第41話 コボルトの王
新たな敵を求めて森の奥へと進んでいると、【気配察知】が複数の気配を捉えた。
だが、おかしい。
コボルト・ジェネラルが率いるパーティーであれば、数匹程度のはずだ。しかし【気配察知】が捉えた気配は、明らかに十匹以上ある。
これまでの戦闘でコボルト達をかなりの数狩ったつもりだが、まだ多く存在しているらしい。
(そうか。まだ居るのか……)
自然と口角が上がり、俺は不敵な笑みを浮かべた。もしかしたら、レベル40に到達すれば、進化現象が発生する可能性があるのだ。
今よりも上位の存在になれるとなると、逸る気持ちが抑えられない。
しかし、油断は禁物。
この先に居る敵がコボルト・ジェネラルよりも格上であれば、俺と同格――またはそれ以上の可能性が高い。
目論見通り格上と戦えるのは嬉しいが、負けては意味がない。慎重に行動するべきだ。
俺は大きく息を吐くと、息を殺しながら木の陰に隠れつつ移動する。近づくにつれて、気配の数が増えていく。
ようやく視認できる距離まで近づくと、俺は木に肩を寄せ、顔を半分だけ覗かせた。
目の前には大きく開けた場所があり、周囲を取り囲む木の柵には、人間やコボルトと思われる頭蓋骨が飾り付けられている。
集落の中には、木材で組み上げられた粗末な小屋が建ち並ぶ。
集落の中を行き交うコボルト達を見ると、コボルト・ファイターやコボルト・ジェネラルなど、上位種しか居なかった。
(……コボルトやハイコボルトは、集落には存在しないのか)
コボルト社会がどのように成り立っているのかは分からないが、最低限、明確な役割を持つ上位種に進化しなければ、集落に入る資格はないのかもしれない。
それにしても、集落に居るコボルト達の数は少ない。総数は二十匹程度で、それぞれの上位種が五匹ずつといった感じだ。
森の中を探索していたパーティーが狩猟部隊だったのかもしれない。
俺が満足するまで狩り倒したせいか、あるいはまだ遭遇していないだけで、今も森を探索しているパーティーが居るのかもしれない。
そんなことを思いつつ、集落の最奥に居る存在へと目を向けた。
丸太を組み上げて作られた玉座のようなものに座り、行き交うコボルト達を見下ろす一匹の魔物。
座っているため正確な身長は分からないが、コボルト・ジェネラルよりも大きく、およそ三メートル近くあると思われる。
筋骨隆々の身体を覆う灰色の体毛。左頬には、刃が掠めたような古傷があった。
ただ座っているだけなのに、背筋がゾワゾワする。
本能が危険を告げていた。
単純な強さだけではない。
あれは、数多の戦いを生き抜いた捕食者の気配だった。
俺は生唾をゴクッと飲み込みながら、正体を明らかにするため【看破】を発動した。
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(簡略ステータス)
・コボルト・キング Lv.45
・平均能力値 145
・所持スキル 【格闘術】【統率】【威圧】【嗅覚強化】【咬合力強化】【逃走】
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(キング……ついに、コボルト種の王が相手か)
戦力差を分析すると、コボルト・キングの方がレベルは高い。しかし平均能力値は俺が『190』なので、その点では上回っている。
(能力値は俺の方が高い。だが、それでも嫌な感じが拭えない。何が引っ掛かる……?)
スキル構成は、ほぼコボルト・ジェネラルと同じだ。ただし注意が必要なのは【威圧】というスキル。
効果の詳細は不明だが、字面からして行動阻害系だと思われる。
【威圧】は未知数なので一旦置いておくとして、単純な個体戦力は俺の方が強い。少なくとも一対一なら、そう簡単には負けない。
だが面倒なのは、コボルト・キングの指揮下で動く上位種達だ。統率されたパーティーの脅威は身を持って知っているため、同時に相手するのは避けたい。
(そしたら、どうするかなぁ……)
できれば徐々に数を減らしていき、最後にコボルト・キングと一対一で戦いたい。となると、まずあの上位種達を集落から引き摺り出す必要がある。
(どうやって誘き出すか……)
近くで大きな音を立てれば、原因を探るため上位種達が偵察に出てくるかもしれない。
(あれこれ考えるより、一度試して結果を確認してみるか)
そう考えた俺は集落から目を離さず、じりじりと後退していく。
【気配察知】の有効範囲外に出ても、【遠視】で集落の様子ははっきり見えるため問題ない。
百メートルほど離れたところで立ち止まり、近くの木に向かって長剣を横薙ぎに振るう。
ミシミシ、バキバキバキーーと音を立てながら、木が地面へと倒れていく。そして、腹の底から叫んだ。
「ブモォオオオオオ!」
暗く静かな森に、俺の雄叫びが響き渡る。
(これだけ大きな音を立てれば、奴らも異変に気づくはずだ)
コボルト種とは明らかに異なる雄叫びが響いたのだ。連携して戦う知能があれば、間違いなく原因を探りに来るはず。
俺はその場でじっと待つ。【遠視】で集落の様子を注視しながら。
すると、コボルト・キングが玉座から立ち上がり、「グルルラァ」と短く鳴いた。
指示を受けた一匹のコボルト・ジェネラルが即座に動き、コボルト・ファイター、コボルト・シャーマン、コボルト・ハンターの三匹を率いて集落を出てくる。
ただし、一パーティーのみ。
(偵察に来てくれたのは良かったが、一パーティーのみか……まぁいい。これを繰り返して、コボルト・キングがどう動くか確認するとしよう)
俺は意識を切り替え、【気配察知】の有効範囲内に入ってきたコボルト・ジェネラルのパーティーへと意識を向けた。
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