第45話 遺品と弔い、そして北へ
集落内の粗末な小屋を一つ一つ確認していく。大半は部屋の隅に、正体の分からない骨が散乱していた。
(この森の中ではコボルト種しか見ていない。そして集落には、明確な役割を持つ上位種しか居なかった。となると……下位種を喰らっていたのか?)
部屋の隅に散乱する骨を見ても、それが獣の骨なのか同族の骨なのか、俺には判別できない。
(魔物社会も厳しいんだな……)
もしオークも同じような習性だったら、俺は一人で居たことを感謝したい。
転生直後から厳しい魔物社会に馴染めるとは思えないし、上位種達に淘汰されていたかもしれないからだ。
(さて、最後はこの大きい小屋だな)
大きさからして、おそらくコボルト・キングの住居だった小屋に足を踏み入れると、これまで倒してきた冒険者達の遺品が転がっていた。
長剣や長槍などの武器、革製のウエストポーチ、カード型の金属板、大小様々な硬貨が乱雑に置かれていた。
武器は今の俺が使用している鉄製のものばかりなので置いておき、まずは革製のウエストポーチを一つ手に取って調べる。
長さの調整は革紐を結ぶだけなので、簡単にできる。
中の構造は、カード型の金属板がすっぽり入る場所と、小分けに試験管を入れられるような場所に分かれていた。
いくつかのウエストポーチには、試験管のようなものに緑色の液体が入ったものもあった。
(おそらくポーションだと思うが、怪我を治癒するものなのか、それとも魔力を回復するものなのか。どんな効能かは分からないな)
次はカード型の金属板。材質は鉄で、長方形の薄い板のような形だ。
表面には、アルファベットの『C』や『D』、そしてよく分からない文字が刻印されていた。
(魔物の集落にあるくらいだから、間違いなく冒険者の所持品。そしてアルファベットとなると……冒険者のランクかな。ということは、冒険者の身分証明書みたいなものか)
どういう基準でランク分けされているのか分からないが、少なくともコボルト・キングは、Cランク以上の冒険者達を返り討ちにしていたらしい。
最後は大小様々な硬貨。鉄、銅、銀など色々な材質があり、小さい物と大きい物に分かれている。
単純に考えれば、小さい物の方が価値が低く、大きい物の方が価値が高い。
ただ価値の基準が分からないので、コボルト・キングが溜め込んだこれらが一体いくらになるのか、皆目見当もつかない。
それ以外にも、革鎧や鉄製の胸当てなどもあった。
確認を終えると、俺はウエストポーチを拾い上げ、革紐を解いて自分のサイズに調整する。
そして小分けされた場所に、緑色の液体が入った小瓶三本と、青色の液体が入った小瓶二本を入れた。
(……遺品を盗むのは気が引けるが、それでも俺はこの世界を生き抜いていかないといけない。仇は取ったので、これだけお借りしていきます)
そう心の中で呟くと、胸に手を当てて静かに目を閉じた。せめてもの弔いとして、数秒間だけ冥福を祈る。
武器は今の長剣があるので不要だし、防具もサイズが合わないので装備できない。
カード型の金属板と硬貨は魔物の俺には使い道がないので、そのまま放置することにした。
新規スキル獲得とレベル上げ、コボルト・キングの討伐、集落の探索――この狩場でやるべきことはなくなった。
(あ、そうだ。今のうちにステータスと【威圧】の詳細を確認しておこう)
ステータスウィンドウを表示し、自身の現状を確認する。
レベルは『39』から『44』に上がった。一番突出している能力値は『物理攻撃力』と『技術力』で、それぞれ『320』と『313』。
平均能力値も200の大台を超えた。
そして、俺の身体を硬直させた原因――【威圧】の詳細を確認する。
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・名称 【威圧】
・分類 任意発動型
・効果
対象に恐怖を抱かせ、行動不能にする。
同じ対象には、効果が薄くなる。
・クールタイム 18秒
・対象人数 一人
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コボルト・キングが連続で使用してこなかったのはクールタイムがあるためで、俺が二回目以降に身体を動かせたのは、同じ対象には効力が弱まるからのようだ。
今回のように初見殺しなら有用だが、多用するスキルではない。
ここぞという場面で確実に相手を仕留めようとする時にこそ、効果を最大限発揮する。
(使用するタイミングを見極める力が必要だな)
確認を終えると、続いてスキルポイントの項目をタップし、羅列されているスキルの中から目的のスキルを探す。
(あった、あった)
そのスキルの名称は【威圧耐性】。もしなかったなら【状態異常耐性】に含まれていただろうから、別途で獲得する必要はなかった。
でも別途で存在するということは、【状態異常耐性】に【威圧】の効果を軽減する能力はないということだ。
今後、コボルト・キングよりも強い相手と戦う場合、【威圧】を所持していると考えた方がいい。
そうなると、今のうちに対策を講じておくべきだ。
『【威圧耐性】Lv.1を獲得しました』
『【威圧耐性】Lv.2にUPしました』
『【威圧耐性】Lv.3にUPしました』
スキルポイントを全て消費して、【威圧耐性】を獲得し、スキルレベルを上げた。
(よし。現状確認も終わったし、そろそろ狩場を移動するか。陽も昇ってきたし、早く移動しないと冒険者達と出くわすことになるからな)
俺は集落の反対方向へ進み、本当にこっちで合っているのか不安になりながらも、森の中を歩いていく。
右往左往しながらもなんとか森を抜けると、偶然にも森に入る前に見かけた街道へ出た。
しかしすぐに、近くの木の影に身を隠す。
街道の先には巨大な壁が聳え立っており、壁の上を巡回している兵士に見つかる可能性があるからだ。
ふと見上げると、枝葉が視界に入る。その時に違和感を覚えた。
手を伸ばすとやはり、以前より枝葉が近く感じる。
(少し目線の高さも高くなった気がするし、間違いなく身長が伸びた)
改めて身体を見ると、全身の筋肉がより引き締まり、突き出ていた腹も多少引っ込んでいる。
握った拳も一回り大きくなっており、腕や胸には幾筋もの盛り上がった筋肉が浮かび上がっていた。
進化によって身体が作り替えられ、より戦闘向きになったようだ。
(オーク・グラディエーターか。これなら進化先の名前にも納得だ)
俺は自身の変化に喜びながら、再び移動を開始した。左側から大きく迂回するように進み、巨大な壁に囲まれた街から遠ざかる。
遠目に巨大な壁が小さくなったところで、街道へ向かって進み、合流した。
目指す場所など決まっていない。
だが、コボルト・キングを超える強敵は必ず存在する。
ならば、俺がやることは一つだ。
より強い獲物を求め、喰らい、さらに強くなる。
そう決意した俺は、街道に沿って北へ向かって歩き始めた。
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