第43話 狼王の鋭爪、迫る
コボルト・キングの雄叫びが響き渡ると、玉座の後ろからゾロゾロと、コボルト・ジェネラル達が姿を現した。
コボルト・キングを守るように間へ割って入ると、「グルル……」と低く唸りながら、鋭く睨みつけてくる。
(できれば、先にコボルト・キングを始末したかったが、こうなったら配下達から殲滅するか)
改めて長剣を構え直し、切先を奴らへ向ける。
睨み合う両者。
戦場に静寂が訪れ、枝葉のざわめきだけが聞こえる。
「グルルラァ!」
コボルト・キングが鳴くと、二匹のコボルト・ハンターが左右から迂回するように距離を詰めてくる。
コボルト・ファイターとコボルト・ジェネラルは動かず、二匹のコボルト・シャーマンが魔法陣を展開し、風の弾丸を同時に放ってきた。
何度も見た攻撃。【魔力感知】でしっかりと魔力を捉え、十分引きつけてから、上体を逸らして躱す。
すると今度は、二匹のコボルト・ファイターが同時に駆け出した。しかも、後ろへ回り込んでいたコボルト・ハンター達も動き出す。
四匹による前後からの挟撃。
まず前方から迫るコボルト・ファイター達を始末しようと動き出した時━━コボルト・シャーマン達が魔法陣を展開していることに気づいた。
(なっ━━!? 同士討ちする気か!)
コボルト・シャーマン達が風の弾丸を放つと同時に、コボルト・キングが鳴く。
すると、前後から迫っていたコボルト・ファイターとコボルト・ハンター達は動きを止め、コボルト・ファイター達が一斉に屈んだ。
コボルト・ファイター達の頭上を、コボルト・シャーマンが放った風の弾丸が通り過ぎ、俺へ向かって一直線に迫る。
そして間髪入れず、コボルト・キングが鳴くと、体勢を立て直したコボルト・ファイター達が動き出した。
(クソッ! 挟み討ちにされているから逃げ場がない。避けたところで、コボルト・ファイターの攻撃への対処が間に合わない)
しかも、コボルト・ハンター達は動きを止めているため、俺が風の弾丸を避けても被弾はしない。
そして、もし俺が後ろへ逃げれば、コボルト・ハンター達が待ち構えている。
完全に計算された動き。
(【統率】のレベルは、コボルト・ジェネラルと変わらないはずだ。それなのに、何故ここまで連携が洗練されている……?)
風の弾丸か、コボルト・ファイター達の攻撃か。どちらか受けなければならないなら、俺は迷わずコボルト・ファイター達を選ぶ。
【物理攻撃耐性】があり、スキルレベルも高い。打撃を受けた方が勝算がある。
俺は風の弾丸を先程と同様に回避すると、すぐに上体を起こした。目前には、右拳と左拳を鋭く突き出すコボルト・ファイター達。
ドゴッ!
両拳が俺の顔面を殴打するが、俺は多少仰け反っただけで、ほとんど無傷だった。
即座に反撃へ移ろうと長剣を振り上げた時、コボルト・キングが鳴く。
瞬時に反応したコボルト・ファイター達が咄嗟に飛び退き、間合いの外へ出た。
(チッ━━ぐっ……)
【危険察知】が背後から迫る危険を教えてくれたが、長剣を振り上げた状態だった俺は対応が間に合わず、コボルト・ハンター達に両肩を噛みつかれる。
鋭い犬歯を突き立て、必死に肉を噛みちぎろうとするコボルト・ハンター達。
(煩わしいんだよ━━ッ……)
コボルト・ハンター達を引き剥がそうと身をよじった時、【魔力感知】が魔力の動きを捉えた。
視線を向けると、コボルト・シャーマン達が魔法陣を展開し、風の矢を放っていた。
風の矢は俺の額と胸に突き刺さり、鋭い痛みが全身を駆け巡る。
視界の端が赤く染まる。
俺が一歩、二歩と後退り怯んだ様子を見せると、コボルト・ハンター達は噛む力を強めた。
そして再び、コボルト・ファイター達が距離を詰めてくる。
(流石に、コボルト・キングに統率されたパーティー相手に無傷は無理か。だったら、被弾覚悟で━━)
俺は両肩をコボルト・ハンター達に噛みつかれたまま、【突進】を発動。
瞬く間にコボルト・ファイター達との距離を詰めると、コボルト・ファイター達は慌てて体重の乗っていない蹴りを放ってきた。
避ける必要すらないので、両方の側頭部に蹴りを受けながら、長剣を横薙ぎに振るう。
左の個体の胴から下を真っ二つに両断すると、その場で軽く跳躍して、右の個体へ向かって長剣を鋭く振り下ろした。
(これで、コボルト・ファイター達は居なくなった。次は━━)
コボルト達は仲間が死んだことを歯牙にもかけず、コボルト・シャーマン達は即座に魔法陣を展開し、風の弾丸を放ってくる。
俺は【握力強化】を発動し、両肩に噛みついているコボルト・ハンター達の脇腹を鷲掴みにした。
