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やり直し令嬢は、断罪の舞台を「密室」に変える 〜証拠不十分で婚約破棄は成立しませんわ〜  作者: 和三盆


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第9話:沈黙の告発

 それは、あまりにも静かな事件だった。


 悲鳴はない。

 血痕もない。

 犯人を示す証拠も——一切、表に出なかった。


 だが私は、その報告書を読んだ瞬間、確信した。


(……これは“事故”ではありませんわ)


「馬車の車輪が外れ、

 御者が制御を失いました」


 王都警備隊の報告は、簡潔だった。


「幸い、

 同乗者に死者はなし。

 軽傷のみです」


 私は、書類から目を上げる。


「その“同乗者”というのは?」


「……エレーナ様の侍女です」


 部屋の空気が、わずかに冷えた。


(来ましたわね)


 直接狙えば目立つ。

 だから——周囲から削る。


 古典的で、実に王宮的。


 ベッドに横たわる侍女・マルタは、

 包帯を巻いた腕を胸元に寄せていた。


「お嬢様……

 ご迷惑を……」


「謝る必要はありません」


 私は、静かに椅子に座る。


「ですが、

 一つだけ聞かせてちょうだい」


 視線を合わせる。


「本当に……

 何も気づかなかった?」


 マルタの指が、わずかに震えた。


「……出発前に」


 彼女は、声を落とした。


「馬車のそばで、

 知らない貴族の方が……」


「どんな方?」


「顔は、覚えていません。

 でも……」


 彼女は、唇を噛む。


「王宮の紋章入りの指輪を……」


 私は、目を伏せた。


(なるほど)


(沈黙の告発ですわね)


 証言すれば、

 彼女自身が消される可能性がある。


 だから、ここまでしか言えない。


「馬車の点検記録は?」


 執事に問いかける。


「異常なし、とのことです」


「ええ。

 “点検時には”でしょうね」


 私は、淡々と続けた。


「車輪の固定金具。

 あれは——」


 一拍。


「走行中に外れるよう、細工できます」


 執事が、息を呑む。


「それも、

 事故にしか見えない程度に」


(殺す気はない)


(ですが、

 黙らせるには十分)


 私は、考えをまとめる。


「第一王子派……

 あるいは、王弟派の過激分子」


 どちらにせよ——

 これは、宣戦布告だ。


 その夜。


 私は、机に向かい、

 一通の文書を書き上げた。


 宛先は、王都評議会。

 名義は——匿名。


 内容は、簡潔。


「近頃発生している“事故”の裏に、

 政治的圧力の可能性あり」


「調査対象として、

 王宮関係者を含めるべき」


 ——沈黙を、沈黙で返す。


 それもまた、告発だ。


 翌日、アルノルト王子が訪れた。


「……聞いた」


 彼は、苦い顔で言う。


「君の周囲で、

 “事故”が起きているな」


「ええ」


 私は、否定しない。


「忠告だ」


 彼は、低く言った。


「今は、

 表立って動くな」


「……論理を、引っ込めろと?」


「命を守れ、と言っている」


 私は、しばらく考えた。


「ご心配は、感謝いたします」


 私は、穏やかに答えた。


「ですが、

 私はもう——」


 一拍。


「沈黙する側には戻れません」


 アルノルトは、何も言わなかった。


 ただ、その目に、

 覚悟を見た。


 王都の裏通り。


 誰かが、低く笑う。


「……脅しは、通じなかったか」


「ええ。

 むしろ——」


 別の声。


「火をつけた」


 静かな夜に、次の一手が、密かに準備されていた。

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