第14話 未知の脅威と村人の意地
エイミーが応援を呼んでくる間、魔物を迎撃するため、村の入口前に陣取ったアランとバート。
彼らの視線は、少し離れたところでエイミーの魔法――魔力縄で拘束され、激しく暴れている未知の魔物に釘付けになっている。
ここへ来るまでに何度か戦って、奴の方が自分達よりも強いことは、嫌というほど分かっている。
だからこそ、心の内の不安が大きくなる。
村にいる他の冒険者の力も借りれば、討伐もしくは撃退できるだろうとは考えていた。
しかし、ここで自分達が踏ん張らなければ、村に住む戦えない人達まで危険に晒すことになる。
責任の重さが、二人に圧しかかる。長剣を握るアランの手は震え、円盾を構えるバートの息は荒くなる。
「アラン……俺達で止められるかな?」
「バート、弱気になるな。もうすぐ応援が来る。それまで耐えるだけだ。失敗することは考えるな。絶対に止めるぞ!」
「おう!」
アランも同じ不安を抱いていたが、パーティーのリーダーとして弱気な姿勢は一切見せず、バートの背中を叩く。
程良く弛緩した空気が流れ始めたと思ったら、「ブモォオオオオオ」と雄叫びが響き渡り、一気に緊張感が高まる。
そして、魔力縄を力づくで振り解いた奴が、こちらへ向かって走り出す。
「バート、盾を構えろ!」
「おう!」
バートが前面に出て、後ろ足を引いて腰を落とし、円盾に肩を寄せながら、奴を待ち構える。
「バート、一瞬だけでいい! 持ち堪えてくれ!」
「任せろ!」
アランとバートはゴクッと唾を飲み込み、全神経を奴の動きに集中させる。
奴はあっという間に目前まで迫り、バートの構える円盾に吸い込まれるように突撃する。
「バート! 耐えろぉおおおおお!」
アランは叫びながら、バートの後ろから奴の側面に回り込み、長剣を振り上げる。
「も、もう、無理だ!」
「あとは任せろ!」
バートが押し込まれそうになった瞬間、アランは【身体強化】を発動して、奴の脳天へ長剣を振り下ろす。
ザシュッ!
狙い通り脳天に長剣は直撃したが、またしても浅い斬痕を刻むだけ。致命傷を負わせるには、アランの力は足りなかった。
だが、奴の意識をバートから逸らすことはできた。奴は黄色く濁った瞳をこちらへ向け、口元から涎と血を垂らしながら、掴みかかろうと迫ってくる。
アランは長剣を構えたまま、内心では「もう無理か……」と諦めていた。せめて、死ぬのが仲間ではなく自分であることに、かすかな安堵を覚えていた。
奴が目前まで迫り、死の予感と悪臭に顔を歪ませていると、突然横から何かが飛来し、奴の側頭部を穿つ。
何かが飛来してきた方へ視線を向けると、エイミーと他の冒険者達が集まっていた。今のは、エイミーが放った魔力弾だったのか。
「アラン、バート! こっちへ来て!」
エイミーの声を聞いた二人は、即座に駆け出す。
「ありがとう、エイミー。助かったよ」
「間に合って良かったわ。よく持ち堪えたわね。あとは皆で協力して、奴を討伐しましょう」
「あぁ、そうだな!」
「おう!」
気合いを入れ直した三人と他の冒険者の視線が、魔力弾を喰らってもなお無事な、未知の魔物へ集まる。
「おい、【看破】持ち! 奴はなんの魔物だ?」
「はい! 名称はオーク、レベルは14。所持スキルは……かなり多いです。スライムやゴブリン、ホーン・ラビットと同じスキル。それから【格闘術】や【身体強化】など、人間のスキルも所持しています!」
「……どういうことだ? オークは聞いたことがあるが、とんでもない巨体じゃなかったか? 付近に出現する狩場もないぞ。それに、なんで他の魔物や人間のスキルまで所持しているんだ?」
明らかになった魔物の情報を誰も理解できず、“未知”という恐怖が内心の不安をさらに煽る。
