第42話 偵察隊の沈黙
森の異変を感じ取り、集落から偵察にきたコボルト・ジェネラルのパーティーと対峙する。
(もう何度も戦った相手だ。手早く片付けて、コボルト・キングの出方を窺うか)
コボルト・ジェネラルは俺を認識すると、「グルルラァ」と短く鳴き、コボルト・ファイター、コボルト・シャーマン、コボルト・ハンターの三匹に指示を出す。
コボルト・ファイターとコボルト・ハンターは並走して距離を詰め、中央はコボルト・シャーマンの射線が通るよう空ける。
俺はこの陣形を予想できていたので、二匹が動き出した瞬間、【突進】を発動してコボルト・シャーマンへ駆け出す。
それを見たコボルト・ジェネラルが「グルルラァ」と鳴くと、コボルト・ファイターとコボルト・ハンターが俺を追いかけ始めた。
俺はコボルト・シャーマンが魔法陣を展開するより早く、左手を拳銃の形にして【酸弾】を射出する。
すると、コボルト・ジェネラルが身を挺してコボルト・シャーマンを守り、胸の辺りに酸液の弾丸を受けた。
そのまま距離を詰めていると、コボルト・ジェネラルが素早く射線を開ける。コボルト・シャーマンの目前に魔法陣が展開され、風の矢が放たれた。
俺は風の矢を十分に引きつけてから跳躍し、長剣を振り上げる。
落下の勢いを乗せて長剣を鋭く振り下ろすと、前に出てきたコボルト・ジェネラルを真っ二つに両断した。
咄嗟に両腕を交差して防御しようとしたようだが、間に合わなかった。
コボルト・ジェネラルの身体が左右に分かれて倒れると同時に、その隙間から長剣を突き出す。
長剣は、コボルト・シャーマンの胸部を貫いていた。
コボルト・シャーマンが口から大量に吐血しながら地面に倒れるのを見届けると、即座に振り向き、追いかけてきているコボルト・ファイターとコボルト・ハンターの内、コボルト・ハンターに狙いを定める。
噛みついたり引っ掻いたりするしか能のないコボルト・ハンターへ駆け出すと、コボルト・ファイターが慌てて方向転換した。
コボルト・ハンターはそれ以上距離を詰めるのを止め、コボルト・ファイターが合流するのを待つ。
瞬く間に距離を詰めた俺が長剣を振り上げると同時、コボルト・ファイターが真横から鋭く右拳を突き出してくる。
俺はその攻撃を予想できていたので、振り上げた長剣を一度止め、真横に薙ぎ払うように振るう。
コボルト・ファイターが胴から下を真っ二つに両断され、右拳を突き出したまま地面に倒れていく。
俺は遠心力を利用して身体を回転させると、そのままコボルト・ハンターも同様に斬り伏せた。
僅か数分。
コボルト・ジェネラルに率いられたパーティーは全滅した。
(コボルト・ジェネラルの対処の仕方は、ほぼ把握済み。どう動けばどんな対応をしてくるか分かっているから、もう然程脅威じゃないな)
俺はコボルト達の死体を喰らった後、先程木を斬り倒した場所に戻り、【遠視】で集落の様子を窺う。
コボルト・キングは玉座から動かず、配下に追加の指示を出すでもなく、じっとしている。
(まだ全滅したと判断しないのか。もう少し様子を見るつもりか?)
さらに数分。
ここにきてようやく、コボルト・キングが偵察隊の全滅を判断したようだ。
玉座から立ち上がり、「グルルラァ!」と鳴くと、二匹のコボルト・ジェネラルが動き出す。
それぞれコボルト・ファイター、コボルト・シャーマン、コボルト・ハンターを連れて、集落から出てきた。
(数を増やしてきたか。先に送った偵察隊の調査と、万が一強敵に遭遇しても二パーティーなら対応できると考えたのか)
中々賢い判断だと思う。
手元にはまだ二パーティー残っているし、数を増やして当たらせることで、敵の戦力も測ることができる。
(ただ残念ながら、二パーティーを同時に相手取った経験もあるから、また数が減ることになるけどな)
俺は切り株の上に腰を下ろし、追加で送られた二パーティーを待つ。すると、【気配察知】の有効範囲内に、続々と気配が現れた。
コボルト・ジェネラルに率いられたパーティーが二つ。単純に、先程の倍の数を相手にしなければならない。
流石に二パーティーが相手となると、倒すのに時間がかかるだろうし、無傷というわけにもいかなくなる。
だから、最初から全力全開。
【身体強化】を発動。
コボルト・ジェネラル達がそれぞれ「グルルラァ!」と鳴くと、コボルト・ファイター二匹とコボルト・ハンター二匹が同時に動き出す。
これだけ数が多いと、まずコボルト・シャーマンの攻撃は飛んでこない。
左右からコボルト・ファイターが迫り、さらに迂回するようにコボルト・ハンターが死角を狙う。
目前まで迫ったコボルト・ファイター二匹が同時に右拳と左拳を突き出してくる。俺は長剣を横に掲げて拳撃を受け止めると、左の個体へ【酸弾】を射出した。
「グルル……」
酸液の弾丸を受けて怯んだ隙に、右の個体が突き出していた右拳を鷲掴みにして引き寄せ、長剣を胸部へ鋭く突き出す。
素早く長剣を引き抜くと、【危険察知】が背後からの危険を知らせてくる。振り返らず跳躍し、コボルト・ハンター達の後ろを取った。
着地と同時に駆け出し、左の個体に狙いを定める。鋭い牙で噛みつこうとしてきたので、左手で首元を鷲掴む。
同時に、右から噛みつこうとしてきた個体には長剣を横薙ぎに振るい、頭を斬り落とした。
ミシミシ、バキ!
