺は足を踏み入れる。全神経を研ぎ澄ませ、息を殺して、ゴツゴツとした道を進んでいく。
50メートルほど進んだところで、ようやく人型の魔物を発見した。
身長は三メートルほどで、輪郭は人間のように丸みを帯びているわけではなく、角張った感じでゴツゴツとしている。
人間で言う鳩尾辺りには、黒い丸いものが埋め込まれている。
俺は正体を探るため、【看破】を発動した。
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(簡略ステータス)
・名称 ロック・ゴーレム
・平均能力値 145
・所持スキル 【格闘術】【振動感知】【物理攻撃耐性】
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歪な人型系魔物の正体は、ゴーレムだったようだ。"ロック"と名称に付いていることから、身体構造は岩石だと推測できる。
レベルはコボルト・キングと同等━━つまり、Cランク以上の魔物。所持スキル自体は少ないが、スキルレベルは全て『5』。
コボルト・キングに辛勝した俺にとっては、油断できない相手だ。
(でも、戦闘方法は近接格闘のみ。搦手もない単純なパワー系だから、【威圧】を持つコボルト・キングよりはマシか)
俺は長剣を構えると、全力で駆け出す。するとロック・ゴーレムは、目などないのにこちらへ振り向く。
おそらく【振動感知】で俺の存在を認識したのだろう。
"振動"とあるように、地面に響く俺の足音で、自身に近づく敵を把握したと思われる。
ロック・ゴーレムが鈍重な動きで巨大な拳を振り上げると、俺に向かって拳を振り抜く。
風切音とともに巨大な拳が目前に迫り、視界全体が拳で埋め尽くされる。俺はその場で立ち止まり、長剣を振り上げる。
そして、鋭く長剣を振り下ろす。
スパッ!
長剣はなんの抵抗もなく、巨大な拳を斬り裂いた。
(俺の『物理攻撃力』とロック・ゴーレムの『物理防御力』は二倍の差がある。だから真っ二つに両断するだけなら、簡単みたいだな)
頑丈な岩をも簡単に斬り裂けるようになったのは嬉しい。
ロック・ゴーレムは痛みに絶叫するわけでもなく、機械的に今度は左拳を突き出してくる。
スパッ!
今度も同様に左拳を真っ二つに両断すると、ロック・ゴーレムの左拳の上に飛び乗り、左腕を駆け上がる。
そして首元まで迫ると、長剣を一閃。巨大な頭部が落下し、轟音とともに洞窟を揺らす。
(よし。これで討伐完了。思ったよりも、呆気なかったな)
能力値で勝る俺が苦戦する要素はない━━そう思っていた。
(……あれ?)
レベル上昇やスキル獲得を知らせる声が聞こえない。
「まぁ、経験値が足りなかっただけか」と自分を納得させた、その時━━
【危険察知】が背後から迫る危険を教えてくれる。
咄嗟に振り向くと、ロック・ゴーレムがこちらに向いていて、右腕を薙ぎ払うように振るっていた。
左側から急速に迫る巨大な右腕。
俺は当たる直前、長剣で防御しようとするが、勢いも乗っていたことで吹き飛ばされ、岩壁に勢いよく衝突した。
「ブモッ……」
洞窟の天井から砂埃や小石が降ってくる。
俺は岩壁からずり落ち、地面に倒れそうになるのを堪え、体勢を立て直す。そして、長剣の切先をロック・ゴーレムへ向ける。
(衝撃は凄かったが、【物理攻撃耐性】のおかげで大したダメージはない。それよりも、何故首を斬り落としたのに、未だに動けているんだ?)
両拳も斬り裂かれた状態で、頭部も地面に落下したまま。それなのに奴は、痛みで動きが鈍るどころか、死んでもいない。
(コイツ……不死身か?)
思わず、そう思ってしまう。
だが、ここに冒険者が出入りしているということは、確実に奴を討伐しているはず。
だから必ず、奴を討伐できる方法はあるはずだ。
(単純に斬り伏せるだけじゃ駄目。そうなると、急所を狙うしかないが……)
そう考えている間にロック・ゴーレムは、斬り裂かれた状態の右拳を突き出してくる。
俺は跳躍して右拳を回避すると、右腕に着地し、駆け上がる。そして二度と攻撃ができないように右肩を斬りつけ、右腕を斬り落とす。
そのまま右肩から左肩へ移動し、同様に左腕を斬り落とす。巨大な両腕が落下し、再び洞窟内が揺れる。
それでもロック・ゴーレムの動きは止まらず、今度は右足を上げ、俺を踏み潰そうとしてくる。
俺は咄嗟に飛び退いて回避すると、揺れが収まったタイミングで駆け出し、右膝の辺りを斬り裂いた。
支えを失った巨体が大きく傾き━━
ロック・ゴーレムは岩壁に衝突しながら、轟音とともに地面へ倒れ込む。
ここまでボロボロになっているのに、レベル上昇やスキル獲得を知らせる声は聞こえない。
(本当にどうなってるんだ?)
奴が体勢を立て直すまでの時間に、改めて奴の身体を注視し、どうにか討伐方法を探る。
最初に見た時に気になっていた、鳩尾辺りに埋め込まれている丸くて黒いもの。【魔力感知】では、そこから強い魔力を感じる。
(コボルト達の身体にも似たようなものがあったな……。異世界転生モノでよくある魔石ってやつか?)
今までの魔物は頭を斬り落とせば死んでいたから気にしていなかったけど、ロック・ゴーレムにはそれが通用しない。
(身体が弱点じゃないなら、怪しいのはアレしかない)
そう思った俺は、仰向けに倒れているロック・ゴーレムの上に飛び乗り、魔石がある場所まで進む。
そして、勢いよく長剣を突き刺す。
パキッ!
魔石は簡単に割れた。
すると、ロック・ゴーレムが微動だにしなくなった。しかし、レベル上昇やスキル獲得を知らせる声が聞こえない。
(……いや、本当に倒せたのか?)
首を斬り落としても動き続けた相手だけに、念のため暫く様子を窺ってみたが、ロック・ゴーレムが動き出す気配はない。
よく分からないがこのままでは埒が明かないため、割った魔石を取り出し、バキッボキッと喰らう。
すると━━
『【振動感知】Lv.5を獲得しました』
(えっ……? 魔石だけでスキルを獲得した?)
思わず目を瞬かせる。
(レベルが上昇しなかったのは、ただ経験値が足りなかっただけか。それと、スキルは魔石だけでも獲得できる場合があるんだな)
コボルト達を喰らった時は、魔石だけ食べてもスキル獲得を知らせる声は聞こえなかった。
ロック・ゴーレムだからなのか、それとも別の条件があるのかは分からない。
だが、少なくとも━━
(よし。討伐方法は分かった。あとは狩るだけだ)
新たな魔物、新たなスキル。
ゴーレムの攻略法を掴んだ俺は、未知の狩場に対する高揚感を胸に、暗闇の奥へ足を踏み入れた。
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