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いずれ全能の大魔王へ至る暴食者〜喰らった相手のスキルを奪い、襲い来る敵達を返り討ちにして世界最強へ〜  作者: 無名
第1章 暴食の魔王

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第16話 休む間もなく、森は牙を剥く

 「ハァ……ハァ……」


 俺は息を切らしながら、人間たちに見つからないよう、薄暗い森の奥へと駆けていた。


 しかし体力の消耗と蓄積したダメージにより、足がおぼつかなくなり、近くの木の幹に手をついてドサッと腰を下ろした。


 改めて自分の身体を確認してみると、全身に浅い刺し傷が刻まれ、傷口から血が滴っていた。


 重傷ではないが、少なくないダメージが蓄積しているため、この場で休息を取ることにした。


 逃げてきた方向へ視線を向ければ、空高くまで伸びた木々だけが見え、村の様子をうかがうことはできなかった。


 (ということは、村からも森の様子は見えないはず。しばらく回復に専念していても、問題はないはずだ)


 しばらく人間の襲撃はないだろうと安堵した俺は、自分が抱えるもう一つの問題点について考えを巡らせる。


 (【暴食】の衝動も厄介だが、〝魔物としての本能〟もこれほど厄介だとは……つまり俺は、人間と交流することができないってことか)


 その事実に、俺はひどく落胆した。


 見た目はオークだが、中身は人間だ。だからこそ、この世界の人間と交流してみたかった。


 例えば、冒険者ギルドに登録してパーティーを組んだり、前世の記憶を活かし商売で成功したり。


 色々と異世界転生の定番を楽しんでみたかった。だがそんな夢は、今回の件で儚く散った。


 見た目は魔物でも人間の言葉が喋れて、友好的な姿勢を見せればチャンスはあったかもしれない。


 だが人間を見れば殺したくなるのでは、どう足掻いてもチャンスはない。


 俺はこれから孤独に、一生を魔物として生き続けなければならないと実感する。


 ふと、雫が一滴、太腿に落ちた。


 上を見上げて周囲を見渡しても、雨が降っている様子はない。


 「もしかして……」と思い、頬を手で拭うと、手の甲がわずかに湿っていた。


 (涙……そうか。俺は泣いているのか)


 俺は、一生を孤独に生きなければならないという不安と恐怖で、自分でも気づかないうちに涙を流していた。


 前世では恋人はいなかったが、家族や友人はいた。頻繁に会う仲ではなかったけど、それでも会えば楽しくて、思い出がひとつずつ増えていた。


 それが突然、異世界に転生したと思ったら、人間の生活を脅かす魔物。しかも自分の意思とは関係なく、殺したくなる衝動に駆られる。


 この世界で俺は、誰とも喜びや悲しみを共有できず、ただただ目的もなく生き続けなければならない。


 (なんで……なんで俺は、魔物に転生したんだ……)


 悲しみと絶望に暮れ、膝を抱えて泣いていると、「グルルル……」という獣のような唸り声が聞こえた。


 そして【気配察知】が、俺が何かに囲まれていることを知らせる。


 俺は慌てて涙を拭って立ち上がり、周囲を見渡した。すると、薄暗い中で赤く光る瞳が周囲を取り囲んでいた。


 (……魔物か!?)


 即座に【看破】を発動し、俺を取り囲む何かの正体を探る。


━━━━━━━━━━

(簡略ステータス)

・ブラックウルフ Lv.10

・平均能力値 24

・所持スキル 【嗅覚強化】【咬合力強化】【追走】【夜目】

━━━━━━━━━━


 俺を取り囲む連中は、狼系の魔物のようだ。ホーン・ラビットよりは格上だが、個体の戦力は俺より低い。


 ただ数が多いので、形勢は俺の方が不利だ。


 (クソッ、落ち込む暇もないのか!)


 【嗅覚強化】で俺の血の匂いに釣られた厄介な連中に向けて、怒りを露わにしながら拳を構える。


 (今ここで逃げても、奴らと駆けっこする体力なんてない。迎撃するしかない)


 俺が戦闘体勢に入ったことで、奴らは低く唸りながら徐々に距離を詰めてくる。


 残り数メートルというところで、左右から二匹が同時に襲いかかってきた。


 (同時に二匹は無理だ! まずは一匹ずつ対応しないと!)


