第27話 死線を超えた種族進化
同時に地面を蹴った俺達は、目前まで迫ると棍棒と長剣を振り下ろす。一瞬拮抗した後、棍棒を真っ二つに両断した。
上位種が持つ武器とはいえ、耐久力はオークが所持していた棍棒と変わらないようだ。
振り抜いた長剣の刃を返し、左から右へ薙ぎ払うように振ろうとした瞬間、奴は折れた棍棒の柄を力任せに振り抜き、右脇腹に物凄い衝撃が走る。
「ブモッ……」
俺は勢いよく吹き飛ばされ、一本目の木をへし折っても勢いは止まらず、二本目の木に衝突して、ようやく止まる。
木の幹に背中を預けるようにして倒れ込んだ俺は、ズキズキと痛む右脇腹を押さえながら、よろめきながら立ち上がった。
(ぐっ……痛ぇ。【物理攻撃耐性】で軽減されてなお、このダメージか。オークとは比べ物にならないな)
スゥーーハァーー。
一度大きく深呼吸をして、呼吸を整える。息を吸い込んだ時にもズキッと痛みが走るが、今は悠然と近づいてくる奴に集中だ。
まずは奴の強さを詳らかにするため、【看破】を発動する。
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(簡略ステータス)
・ハイオーク Lv.35
・平均能力値 98
・所持スキル 【棍棒術】【突進】【嗅覚強化】【物理攻撃耐性】【精力絶倫】
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今の俺の平均能力値は、スキル補正込みで『100』だから、戦力差はほぼない。
(奴の攻撃をまともに受けるのは危険だ。回避に専念しつつ、細かくダメージを与えていくしかない)
目前まで迫った奴は、棍棒を高々と振り上げ、薙ぎ払うように振るう。風切り音とともに、左から棍棒が迫る。
俺は大きく跳躍して棍棒を回避すると、長剣を振り上げる。
(ぐっ……)
長剣を振り上げた際に右脇腹へズキッと痛みが走るが、歯を食いしばり、奴の脳天目掛けて長剣を振り下ろす。
ザシュッ!
奴の頭を斬り裂き、血がブシュッと噴き出す。しかし、オークのように両断することはできなかった。
「ブモォオオオオオ!」
斬られた痛みで、山林中に響き渡る悲鳴を上げる。頭を押さえながら蹈鞴を踏む奴に対して、俺は即座に距離を詰める。
狙いは右腕。棍棒の持ち手を狙い、攻撃手段をなくす。
「ブモォオオオ!」
長剣を素早く振るい、右腕を斬りつける。しかし明らかに強い抵抗を感じ、両断するには至らない。
「ブモォオオオオオ!」
右腕に激痛が走り、また大きな悲鳴を上げるハイオーク。だが今度は怯む様子を見せず、黄色く濁った瞳に激しい怒りを宿す。
右腕の傷などお構いなしに、棍棒を狂ったように振り回す。
棍棒の振り下ろしで、葉に覆われた土の地面が深く抉れる。横薙ぎで局地的に突風が吹き荒れ、枝葉が地面に落ちる。
棍棒が頬を掠めるたびに風圧で皮膚が裂け、回避が一瞬でも遅れれば即死だと、本能が警鐘を鳴らす。
俺は反撃せず、怒涛の猛攻を回避し続ける。
今攻撃したとしても、奴はダメージを無視して反撃してくる。下手すれば、こちらが行動不能になりかねない。
奴の体力が底をつくのを待ち、確実に仕留められる機会を伺うことが、俺の勝ち筋だ。
(クソッ。コイツ……どんだけ体力あるんだよ!)
未だ、奴の猛攻は止まらない。これだけ激しく棍棒を振っているのに、勢いが衰える様子が見られない。
「ブモォオオオオオ!」
奴は一際大きく雄叫びを上げると、棍棒を鋭く重く振り下ろす。俺は咄嗟に飛び退いて躱す。
ドゴォーン!
先程までいた場所の地面が陥没し、大量の葉が舞い上がる。奴はその中から、肩を突き出すように突進してくる。
(マズイ!)
急激な速度変化に対応できず、巨岩が激突したような衝撃に襲われた。
「ブモッ……」
吹き飛ばされた俺は、何度も地面を転がり、仰向けでようやく止まる。
(ハァ、ハァ、ゴハッ。ゲホッ、ゲホッ……痛ぇ。今のは、まともに入ったな……)
胴体が激しく痛み、咳き込むと同時に血の塊を吐き出した。奴の突進で、内臓が損傷した可能性がある。
正面と横から攻撃を受けたせいで、右脇腹の痛みが増す。息も荒くなり、目もチカチカする。
ドスンドスンッと重い足音が、どんどん近づいてくる。
早く立たなければ。
このままでは奴に殴り殺され、身体を貪られる。
(……それだけは、絶対に嫌だ! まだ死にたくない! まだヤレる!)
