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いずれ全能の大魔王へ至る暴食者〜喰らった相手のスキルを奪い、襲い来る敵達を返り討ちにして世界最強へ〜  作者: 無名
第1章 暴食の魔王

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第10話 赤黒く染まる草原

 まだ太陽の位置が低い早朝、街道上を北へ向かって進んでいた俺は、ふと足元に視線を向ける。


 この街道を利用した者がいることを証明するように、馬車の轍や人間の足跡が刻まれていた。


 人間の痕跡を認識すると、無意識のうちに顔が強張ってしまう。


 今の俺は魔物で、人間にとって脅威の存在だ。しかも言葉を喋ることができないので、対話で相互理解に努めることもできない。


 それに人間と接触した場合、【暴食】がどう作用するか分からない。だからこそ、人間との接触は絶対に避けなければならない。


 ……腹が減ッタ。


 ……喉が渇ク。


 ……腹が鳴ル。


 なぜか、人間のことを考えた瞬間、【暴食】の衝動が少し強くなった気がした。


 (ふぅ……今は衝動に呑み込まれるわけにはいかない。意識を切り替えよう)


 街道を利用しているため、思いがけない接触が想定される。俺は【気配察知】で前後の気配を探りつつ、目視で前方を注視する。


 ゴブリンが生息する森を抜けると見晴らしが良くなり、街道の左右には微風に揺られる草原が広がった。


 冷たく澄んだ空気を肺いっぱいに吸い込み、頬を撫でる微風を心地良く感じながら、遥か遠くに連なる山々やサラサラと音を奏でる草原など、異世界の風景を目に刻む。


 一度も魔物や人間と遭遇することなく街道を進んでいると、遠方に建ち並ぶ家屋のようなものを発見した。


 (まさか……)


 俺は歩行速度を緩め、遠方の家屋を注視しながら、ゆっくりと距離を詰めていく。


 距離が縮まるたびに輪郭がはっきりしてきて、家屋の周囲を取り囲む木柵や家畜、煙突から立ち昇る煙など、人間の生活様式が明確に認識できるようになった。


 (……このまま街道上にいたら、村人に発見されるかもしれない。一度草原に降りた方がいいな)


 とは言っても、草花の背丈はスライムが生息する草原と変わらないので、姿を完全に隠すことはできない。


 なので俺は、身を屈めながら村の方へ近づいていく。


 街道は村の中へ伸びているので、今いる草原を通って迂回し、向こう側へ進まなければならない。


 息を殺して慎重に進んでいると、【気配察知】が背後から接近する気配を捉える。素早く後ろへ振り返ると、人間━━ではなく、一匹の兎だった。


 しかし一般的な兎ではなく、額から先端に向かって鋭く尖った角が生えていた。


 ピョンピョンと軽く跳躍しながら接近してきたかと思うと、少し手前でより深く屈み、勢いよく跳躍。


 俺の顔面の高さまで軽々と跳び上がると、角で串刺しにしようと迫ってくる。俺は慌てて顔を逸らすが、角の先端が頬を切り裂いた。


 頬を掌で押さえながら振り向くと、兎は軽快に着地し、こちらへ向き直る。


 お互いの視線が交差する。


 俺は即座に【看破】を発動し、対象の情報を詳らかにする。


━━━━━━━━━━

(簡略ステータス)

・ホーン・ラビット Lv.5

・平均能力値 19

・所持スキル 【角突撃】【危険察知】【跳躍】【逃走】

━━━━━━━━━━


 名称は『ホーン・ラビット』。レベル『5』で平均能力値は『19』━━ゴブリンと同等の強さだ。


 所持スキルの中で警戒しなければならないのは、【角突撃】。


 ホーン・ラビットが再び軽く跳躍しながら近づいてくると、より一層深く屈み、力一杯跳躍。


 今度は動きをしっかりと認識していたので、余裕をもって攻撃を回避。そのまま着地後のホーン・ラビットを捕まえるため、飛びかかる。


 「キュッ!」


 真っ白な毛皮で覆われた丸い身体を両手で鷲掴みにすると、ホーン・ラビットが驚きと苦しさで鳴き声を上げる。


 小さな足をバタバタさせて悶くホーン・ラビットを口元へ運び、勢いよく齧り付く。肉や骨、頑丈そうな角までも噛み砕いて、ゴクッと飲み込む。


 『【角突撃】Lv.2を獲得しました』


 『【危険察知】Lv.1を獲得しました』


 『【跳躍】Lv.2を獲得しました』


 ……満たされない。


 ここまで渇きと食欲に耐えながら来て、ホーン・ラビットを見た瞬間、ようやく満たされると思ったが……。


 すでにゴブリンとその上位種を喰らったためか、同等の存在では物足りないようだ。


 そうなると衝動を鎮めるためには、狩場の魔物をある程度喰らい尽くし、上位種を誘き出すしかない。


 (ついでに、【角突撃】【危険察知】【跳躍】のレベルも上げないといけないからな)


 俺はさらに強くなった衝動を鎮めるため、また未所持スキルのレベルを上げるため、【気配察知】で周囲の気配を探りながら草原を駆け回る。


 だが【危険察知】が厄介で、背後から息を殺して接近しようとしても、身の危険を察すると直前で跳躍して逃げ始める。


 ただ移動速度は俺よりも遅いため、二度目は確実に捕まえ、口元から血を垂らしながら骨ごと噛み砕いて貪る。


 (こんなんじゃ、全然足りない。もっと、もっと喰わナイト……)


 徐々に理性が侵食され始め━━そこからは、無我夢中でホーン・ラビットを追いかけ回し、次々と喰らっていく。


 ━━10匹目。


 『【角突撃】Lv.3にUPしました』


 『【危険察知】Lv.2にUPしました』


 『【危険察知】Lv.3にUPしました』


 『【跳躍】Lv.3にUPしました』


 白い獣毛と血痕が点々と散らばる。


 ━━50匹目。


 『【角突撃】Lv.4にUPしました』


 『【危険察知】Lv.4にUPしました』


 『【跳躍】Lv.4にUPしました』


 口元から滴る血が草花を赤黒く濡らしていく。


 ━━100匹目。


 『【角突撃】Lv.5にUPしました』


 『【跳躍】Lv.5にUPしました』


 俺の踏み荒らした足元には、白い獣毛とホーン・ラビットの血が広がり、草原が白と赤の絨毯へと変わっていた。


 100匹目を討伐しても、衝動が鎮まることはなかった。先程よりは軽減されたが、まだまだ足りないと衝動が喚く。


 そして、ホーン・ラビットの生息数が減った狩場で次の個体を探そうと一歩踏み出した時━━【気配察知】が背後に気配を捉える。


 振り向いた瞬間、ホーン・ラビットよりも強い気配を纏う獲物を見つけ、俺は思わず不気味な笑みを浮かべていた。

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