ミシミシ、バキッという音とともにコボルト・ハンター達の肋骨が折れ、俺の指が深く食い込んで掴みやすくなる。
骨を握り潰された痛みで、コボルト・ハンター達は俺の肩から口を離し、「グルル……」と苦しそうに呻いた。
俺はコボルト・ハンター達を前面に掲げると、肉の盾で風の弾丸を防御する。そのまま、コボルト・ハンター達を掴んで駆け出した。
コボルト・シャーマン達が再び魔法陣を展開し、風の矢を放ってくるが、こちらも先程と同様に肉の盾で防ぐ。
「グルルラァ!」
コボルト・キングが鳴くと、今度はコボルト・ジェネラル達が動き出した。左右から回り込むように距離を詰めてくる。
コボルト・ジェネラル達を相手にするとなると、肉の盾が邪魔になる。しかし捨ててしまえば、コボルト・シャーマン達の魔法を防御できなくなる。
(中々考えられた作戦だが、これなら━━)
まずは、右から迫るコボルト・ジェネラルに狙いを定めた。
左から迫るコボルト・ジェネラルには背中を晒すことになるが、攻撃方法は打撃に限られるので問題ない。
長剣と一緒に握っていたコボルト・ハンターを、右のコボルト・ジェネラルへ向かって投げつける。
意識がコボルト・ハンターに向いた隙に距離を詰め、コボルト・ハンターごと長剣を突き刺す。
素早く引き抜くと、胸のあたりを長剣で貫かれて苦しんでいるコボルト・ジェネラルの頭を斬り落とした。
(そして、次は━━)
背後へ振り返り、距離を詰めてくるコボルト・ジェネラルに対して、左手のコボルト・ハンターの死体を投げつける。
しかし先程見せた攻撃だからか、咄嗟に飛び退いて躱された。
だが、その直後には俺も駆け出しており、空いた左手を拳銃の形にして【酸弾】を射出。
「ギャンッ!」
コボルト・ジェネラルの胸のあたりに酸液の弾丸が着弾し、シュウーーと皮膚が焼ける音とともに細長い白煙が立ち昇る。
怯んだ隙にさらに距離を詰め、コボルト・ジェネラルの首元へ向かって長剣を一閃。
切断面から血飛沫が舞い、頭部が宙を舞った。
額や胸から流れる血を気にも留めず、浅い息を吐く。
(攻撃役兼壁役は全滅。残りは、コボルト・キングとコボルト・シャーマン二匹のみ!)
コボルト・キングとコボルト・シャーマン達を鋭く睨みつける。
コボルト・キングがどう動くか様子を見ていると、「グルルラァ!」と短く鳴いた。
すると、コボルト・シャーマン達が魔法陣を展開し、風の矢を放ってくる。
【魔力感知】でしっかりと視認し、余裕を持って回避を続けていると、途中でコボルト・シャーマン達が魔法を放たなくなった。
(なんだ……? もしかして、魔力切れか?)
困惑していると、突然コボルト・キングが俺から視線を逸らし、コボルト・シャーマン達へ向ける。
そして、コボルト・シャーマン達の首元を掴み、俺へ向かって投げ飛ばした。
(はっ!? 魔力切れのコボルト・シャーマンを捨て駒にしたのか!?)
だが、俺にとっては数を減らせる好機。空中でジタバタと暴れるコボルト・シャーマン達が頭上に降ってくる。
一匹目を空中で真っ二つに両断し、二匹目は地面に転がったところで頭部に長剣を突き刺し、トドメを刺す。
(……さて、あとはコボルト・キングか)
視線を前方へ向けると、そこにコボルト・キングの姿はなかった。「マズイ!」と思った瞬間、【危険察知】が真後ろから迫る危険を告げる。
俺は振り向かず、前方へ転がるように攻撃を回避すると、素早く体勢を立て直してコボルト・キングへ視線を向けた。
(なるほど。コイツは単に強いだけじゃない。同種や冒険者相手の実戦経験が段違いだ)
コボルト・キングは攻撃を回避されたにもかかわらず、余裕綽々の態度でゆっくりと歩み寄ってくる。
(舐めているのか? それとも、わざと隙だらけに見せて俺の油断を誘っているのか?)
コボルト・キングの考えが読めず、その場に立ち尽くしていると、コボルト・キングは目前で腹の底から雄叫びを上げた。
「グルルラァアアア!」
直後、身が竦むような恐怖が俺を襲い、全身が硬直して思うように動かせなくなる。
足が動かない。
いや、指先一つ、思うように動かせない。
呼吸が浅くなる。
心臓が嫌な音を立てて暴れ回る。
まるで生物としての本能が、「逃げろ!」と叫んでいるかのようだった。
(な、何が、起き、て……)
身動きの取れない俺に対して、コボルト・キングは右腕を振り上げる。
(マ、マズ、イ……)
次の瞬間、鋭い爪の攻撃が迫った。
読了後、リアクション、ブックマークなど、是非よろしくお願いします。
「面白い!」や「お疲れ様です」など一言でいいので、コメントを書いて頂けると、励みになります。




