第25話 オークVSオーク
目の前の獲物を喰らうために全速力で駆け出した俺は、涎を撒き散らしながら接近すると、目の前で跳躍。
飛びかかってきた敵に対してオークは、木の幹ほど太い棍棒を振り上げ、横薙ぎに振るう。
「ブモッ……」
棍棒が俺の左脇腹を強打し、俺は勢いよく吹き飛ばされる。理性が本能に呑み込まれていたため、回避を考える余裕がなかった。
近くの木に身体を強く打ちつけると、衝撃で木が折れ、頭上から降ってくる。
バキ、バキバキ……ドゴォーンッ!
木の折れた音が周囲に響き渡る。木の根元に倒れた俺は、運良く下敷きにはならなかった。
「ブモォオオオオオ!」
俺は雄叫びを上げ、腕を振るって頭上の木をへし折ると、倒木を踏み越えながらオークへと接近する。
「ブモォオオオオオ!」
オークも同様に雄叫びを上げ、目前まで迫った俺に向かって棍棒を高々と上げ、鋭く重く振り下ろす。
ドゴッ!
脳天に強烈な衝撃が走り、俺は深く地面にめり込む。そんな隙だらけの俺に対し、オークは全身の体重を乗せ、何度も何度も踏みつけてくる。
背中を踏みつけられるたびに、地面へ深く深く身体が沈んでいく。
(ぐっ……ガッ……重、い……)
衝撃と重さと痛みで、本能に呑み込まれていた理性が少しずつ戻ってきた。「このままでは死ぬ」と、本能も理性も警鐘を鳴らす。
(早く……体勢を……)
何度も圧しかかる衝撃と痛みを【物理攻撃耐性】で耐え、タイミングを見計らう。
オークが足を上げた瞬間、うつ伏せから仰向けに転じ、目前に迫る足を受け止める。
足の裏を掴みながら押し返し、オークが体勢を崩したタイミングで地面の溝から脱出する。
(ハァ……ハァ……危なかった)
頭と背中がズキズキと痛むが、なんとか堪えて、仰向けに倒れているオークに目を向ける。
(……今の内だな)
【夜目】で素早く周囲に視線を走らせ、投げ捨てた長剣を探す。
(……あった!)
素早く駆け寄り、長剣を手に取る。
本能に呑み込まれた際に一度手放してしまったが、〝人間を喰らったという罪業〟を忘れないために、長剣を持ち去ると決めたんだ。
理性がある限りは、絶対に手放してはならない。俺は握り直した長剣から視線を前方へ向ける。
鈍重な動きで体勢を立て直したオークが、肩に棍棒を担ぎながら余裕ある表情で俺を見つめていた。
先程まで一方的に甚振る立場にいたせいか、俺が必死に抵抗を見せたことが滑稽だったのか、奴は舐め腐った笑みを浮かべる。
(おかげで理性を取り戻せた。ここから反撃する!)
しばらくお互いに視線を交わした後、先に動き出したのは俺だった。素早く駆け出しながら、左手を拳銃の形にして【酸弾】を射出する。
酸液の弾丸が奴に向かって飛来するが、棍棒で防御される。棍棒の表面が溶け、白煙が立ち昇る。
その間に距離を詰めた俺は、脆くなった棍棒目掛けて長剣を振るう。ザシュッという音とともに、棍棒が真っ二つになる。
「ブモッ!」
奴が思わず驚きの声を上げる。その隙をついて、棍棒を握る右手首を狙う。鋭く長剣を振り下ろすが、確かな抵抗とともに刃が手首の中ほどで止まる。
「ブモォオオオ……ブモ!」
右手首を斬られた痛みで悲鳴じみた雄叫びを上げるが、すぐに戦意を滾らせ、左拳を振るってくる。
咄嗟に手首から長剣を引き抜き、飛び退いて距離を取る。奴の右手首から血がとめどなく流れ、地面にぽつぽつと滴り落ちる。
(他の魔物が寄ってくる前に、ここで一気に仕留める!)