鷲掴んでいた首の骨を折り、二匹のコボルト・ハンターは沈黙した。
直後、酸液の弾丸を受けたコボルト・ファイターが捨て身の特攻をしてきて、大振りな拳撃や蹴撃を放つ。
それらを躱しつつ隙を窺い、体勢を崩したところを狙って長剣で真っ二つに両断した。
これで、残るは後衛と指揮官のみ。
数は半分に減ったが、コボルト・ジェネラルは壁役もこなせるため、脅威度は依然高い。
暫し睨み合った後、先に動き出したのは俺だった。
全力で駆け出すと、コボルト・シャーマン二匹が即座に魔法陣を展開し、風の矢を放ってくる。
左右から迫る風の矢を咄嗟に屈んで躱し、再び駆け出す。コボルト・ジェネラル二匹が前に出て腰を落とし、拳を構えた。
俺は目前まで迫ると、右の個体に狙いを定め、長剣を投擲した。
不意を突かれたコボルト・ジェネラルの胸部に長剣が深々と突き刺さり、事切れた。
左の個体は俺が無手になったことで不敵な笑みを浮かべ、得意の近接戦闘で応戦してくる。
しかし残念ながら、能力値もスキルレベルも俺の方が上。
猛攻を仕掛けてきたものの、掌や腕で防御され、一向にダメージを与えることができなかった。
俺はコボルト・ジェネラルに経験も技術も劣るが、拳撃や蹴撃の速度は余裕で捉えられるし、威力も低いため、ゴリ押しで押し通すことができた。
「ブモッ!」
「グルッ……!」
「ブモッ!」
「グルッ……!」
「ブモォオオオ!」
「グルル……」
左脇腹、腰元、そして下がってきた頭を蹴り飛ばされ、コボルト・ジェネラルは行動不能になった。
直後、左右から再び風の矢が飛来する。
前方へ転がるようにして躱すと、コボルト・ジェネラルの死体から長剣を引き抜き、コボルト・シャーマン達へ狙いを定める。
コボルト・シャーマン達は接近されればほとんど何もできないため、魔法さえ対処できれば一番倒しやすい。
放たれる風の弾丸や風の矢を、身体を捻ったり跳躍したりして回避しながら目前まで接近し、長剣で真っ二つに両断した。
(残りは、瀕死のコボルト・ジェネラルのみ)
「グルル……」と低く唸りながら、こちらを睨みつけるコボルト・ジェネラル。
その闘志は賞賛に値するが、相手が悪かった。
喉元に長剣を突き刺し、とどめを刺した。
(ふぅ……これだけの数を相手にしても余裕を持って戦えるが、体力の消耗は避けられないな。だけど、確実に成長を実感できる)
自身の成長に喜びを感じながら、コボルト達の死体を集めていく。積み上げられた死体の山に手を伸ばし、貪るように喰らう。
コボルト達の肉は、既に食べ慣れた味だった。最初の頃は少し感じていた高揚感も、今はほとんどなくなっていた。
『【風魔法】Lv.6にUPしました』
『【隠密】Lv.6にUPしました』
(さて、コボルト・キングはどう動くだろうか)
コボルト達の死体を全て喰らうと、再び木を斬り倒した場所に戻り、コボルト・キングの様子を窺う。
偵察隊が三パーティーも戻ってこないとなれば、敵は偵察隊を倒せる戦力を持っており、これ以上偵察隊を送る意味がないと分かるはずだ。
コボルト・キングも同感なのか、配下達に指示を出す気配がない。
(このままじっと待つ気か? 集落内で迎撃するつもりか?)
暫く様子を見ても動きに変化はなく、これ以上待っていても仕方がないと判断した。
俺は息を殺しながら、集落を迂回するように移動し始める。戦場は相手のホームで、数的有利もある。
何も正直に、真正面から相手をする必要はない。
俺は木の陰から陰へと移動し、集落の後方へと向かった。集落を囲う木の柵を乗り越え、中へ侵入する。
小屋の陰から様子を窺いながら進むと、コボルト・キングとの距離が徐々に縮まっていく。
いつ飛び出しても斬りかかれる距離まで接近した、その時――
コボルト・キングは、ゆっくりと顔を上げた。
俺は思わず、足を止める。
次の瞬間、コボルト・キングがこちらへ振り向いた。獣のような縦長の瞳孔と、真っ直ぐ目が合う。
コボルト・キングの口元が、僅かに吊り上がった。
(……【嗅覚強化】か)
「グルルラァ!」
コボルト・キングの雄叫びが、森全体に響き渡った。
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