 同じ速さ、同じタイミングで迫る二匹の噛みつき攻撃を前方に転がって回避。即座に振り向いて片方に狙いを定め、【酸弾】を射出する。


 「グルルァァッ━━ギャンッ!」


 【酸弾】は見事に顔面へ命中し、酸液の弾丸を受けた個体は左右に頭を振りながらその場で飛び跳ねる。


 (これで一匹は無力化━━ッ!)


 【危険察知】が背後から迫る危険を知らせる。振り向くと、目前に鋭い牙が生え揃った口が迫っていた。


 咄嗟に顔を逸らしたが、左肩に噛みつかれる。


 (ぐっ……痛い、痛い、痛い!)


 またしても背後から危険が迫り、振り返ると同時に、【酸弾】を受けなかったもう一匹が俺の右足に噛みついた。


 鋭い牙で皮膚を食い破られ、徐々に奥へと突き進んでくる。そのたびに流れる血の量が増し、地面にポツリポツリと落ちた。


 俺はなんとか痛みを堪えながら、まず左肩に噛みついた個体の胴体を思いきり殴る。鈍い音とともに骨が折れた感触が、拳越しに伝わってきた。


 それでもなお牙を食い込ませ、離そうとしない。今度は頭部の近くを殴打すると、力なく足元に崩れ落ちた。


 次は右足に噛みついている個体に狙いを定め、左拳を振り上げた瞬間、左から迫っていた個体が飛びかかってきて左腕に噛みつく。


 (痛ッ! 鬱陶しい!)


 左腕をブンブンと振るが、牙が食い込んでいて振り解けない。先ほどと同じように右拳で胴体、それから首元を狙って殴打し、無力化する。


 そして未だに右足に噛みついている個体の首元を両手で掴んで持ち上げ、首を絞めるように力を込めていく。


 ボキッ!


 骨が砕ける音がしたので掴んでいた手を離すと、地面に力なく転がった。


 改めて周囲を見渡すと、残り一匹。赤い瞳でこちらの様子をうかがっている。


 俺が一歩踏み出すと、ゆっくりと後退していき、薄暗い森の中へと姿を消した。


 そのまましばらく待っていても次の襲撃はなかったので、俺はその場にドサッと座り込む。


 噛まれた左肩や左腕をそっと撫でると、ズキンッと痛みが走る。


 (連戦でまた傷が増えた……治るのに時間がかかりそうだ)


 傷が増えて血を流したせいか、エネルギーを必要としているのか、体力はないのに【暴食】の衝動が沸々と湧き上がる。


 「ぐぅぅぅぅぅぅ」と腹の虫が鳴くので、血を補給するためにも、奴らの立派な牙をへし折り、毛皮を裂いてから、肉や骨を貪り始めた。


 肉を噛みちぎった瞬間、空腹感がさらに膨れ上がる。満腹とは無縁のまま、本能がさらなる血肉を求めていた。


 『【嗅覚強化】Lv.2にUPしました』


 『【咬合力強化】Lv.2を獲得しました』


 『【追走】Lv.2を獲得しました』


 『【夜目】Lv.2を獲得しました』


 スキルを獲得した瞬間、薄暗さで輪郭がぼやけていた視界が、先ほどよりもはっきりと見えるようになった。


 一匹目を食べ終えると、二匹目、三匹目と喰らっていく。


 『【嗅覚強化】Lv.3にUPしました』


 『【咬合力強化】Lv.3にUPしました』


 『【追走】Lv.3にUPしました』


 『【夜目】Lv.3にUPしました』


 ホーン・ラビットよりも美味しく感じるが、体力の消耗が激しいためか、まだ喰い足りない。


 先ほど逃した個体を狩りに行こうかと考えるが、疲労で身体がついてこない。


 (とりあえずここで待っていれば、また奴らが襲ってくるだろう。その間に少しでも身体を休めて、次に備えよう)


 俺は再び木の幹に背中を預けながら、腰を下ろした。


 俺とブラックウルフの死体から漂う血の匂いが、静かな森へと広がっていく。


 その直後━━。


 森の奥からいくつもの遠吠えが響いた。

 そして【気配察知】が、新たな気配を捉える。


 (……もう来たのかよ。少しは休ませてくれよ)

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