いつの間にか足音が止み、側に奴が佇んでいた。
先程まで怒り狂っていたのに、俺が瀕死と分かると、月明かりに照らされた奴は、獲物の死を確信したように、下卑た笑みを浮かべていた。
棍棒を両手で握り直した奴は、棍棒を大きく振りかぶる。
棍棒が目前に迫る寸前、俺は【身体強化】を発動し、長剣を両手で支えるように掲げる。
ガンッ!
棍棒と長剣が衝突し、衝撃と鈍い音が響き渡る。
俺は長剣で棍棒をしっかりと受け止め、刃を傾けて棍棒を逸らすと、素早く立ち上がる。
(痛ッ! 右脇腹が……堪えろ! 今は、奴を倒すことだけに集中しろ!)
唇をギュッと噛み、気合を入れ直す。奴も身体をこちらに向け、再び瞳に怒りを宿す。
そして━━睨み合った状態が続き、戦場に沈黙が落ちる。
次の瞬間、示し合わせたわけでもないのに、同時に駆け出して棍棒と長剣をぶつけ合う。
棍棒はあっさりと両断されるが、奴は左拳を鋭く突き出す。俺は素早く身を翻し、長剣で左拳を両断した。
「ブモォオオオオオ!」
奴は悲鳴を上げながら後退する。
しかし次の瞬間、棍棒を手放し、今度は右拳を突き出す。俺は半歩踏み込み、右拳を斬り裂く。
俺はその勢いのまま大きく跳躍した。
両断された拳から血をダラダラと垂れ流し、激痛で顔を上げたハイオークと視線が交差する。
「ブモォオオオオオ!」
今度は俺が気迫の籠った雄叫びを上げ、鋭く長剣を振り下ろす。
ザシュッ!
僅かな抵抗は感じたが、それでも胸の辺りまで両断に成功。夥しい量の血が噴き出すと同時に、奴は膝を折り、地面に倒れる。
『Lv.28にUPしました』
『Lv.29にUPしました』
レベルアップを知らせる声が鳴り響く。
『Lv.30にUPしました』
『進化条件を満たしました』
『個体名:オークから、個体名:ハイオークへ進化します』
(ん? 進化?)
聞き慣れない知らせに一瞬戸惑ったが、すぐに身体に変化が起き始める。
身体が急激に熱くなり、全身から汗が噴き出る。それとともに、ギシギシと骨が軋む音が鳴り響く。
(ぐっ……ぁ……身体が、痛ッ! なんだ、この感覚は……)
まるで身体を作り変えられているような感覚に襲われ、気が遠くなるほどの痛みが全身を駆け巡る。
『進化が終了しました』
『Lv.31にUPしました』
『Lv.32にUPしました』
(ハァ、ハァ、ようやく進化が終わったか……って、まだレベルが上がるのか)
『Lv.33にUPしました』
『Lv.34にUPしました』
声が鳴り止んだ瞬間、全身から力が抜け、俺は地面に膝をつく。
攻撃を受けた時とは違う不快な痛みが全身を襲ったので、立つのもやっとだったのだ。
(……でも、奴から受けたダメージが蓄積していた身体が、今じゃ完全に回復した。すこぶる調子が良い)
その場で軽く跳ねてみると、先程までの疲労が嘘のように身体が軽い。
(もしかして……)
そう思ってステータスウィンドウを表示し、能力値を確認してみるが、少なくとも、能力値が劇的に跳ね上がった感覚はない。
身体が軽くなったのは、順当にレベルアップして疲労が回復しただけのようだ。種族進化の恩恵は、別の部分にあるのかもしれない。
疲労も回復し、体調も万全になったところで、これまで大人しくしていた【暴食】が産声を上げる。
自身の成長に喜ぶ暇もなく、口元から涎が溢れ、息遣いが荒くなり、視線は死体に釘づけになる。
俺は気付けば、ハイオークの肉厚な腹部に齧り付き、皮膚と肉を一緒に食いちぎっていた。
グチャグチャと不快な音が、静かな山中に響き渡る。
オークを何十匹と喰っても満たされなかった空腹感が、ハイオークを喰らったことで、ようやく僅かに薄れていく。
死体を食べ終えた頃には、東の空が白み始めていた。
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