表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界行っても料理する ~料理して材料集めてまた料理~  作者: デビルぱんだ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

65/70

六十五話 狩りと仕込みと包丁

 新店舗『定食屋 つむぎ』を開店してから早いもので数日が経過した。最初のあの怒涛の狂乱から始まった営業だったが、おかげさまで店は連日大盛況、行列が途切れることはない。

 最初の夜の反省会で浮き上がった改善点は日を追うごとに解消されてきている。三人とも意識しつつしっかりと仕事をしてくれている。


 こんな風に店が順調に回り出した中、今日は俺が決めた「仕入れの狩りの日」だ。俺はまだ朝霧の立ち込める薄暗い時間から一人で森まで足を運んでいた。


「よし、今日も気合を入れていくか」


 森に立ってからの狩りは驚くほど順調だった。

 しかし、店のメニューをさらに充実させるためにもう少し上質な肉を求めて、俺は普段よりも少しだけ「森の深いところ」まで足を進めていた。

 周囲の木々が巨大になり、差し込む朝日の光が遮られて薄暗くなった、その時だ。


――ピキィィィン……!


 一瞬、周囲の空気が凍りつくような異様な感じが肌を刺した。ただの凶暴な魔物とは違う、冷徹で知性すら感じさせる圧倒的なプレッシャー。


 カサリ、と前方の巨大なマナの樹からそいつが静かに姿を現した。

 現れたのは全身が水晶のような透明な鱗で現れた、美しくも禍々しい大蛇――「クリスタル・バジリスク」だった。体長は十メートルを超え、その頭には王冠のような光り輝く角が存在している。


「……おいおい、ツインヘッドの次は水晶のヘビかよ。開店祝いにしてはちょっと刺激が強すぎないか?」


 俺は腰のナイフの柄をしっかり握り締めた。

 クリスタル・バジリスクの四つの目が妖しく発光した。嫌な気配で一歩後退した瞬間、俺の足元の草がサラサラと灰色の石へと変わっていく。


「……まじかよ。あの視線に注意しろってか……!」


ズシャァァァッ!


 大蛇の巨大な尾が早い速度で俺のいた場所を薙ぎ進んだ。風圧だけで皮膚が裂けそうな一撃を俺は紙一重で上空へ飛んで躱す。


「――チッ、さすがに速いな!」


 巨大な尾が連続で襲ってくるし、隙があると石化の眼を使ってきて石化されそうになる。ギリギリで躱してはいるがこのままでは体力が尽きてしまう。

 俺は空中で身をよじりナイフを構える。


「長引けば石化されて終わりだ……!一撃で決める!」


 着地と同時に俺は一気に床を蹴った。大蛇が再び石化の眼を立ち上げようと頭を上げたその瞬間、俺は敵の死角である顎の下へと滑りこんだあとにナイフを上方に位置する脳天へと向かって突き上げた。

 その一撃はクリスタル・バジリスクの強固な結晶の鱗を貫通したあと上に向かって切り裂く。まだしぶとく生きていたが切り裂いたところの反対側をさらに断ち、完全に頭を落とす形になった。その巨体はビクビクと動いた後に静かに崩れ落ちた。


「……はぁ、はぁ。……流石にちょっと大変だったな。石化の眼は心臓に悪い」


 俺は横たわる大蛇を見つめた。不気味な魔物ではあるがその傷口から溢れる肉は不思議なことにまるで最高級の地鶏か大トロのように白く透き通り、上品な脂の輝きを放っていた。


「……待てよ。これ、もしかして……美味いんじゃないか?いや、虎の前例があるからわからんな……どちらにしても持ち帰るしかないか」


 俺は丁寧にその巨体をアイテムボックスへ収納すると心地よい疲労感とともに森を後にした。


 王都に戻った俺は店へ行く前に、下町の鍛冶職人街にあるバルトの工房まで居た。カン、カンと響く鼓動の中で俺が顔を出すと、バルトは汗だくの体で満足そうな笑みをこちらに向けてきた。


「おう、カケル!約束のモノ、できてるぜ!」


 バルトが作業台の上に置いたのは、二つの美しい木箱だった。そこには俺が渡したアイリスとルナの手のデータに合わせて作られた完璧なバランスの包丁が留められていた。


「こっちがアイリスの嬢ちゃん。芯を強くしたから重さも多少あるが、しっかり使えるはずだ。で、こっちがルナの嬢ちゃん。少し重心を前に持ってきてあるから手首に負担をかけずに使える」