「それと、『物理攻撃力』が『92』と、100近いです。奴の攻撃には注意してください!」
次いで投下された情報に、冒険者達の足が竦む。この村にいる冒険者はほとんどがFランクで、『物理攻撃力』はおよそ『40』。
奴と比べれば二倍以上の開きがあり、決して油断できないと悟る。
「……皆、怖気付くな! ここで奴を食い止めなければ、家族や友人が殺されるぞ! 絶対にここで止めるんだ!」
この村でリーダー的な存在の冒険者が、大声で喝を入れる。皆、隣の仲間の表情を見て、お互いに頷き合う。
「「「「「おう!」」」」」
「よし! 盾持ちは前面に出て、姿勢を低くして盾を構えろ! 絶対に突破されるな! その後ろには、剣と槍を扱える奴らが並べ! 盾で奴を足止めしている間に、突き刺すように攻撃するんだ!」
「「「「「了解!」」」」」
「他の奴らは待機していてくれ! 状況が変わったら、すぐに指示を出す!」
「「「「「おう!」」」」」
全体に指示が行き渡ったタイミングで、奴は側頭部に受けた魔力弾の痛みを振り払うように頭を左右に振りながら、こちらへ視線を向ける。
「全員! 気を引き締めろ!」
この場のリーダーが改めて喝を入れると同時に、奴は人数差に怯むことなく「ブモォオオオオオ!」と雄叫びを上げ、物凄い勢いで突撃してきた。
前面で盾を構える者達が、その狂気じみた行動に息を呑む。直後、盾の上から凄まじい衝撃が伝わり、何人かは尻餅をついてしまう。
それでもなんとか耐えた者達が身を寄せ合い、強固な壁を形成。奴の動きが止まったところで、後ろに控えていた者達が剣と槍を突き出す。
顔面や胴体へ、剣と槍を何度も突き刺す。だが奴は、盾を執拗に殴り、剣や槍を払い除け、痛みを無視して噛みつこうとしてくる。
「ぐっ……硬ぇ!」
「全然刺さらねぇぞ!」
「どんだけ頑丈なんだ! クソが!」
浅い傷は増えていくものの、致命傷には程遠かった。
だが、小さな傷といえど、同時に何箇所も何度も刺されるため、感じる痛みは先程の比ではない。
「ブモ……」
思わず後退した奴の雰囲気は、まだ殺意の炎が燃えているものの、先程に比べて明らかに弱々しかった。
「よし! 奴は怯んだぞ! だが、油断はするな! 追撃はしなくていい! 今の戦法を何度か繰り返し、瀕死まで追い込んだら、一斉に仕留めるぞ!」
「「「「「おう!」」」」」
作戦が上手く機能し、形勢が有利になったことで、皆の表情も僅かに明るくなる。
次の突撃を待ち構えていると、奴は黄色く濁った瞳で俺達を見つめた後、周囲へ素早く視線を走らせる。
すると、ある場所で視線を止める。そのまま俺達を真っ直ぐ見据えながら徐々に後退し、十分に距離を取ってから、一目散に逃げ始めた。
「あ! こんのっ、逃す━━」
「止めろ!」
逃げ始めた奴を追おうと、一部の冒険者が陣形を崩す。
「おい、なんで止めるんだよ! 奴は手負いだぞ」
「だからだ。追い込まれた奴がどんな行動に出るか分からん。そもそも奴の方が格上なんだから、深追いする必要はない。それに――」
リーダーは、奴の逃げた方向へ視線を向ける。
「あの森は、ブラックウルフの縄張りだ。手負いの奴が生き残れるとは思えない」
それを聞いた冒険者達も、追うのを止めた。
「悪かったな。ちょっと熱くなっていた」
「気にするな。それより、皆! よくやった! だが、奴がまた村を襲う可能性もある。何日かは夜間も交代で見張りに当たるぞ! いいな!」
「「「「「おう!」」」」」
かくして村は、未知の魔物による襲撃を辛うじて退け、その危機を乗り越えた。
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