第36話 【看破】が暴く三匹の戦術
"上位種は一匹"というこれまでの常識が覆るような事態が起きているが、とりあえず今は戦闘に集中する。
三匹は俺と目が合った後、「グルルラァ!」と雄叫びを上げながら、同時に突撃してきた。
俺はまず【突進】を発動して距離を詰めると、真ん中の個体に向かって鋭く長剣を振り下ろし、真っ二つに両断する。
次に、右側から噛みつこうと迫る奴に対して、長剣を目前に翳し、安易に近づけないようにする。
右側の奴が長剣に噛みつきながら押し込んでくるのを抑えつつ、左側から迫る奴の首元を左手で鷲掴みにする。
そして【絞殺】を発動しながら手に力を込め、首の骨をへし折ってやった。
最後に、長剣を両手で握り直し、ガチガチと噛みついてくる口ごと、頭部を真っ二つに両断してやった。
上位種といえど、能力値の差は歴然。三匹同時に相手しても、全く問題はなかった。
(それにしても、これは一体どういうことなんだ? なぜ上位種が、三匹も同時に存在しているんだ?)
これまでの経験からすると、狩場にいる下位種をおよそ70〜100匹ほど討伐すると、上位種が姿を現す流れだった。
なのに今回は、下位種を大量に討伐しても上位種が現れないと思っていたら、森の奥に上位種が複数存在していた。
明らかな異常事態だ。
(この狩場の特性なのか? それとも、別の何かが作用しているのか?)
色々な疑問が浮かぶが、今はそれどころではないようだ。【気配察知】の有効範囲内に、次々と新たな気配が迫ってくる。
暗闇に覆われた森の奥から「グルル……」と低い唸り声が響き、パキッポキッと枝を踏み締める音とともに、ハイコボルト達が姿を現した。
(明らかに十匹以上はいる。本当にどうなっているんだ、この狩場は……)
それに、まだ森の奥から次々と気配が近づいている。最終的には数十匹規模になりそうだ。
これまでの常識が通用しないことに正直戸惑うが、奴らが落ち着くまで待ってくれるはずもない。
(考えるのは、全てが終わってからだな)
気持ちを切り替えた俺は長剣の切先を奴らに向け、大きく雄叫びを上げた。
「ブモォオオオオオ!」
奴らを威圧するように雄叫びを上げた直後、俺は勢いよく駆け出す。
瞬く間に距離を詰めると、流れるように目の前の三匹を斬り伏せた。
しかし、勢いはそこまで。
あっという間に取り囲まれ、全方位から押し寄せてきた奴らに、全身を噛みつかれてしまった。
大群が首元や両腕、脇腹などに鋭い犬歯を突き立ててくる。
だが、能力値の差と【物理攻撃耐性】のおかげか、奴らの犬歯は皮膚の表面に刺さるだけで、奥深くまでは届かなかった。
ダメージこそないが、全身にチクッとした痛みが走るのは非常に煩わしい。
剣の柄頭で頭部を殴ったり、【毒牙】を発動しながら噛みついたりと、応戦を続けた。
左右から回り込み、死角へ潜り込むように噛みついてくる個体もいたが、俺の防御力を突破することはなかった。
徐々に行動不能に陥る個体が増えていき、動きやすくなってきたところで、長剣を振るって数を減らしていく。
「ガルルラァ━━……」
「ギャンッ……」
しかし倒しても倒しても、次々と上位種が俺に群がってくる。
残り四、五匹ほどになった時、奴らは窮地を悟り、一目散にバラバラと逃げ始めた。
追って仕留めることも考えたが、足元に転がる死体の数を見て、追うのは止めた。
上位種数十匹を相手に、俺はほぼ無傷の勝利。全身に噛み跡は残っているが、流血は一切ない。
まだまだ体力は残っているが、その影響なのか、【暴食】の衝動が湧き上がってきた。
「ぐぅううううう」と鳴る腹の虫を収めるため、その場で屈んで死体を拾い上げ、喰らう。
『【嗅覚強化】Lv.6にUPしました』
『【咬合力強化】Lv.6にUPしました』
『【逃走】Lv.6にUPしました』
全てを腹に収めると、本当に少しだけ渇きが満たされた。血で真っ赤に染まった口元を手で拭い、前方へ視線を向ける。
ハイコボルトも相当数倒したが、新たに上位種が現れる気配はない。
これでもう終わりのような気もするが、なぜだか無性に森の奥が気になった。
(この狩場は今までとは違うみたいだし、森の奥へ進んだら上位種がいた。もしかしたら、さらに奥へ進むと……)
そう考えると、自然に一歩踏み出していた。期待と不安を抱えながら、どんどん森の奥へ進んでいく。
すると、新たな気配を捉えた。
【遠視】と【夜目】で確認すると、身体的特徴はハイコボルトと同じだが、明らかに体つきの異なる個体が三匹いる。
一匹目は、身長が170〜180センチほどあり、細身ではあるが、鍛え抜かれて引き締まった身体をしている。
二匹目は、猫背で痩せこけた身体だ。
三匹目は、一匹目とほぼ同じ体格。
俺は近くの木の陰に身を潜め、奴らの正体を暴くため【看破】を発動した。
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(簡略ステータス)
・コボルト・ファイター Lv.25
・平均能力値 61
・所持スキル 【体術】【嗅覚強化】【咬合力強化】【逃走】
・コボルト・シャーマン Lv.29
・平均能力値 76
・所持スキル 【風魔法】【嗅覚強化】【咬合力強化】【逃走】【魔力操作】
・コボルト・ハンター Lv.27
・平均能力値 69
・所持スキル 【嗅覚強化】【咬合力強化】【逃走】【気配隠蔽】【魔力隠蔽】【隠密】
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(……驚いた。この世界の冒険者がどうかは知らないが、少なくとも目の前の上位種達は、それぞれ明確な役割に特化したスキル構成をしている)
しかも、前衛・中衛・後衛とバランスがいい。
コボルト・ファイターが攻撃役兼壁役として前に出て、コボルト・シャーマンを守る。
その隙に、コボルト・シャーマンは遠距離から攻撃を仕掛ける。
その二匹に集中しすぎると、コボルト・ハンターの奇襲を受け、着実にダメージを蓄積させられる構造だ。
レベルや能力値は低いが、パーティーとして連携してくることを考えれば、実際の強さは数値以上と見ていいだろう。
特に厄介そうなのは、コボルト・ハンターだ。
俺自身が使用しているからこそ分かるが、【気配隠蔽】と【魔力隠蔽】は不意打ちとの相性が抜群だ。
奇襲されれば、かなり面倒な相手になるだろう。
ただ幸いなのは、全個体が武器を所持していないことだ。どれだけ連携に優れていても、攻撃手段は牙や爪に限られる。
厄介な相手ではあるが、能力値の差は覆しようがない。問題は勝てるかどうかではなく、どう仕留めるかだ。
(状況も把握できたし、そろそろ攻撃を仕掛けよう)
三匹は一緒に行動しているため、なかなか隙が見当たらない。
(ここは不意をついて、強襲するしかないな)
俺は木の陰から陰へ移動しながら徐々に距離を詰め、【突進】の有効範囲に入った瞬間、全速力で駆け出した。
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