「素晴らしいよ、バルト。これなら二人の腕が何倍にも活きる。本当にありがとう」

「気にすんな、お前の店の料理をあの二人が支えるんだろ。また美味い賄いでも持ってきてくれりゃあそれで十分だ!」


 バルトとしっかりとした握手をして俺は包丁を大切に抱いて店舗まで向かった。


 店に到着するとアイリス、ルナ、セリアの三人が仕込みの準備や明日のための軽い掃除をしていた。


「あ、カケルさん!おかえりなさい!」


 ルナが元気よく出迎えてくれる。

 

「……実は仕込みをする前にアイリスとルナに渡すものがあるんだ」


 俺がそう言って木箱を差し出すと、二人は目を輝かせた。


「えっ……!これって、包丁ですか!?」


 アイリスが驚いた表情で包丁を見つめる。


「そうだ。包丁は自分に合ったものじゃないとやはり使いにくいところがある。これはバルトにお願いして二人専用で作ってもらった。一人前の証、というわけではないがこれからも頑張ってくれってことでプレゼントだ」

「すごいです!今まで使っていた包丁よりも持ちやすいですし手に馴染みます!カケルさん、ありがとうございます!私、これで明日からもっと美味しい料理のサポート頑張ります!」

「よし、その新しい相棒を使って早速仕込みを始めよう。……実は今日、森の深いところで面白い魔物を狩ってきたんだ」


 俺が厨房の大きな解体台に取り出したのは、クリスタル・バジリスクの肉の一部だ。


「ひゃあ……!なんですかこれ、透き通っててすごく綺麗……」


 ルナが驚きの声を上げる。


「バジリスクなんだが、こいつはクリスタル種だ。外皮や鱗も綺麗だけど肉もこの通りさ」


 俺はアイリスとルナの新しい包丁の切れ味を試すことも兼ねて、肉を切り分けさせた。

 切り分けた肉一枚を、まずはシンプルに塩だけで素焼きにしてみる。フライパンの上で上品な白い脂がパチパチと弾け、厨房の中にまるで高級な地鶏を炭火で焼いたような濃厚な香ばしい匂いが漂った。


「よし、食べてみよう」


 俺たちは焼いたバジリスクの肉を口に運んだ。


「なんですの、この歯ごはえ……!噛めば噛むほど白身魚のような上品な愛らしさと、極上の地鶏のような濃厚な旨味が溢れてきます……!」


 アイリスがその美味しさにびっくりして目を丸くしている。セリアも一口食べて「……信じられん。先日のタイガーの肉とは格が違う。脂が全くくどくなく、口の中すっと溶けてゆく……。これは至高の食材です」と大絶賛だった。


 この前の虎の肉は脂が強すぎて店では出せなかった。しかしこのクリスタル・バジリスクの肉は完全に別格だ。旨味も濃厚だし後味が驚くほど爽やかで、いくらでも食べられてしまう。


「決まりだ。この肉なら店のメニューとして自信を持って出せる。……よし、明日の営業で『一日限定・白竜肉の塩焼き定食』として、数量限定で出そう!」

「白竜肉、ですか?」


 ルナが首を傾げる。


「バジリスクってそのまま書くと、普通の客は注文しづらいだろ?見た目も綺麗だし、ちょっとハッタリを利かせた方が冒険者たちも喜ぶさ」

「それは素敵なアイデアです。お品書きは私が心を込めて綺麗に書きますね」


 俺の提案にアイリスも賛同して微笑んだ。


 新しい包丁を手に入れたアイリスとルナの手際は昨日までとは比較物にならないほど進化していた。

 バジリスクの仕込み、そしていつもの唐揚げやトンカツの仕込みも驚くほどのハイスピードかつ完璧なクオリティでできた。


「みんな、今日もありがとう。明日は限定メニューもあるし、最高の営業をしよう!」

「「「はいっ!!!」」」


 三人の頼もしい返事を聞きながら、俺は厨房を見渡した。最高の道具、最高の仲間、そして最高の食材。全部が揃った『定食屋 つむぎ』の明日の朝が待ちきれなかった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