【身体強化】を発動し、再び奴に向かって疾走する。右手首の傷が響くのか、奴は棍棒ではなく左拳を振り上げてくる。
「ブモォオオオ!」
鋭く振り抜かれた左拳は、巨大な壁のような重圧を感じさせる。その拳に向かって、強化された身体能力で長剣を鋭く振るう。
ザシュッ!
奴の左拳が、手首まで真っ二つに斬り裂かれる。夥しい量の血がどっと流れ落ちる。
「ブモォオオオオオ……!」
奴は棍棒を手放し、斬り裂かれた左手を押さえながら一歩、二歩と後ずさる。怯んだ隙をついてさらに懐に潜り込み、長剣を振るう。
奴の右肩から左腰にかけて深い斬痕が刻まれ、傷跡から血が噴き出す。追撃を受けて体勢を崩した奴は、背中から地面に倒れる。
俺は奴の胸の上に馬乗りになり、長剣を垂直に振り上げる。頭部へ真っ直ぐ突き刺そうとした瞬間、奴が最後の抵抗を見せる。
怪我など気にせず、両手で俺の脇腹を殴打しまくる。
(ぐっ……ここで負けて……たまるか!)
両脇の痛みを堪え、「ブモォオオオオオ!」と雄叫びを上げながら、勢いよく頭部に長剣を突き刺す。
奴はピクピクと痙攣した後、静かに息絶えた。
『Lv.20にUPしました』
『Lv.21にUPしました』
レベルアップを知らせる声が鳴り響く。
『Lv.22にUPしました』
『Lv.23にUPしました』
まだ、声は鳴り止まない。
『Lv.24にUPしました』
レベルが一気に五つも上昇した。
(ふぅ……勝った。でも、最初の頃より苦戦しなかったな。成長しているのもあるけど、やはり武器があると戦いが安定する)
俺と奴の能力値に、それほど差はなかった。勝てた最大の要因は間違いなく、武器の有無だった。
奴も棍棒は持っていたが、鉄製の武器とは耐久力で劣る上、酸液で脆くなっていたから、あれだけ簡単に斬ることができた。
なんだかあの男の遺品に助けられた気分になるが……それはまぁ、絶対に俺の勘違いだ。
恨まれはすれ、俺を守るなんてあり得ない。早く死んで欲しいと願っているはずだ。
罪悪感から、握っている長剣から目を逸らし、目の前に転がる死体へ視線を向ける。
ダメージもだいぶ回復し、【暴食】の衝動で腹の虫が鳴る。口元から涎が溢れる。口を近づけ、肉厚の腹に齧り付く。
皮膚ごと肉を食いちぎり、ぎっしり詰まった脂肪と筋肉を貪り、露わになった内臓を鷲掴みにして、口元を真っ赤に染めながら咀嚼する。
グチャグチャ……グチャリ……ゴクッ。
鼻息を荒くしながら、どんどん食べ進めていく。
『【突進】Lv.2を獲得しました』
『【精力絶倫】Lv.2にUPしました』
肉片一つ残らず食べ切ると、スキル獲得を知らせる声が鳴り響く。
可食部分が多かったため、食べ終わった瞬間は満足感に包まれた。しかし、すぐに渇きと食欲が湧き上がってくる。
人間を喰らったせいなのか分からないが、圧倒的な量を食べたにもかかわらず、あまり充足感を得られなかった。
(もっと量を喰わないと駄目か……?)
そう思っていると、【気配察知】が新たな気配を捉えた。しかも、一匹じゃない。
木々の間からノシッノシッとオーク達が姿を現す。戦闘音と血の匂いに釣られて集まってきたようだ。
(……ちょうどいい。まだまだ食い足りなかったところだ)
俺は長剣を振るって付着した血を払い、奴らに切先を向ける。
「ブモォオオオオオ!」
長剣を構え、奴らに向かって突撃した。
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